カードは揃った。運命の決戦は近い。

 ***


 二曲プラスアンコールで計三曲。余計な音を加えない弦を掻き鳴らすだけの演奏会はひっそりとはじまって、密やかに終了した。


「さて、少し冷えてきた。風邪をひくとよくないから、もう戻ろう」


 駄々をこねる三姉妹をミソノと星、十六夜がなだめながら、帰っていく。スタードとザキも重たそうな腰を上げて室内に入って行った。俺はギターの弦を軽く手入れしてからケースにしまい、ファスナーを上げた。そこにエンが近づいてきた。


「シャドウさん。いい、歌でした。なんか一つになれた気がしました。それと、あなたにこれを」


 俺は見覚えのあるケースを受け取った。手の平いっぱいのサイズの紙製カードケース。普段と異なるのはケースの色が赤いということ。俺はエンに目線で了承を取ってから中身を取り出して検めた。


「タロットカード……?」


 絵札ばかりだったので俺はそう思ったのだが、よく見ると違う。魔法陣が書かれたものが多く、中には不死鳥のデザイン、特別大きくしっかりとした魔法陣。そして虎が二匹交差している絵柄。これまで様々な種類のカードを使ってきたが、俺が記憶している限りでは既存のカードの中にこのようなものはなかった。


「朱雀の魔法札です」


 朱の兵士はこのように語る。いつも笑顔で、ニコニコとしているエン。表情が笑顔のみという点では十六夜と同じ無表情だから、何考えてるんだか分かりづらい奴だ。


「シャドウさんが普段使っているカードとは、能力もその発動の系統も、創造主も異なります。簡潔に申し上げれば、その創造主は朱雀様です。朱の神である朱雀様。あなたはもう神の存在や、この世界の理論は既に把握しているでしょうから、説明は省きます。だから使い方だけ。そこに朱雀が書かれたカードがあるでしょう。虎の札と零式魔法陣のカードを使えば朱雀様を仮の形で呼び出すことができます。あなたがこれから相手にしようとしているのは、ずばり神様なので、これぐらいしないと対等には戦えないかな、と。我々はそう判断したのです」


「神……。姉さんはもう、神なのか……?」


 姉さんは神に近い存在、能力を得ているものだと思っていた。黒でも前線のトップを走っていたのだから当然のように想像できる。しかし、神そのものになっているとは想像していなかった。姉さんはもはや白そのものなのか?


「厳密には光さんは神様ではありません。白の神は別にいます。しかし、能力だけで言えばそれだけの物を持っておられます。委任、といえば分かりやすいでしょうか。この朱雀のカードもそれだけの力を秘めている。これ以上の説明は不要でしょう。うまく使いこなせても勝てるかどうかは、あなた次第だということをお忘れなく」


 エンは一礼してから室内に戻っていった。俺はもう一度今手にした神のカードを眺めた。神々しいというより、禍々しい雰囲気だと思った。


「朱雀はあくまで中立ってことか」


 エンからの贈り物をポケットに忍ばせ、能力でオリジナルとはきちんと分けてセットした。俺の次元にも限度はある。すべてのカードを一度の戦闘に使用できるわけではないが、これほど心強いものはない。俺はギターを背負いなおしてからどこかの学校の屋上にそっくりな扉を押し開けて室内に戻った。部屋に戻る前にミソノに会い、マザーから補充用のカードを渡されていたのを忘れていたというので受け取った。これはとても異常手段イレギュラーなことだと、思い改めて拳を握りしめた。普段であればこのカードは依頼人から金銭の代わりとして俺に渡されるもの。これを入手するのにどれだけの試練が課されているのか、誰から受け取っているのか、それともマザーが直接出向いて渡しているのか。さっぱり見当もつかないがこのカードは依頼人から受け取るのが常。この場合だと、加賀山星ってことになるのか。


 今後を左右する分岐点に俺は今いる。カードは揃った。運命の決戦は近い。

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