第186話 ◆薔薇ローズパニック

◆薔薇ローズパニック


ミキは久しぶりに人間界に戻ってきていた。

とは言え、時間は向こうの世界へ移動した直前に戻って来るため、何だかもの凄く疲れた気になる。

休んでいるはずなのに休んだ気がしない。


でも、こっちの世界は大カマキリや変な女神様もいないし、やはり平和でいいなぁと思うのであった。

ミキは神様の力を手にしたが、この力を迂闊に使ってしまったがために、大変な事件に巻き込まれてしまった。

そこでミキは、こっちの世界では、力は封印することに決めたのだった。


「普通の女の子に戻りたい!」

まさに、あのキャン○゛ーズの有名なセリフそのままの心境である。


今日は、愛用の化粧品が残り少なくなったため、愛車レガシィーで行き付けのデパートへ買い物へ行くことにした。

ついでに、食材もいろいろと仕入れておきたい。

買い物の品が多い時、ワゴン車は本当に便利である。

それに今日はミキ一人のため後部座席は折り畳み、ラゲッジルームも広くしてある。

これなら相当な量の買い物をしても、大丈夫であろう。


デパートに着くと、まずは一階の化粧品売り場に直行する。

ここのデパートは、以前ファンデーションのCMに出演した時、キャンペーンで来ていて売場のマネキン(販売員)さんとも仲良しなのだ。

だから芸能人であると言うことを意識しないでも済むし、VIPルームなる個室で対応をしてもらえるため、ミキはいつもココを利用している。

また、新製品が出ると自分の販売担当日のメールもくれるのだ。


「ミキさま、お久しぶりですぅ」

顔見知りのマネキンさんが手を振って愛想よく迎えてくれる。

「うわぁ、日焼けすごいねぇ・・」

マネキンさんの顔は、ウーロン茶みたいな色になっている。

「えへへ、先週末に彼氏と海に行ってきたんです。 親には内緒で1泊してきちゃいました♪」

「へぇーー やるぅーー!」

ミキは笑って答えるが、もしルナが彼氏と外泊したらヤダなと思う。


「そう、そう。 ミキさん新しいコロン試してみます? すっごくいいですよ。 超お奨め品です」

「へぇー どれどれ?」

「これですよ。 入れ物もカワイイでしょ」

シュッ

マネキンさんがコロンをミキの腕に、軽く一吹きする。


ぐっ

ミキは、その香りを嗅ぐと急に気分が悪くなり、吐き気までする。

そう、そのコロンはローズ(薔薇)の香りがしたのだ。

コロンの容器の中には、淡いピンク色の液体が揺れている。

ミキは、頭がくらくらして、とうとうその場にしゃがみ込んでしまった。


「だ、大丈夫ですか?」

マネキンさんが、大慌てで近寄ってくるが、コロンのビンも一緒に持ってくる。

「わーーっ。 こっちに来ないでぇーーーっ」

ミキは、薔薇の棘に全身を引っかかれた時の生々しい記憶が甦り、パニックになる。

マネキンさんは、あっけに取られて、その場にただ立ちすくみ見ていたが、やがてコロンの香りが原因であることに気が付く。


「す、すみません。 もしかして、この香りがお嫌いだったんですね」

「ご、ごめんね。 薔薇には嫌な思い出があって・・・」

「もうしわけございません。 わたしが先にミキさんに確認すれば、よろしかったんです」

「あー。 ほんとにごめん。 もう大丈夫だから気にしないで」

そう言いながらも、ミキの背中に嫌な汗が流れる。


この後、必要な化粧品を買い、マネキンさんに気にしないように、もう一度伝えて、気分直しに屋上で涼しい風に当たりながら、ソフトクリームでも食べようとエレベーターに乗り込んだ。

開店から間もない時間のため、1階からエレベーターに乗り込んだのはミキ一人だけだった。

途中の階も止まらず、エレベーターの’R’の表示が光る。


ガァー

エレベーターの扉が開くと目の前には子供広場が広がり、ソフトクリームやクレープ、たこ焼などのお店もある。

食いしん坊のミキとしては、このデパートに来た時は必ず立ち寄る憩いの場所なのである。

ただし、今日は特別催し物としてガーディニング・フェアが開かれており、結構な人で賑わっていた。

ミキは、チョコとバニラのダブルソフト(特大)を舐めながら、そのガーディニング・フェアを見てまわることにした。

屋上には爽やかな風が吹いてくる。


ミキは空いているベンチに腰をかけて、小さな子供達がはしゃぐ姿をみながら自分もいつかは子供を生むのかなと思った。

もちろんルナのように簡単に生まれるはずは無いのだろうけど・・・

そんな事を考えていると、そよ風にのって、あのおぞましいローズの香りがしてきた。

そう、屋上ガーディニングの展示物の中には、薔薇の花も沢山あったのだ。

ミキは、あの時の記憶が生々しく甦り、気分が悪くなってしまった。

動けずに真っ青な顔をしてベンチでぐったりしていると、急に目の前が暗くなる。

静かに目を開けると、ミキの前に一人の女性が立っていて、その影で陽が遮られて目の前が暗くなったと感じたのだった。

「ハ~イ。 アタシ、キャサリン。 アナタ顔の色悪いネ。 ダイジョブアルカ?」

怪しい・・・見た目は金髪フランス人、名前はアメリカ人、洋服はセーラー服、しゃべり方は中国人風。

いったいこの娘は・・・


次回、「謎の女・キャサリン(その1)」へ続く

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