おいてきぼり

ああ、私は走って走って

どこかに行こうとしていたのに。


途中でコケて、怪我をした。


私がベッドの上で磔(はりつけ)られている間に

みんなは遠くへ遠くへ行ってしまった。


そして今、ようやく私がベッドの上から降りた時、

遠くから声が聞こえてきた。


「今まで何してたの?」「何でそんなところにいるの?」


ああ、ああ、

私はおいてきぼり。


ああ、ああ、

必死に走った、おいてきぼり。


みんなヒソヒソ私のことをせせら嗤(わら)う。


ああ、ああ、

私がこんなに惨めで


ああ、ああ、

全ては意味を失い。


おいてきぼりの私は、

おいてきぼりにされた私を抱きしめて

ずっとずっと泣いていた。


ベッドの上から降りなければよかったのに。

走ったりしなければよかったのに。


後悔は私の心に追い討ちをかける。


ああ、ああ、

死んでしまいたい。


ああ、ああ、

消えてしまいたい。


これは、この人生は

とてもとても悪い夢で、

目を覚ませば、思い切り走っていた

あの頃に戻れればいいのに。


もう私には何も無い。


また遠くから声が聞こえてきた。


「今まで何してたの?」「何でそんなところにいるの?」


そんなの、わからないよ。

そんなの、こたえられないよ。


今が今が、私を苦しめる。

今が今が、私を惨めにする。


でも、この今は、もう私にはどうしようもできない。

もし何かできるとしたら、

明日を創ることだけ。


「今まで何してたの?」「何でそんなところにいるの?」


そんなの、わからないよ。

そんなの、こたえられないよ。


でも、

『今、明日を創っているの。』

『だから忙しいの。』


もう、おいてきぼりは嫌なの。

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