第157話 ◆ルナ・パニック

◆ルナ・パニック


さて、ルナの初仕事であったショッピングモールのモデルのポスターが全て剥がされ持ち去られるという前代未聞の事態となっていた。

このポスターを見た人は、胸がキュウゥンとなるか、ズキューーンとなるか、はたまた幸福に満ち足りた感じになるため、剥がして家に持ち帰りたくなってしまうのだ。

この事件は最初、テレビや新聞で小さく報道されたのだが、ポスターを持ち帰った人の家に来た友達通しの間で奪い合いの事件になったり、もともと勝手に持ち去った物なのに更にその盗難事件が相次いだりで、だんだん騒ぎが大きくなってしまった。

「ミキちゃん・・・わたし、やっぱりこっちの世界に来てはいけなかったのね。 わたしの所為で揉め事が沢山起きるなんて・・・」

ルナは、しんみりと言う。

そうとうに傷ついているようだ。


「ルナ・・・気にする事は無いよ。 愚かなのは人間なんだから」

「でも・・」

「お母さんが、あなたのこれからの仕事のやり方を考えてみるから」

・・・

・・


♪♪♪ ♪♪♪

ミキの携帯にメールが着信する。

『三崎です。 ルナさんのモデルやテレビの出演依頼、CMのオファーなどが連日のように来ていて、仕事になりません。 助けてください!』

「あちゃー、更に大変なことになってるよ」

ミキはメールを読むと頭を抱えた。

ピッ

「あっ、三崎マネージャ? あたしミキです。 メール見ました。 大変な事をお願いしてすみませんでした。 この騒ぎが治まるまで、ルナはしばらく活動を休止する事にします。 プロフィールとかは、謎のままとしておいてください」

そう一方的に電話をするとミキは大きく深呼吸し、ある場所へ瞬間移動した。

      ★

ほのかに甘い香りがする心地よい風が吹いている。

辺りには綺麗な花が一面に咲いている。

そう、ミキは再び天上界へ来ていた。

正直、ミキは神様に会いたくなかったし、恐ろしかった。

もしかしたら、ココで石にされて二度と地上に戻れないかもしれない。

でも、娘の幸せのためには、神様に是非お願いしなければならない事があった。

ルナには女神様としての力が宿っているため、写真や映像にもそのパワーが影響し、人々の心を必要以上に引き付ける。

また、その力には人々に幸福感を与えるため、一種の麻薬のような効果があるとミキは思っているのだ。

この力を神様にお願いして、無くしてもらうことができないかとミキは考えたのだった。

ミキは神殿内部に、直接瞬間移動する勇気が無かったので、東の神殿の近くの湖の畔ほとりに降り立った。


はぁ~

ため息を一つ吐き、これからどうやって神様にお願いをしようかと考え始めたが、数分後。

zzz・・・

あまりの心地よさに、ミキは早速居眠りを始めた。

こっくり、こっくり

ミキが船を漕いでいると、急に顔をペロペロ舐められた。

「わわっ!」

見ると目の前に、白い犬(神様)が、ちょこんと座っていた。

サーッ

ミキの顔から音を立てて血の気が引く。

「あ・・・あ・・」

ミキは、ビビッて言いたい事が声にならない。

「君がココに来た理由はわかっている」

「えっ? そうなんですか?」

神様が怒りモードでは無いようなので、ミキも少し落ち着きを取り戻した。

「君が娘を想う気持ちには感謝している」

「およっ?」

ミキは予想外の神様の言葉に思わず変な声をあげる。


「ただし、残念ながら願いを叶えることは出来ない」

「どうしてですか?」

「それは、セレーナー本人の問題だからだ。 人も神も一人前になるためには、いちいち親や人に助けてもらってばかりではいけないだろう。 今回の件もセレーナー自身がどうすれば良いか考えて行動するべきなんだ」

ミキは神様の言葉に、しばらく俯いて考えていたが。

「さすが神様。 やっぱり良いことを言うネッ!」

ミキは白い犬(神様)を抱きしめ、頭を撫でてあげた。

ミキは神様が白い犬の姿の方が好きだなと思った。

白い犬は目を細めている。


「でも、この問題はルナに解決することが出来るのかな・・・」

ミキは白い犬の耳元でぼそりと呟いた。

ミキが瞬きをした次の瞬間、もうミキはリビングに戻っていた。

そうやら神様に強制的に送り返されたようだ。

目の前には、ソファに座っているルナが居る。

ルナの目からは、全てを理解していると言う意思が伝わってくる。

ミキはルナの目を見ながら黙って頷いたのだった。


次回、「女神パワーを封印しろっ!」へ続く

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