第229話 ■千織の転生 (タイ編 その32)
■千織の転生 (タイ編 その32)
秀一は持って来た大きなケースの中から、損傷が想定されるパーツを取り出し順番に並べた。
穴が開いた人工皮膚は、一度本国に帰らないと本格的な修復は出来ない。
兎に角、自分で動けるように応急修理をする事が先決であった。
メスに似た工具で人工皮膚を切り取り、順番に部品を交換して行く。
腹部(肝臓部分)には、高性能バッテリーが入っている。
此処を弾が貫通したので、補助バッテリーのみになり、駆動系に電力が回らない状態だった。
胸部(心臓部分)は冷却用の循環装置が納まっている。
ここを損傷すると体内部に熱が籠り、電子回路が熱暴走を起こす可能性が高くなる。
一応、二重系になっているのだが、腹側と背側の同じ位置に並べて配置した設計がまずかった。
機械の故障のみを想定していたが、この部分は2つとも弾が貫通していたのだ。
基本は未来も同じ設計となっている。
また改良しなければならない事が増えてしまった。
そして最後は電子頭脳である。
ここは未来と違って千織の霊体と融合するための特殊な部品が取り付けられている。
奇跡的にこのパーツは無傷であったので、電子頭脳本体を交換してから接続し直した。
記録(記憶)装置は、特殊合金のカバーで密閉されており、フライトレコーダー並みの強度がある。
仮にココに弾が当たっても、なんとか損傷は防げたであろう。 外観が無傷だったので、起動後に確認する事にした。
2時間ほどで、一通りの部品交換と人工皮膚の応急措置が終わり、ちょっと見は元通りになった。
秀一は、大きく深呼吸すると外部起動用のリモコンスイッチを鞄から取り出した。
「さぁ、再起動するぞ!」
その声に秀一の助手をしていた未来も神妙な顔で頷く。
カチッ
秀一が起動用の赤いボタンを押す。
キュゥーーン
全員が静かに見守る中、起動にかかる僅かな時間だけ、駆動系の音が聞こえる。
体内部には、様々なノイズに対応するため、逆位相の音を出す装置が駆動系に合わせ、何か所かに取り付けられている。
そのため起動後は、ほぼ無音となるのだ。
千織の目がゆっくりと開いて行く。
両手をベッドについて、静かに起き上がる。
「現在、自立モードで起動中です。 セルフチェックを開始します」
感情のこもらない千織の声が、処置室の静寂の中に伝わった。
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