泣きながら歩けばいい


私は、

子供の頃から泣き虫だ。


絵本を見ては「可哀想かわいそうだ」と泣き、

音楽を聞き「すごい」と感動しては泣き、

ニュースをては「ひどい」と怒っては泣き。


あまりに泣くので、

いつも弟に揶揄からかわれては大喧嘩げんかになり、

母に止められるまで取っ組み合いをしていた。


だから成長して大きくなるにつれて、

私はこのゆる涙腺るいせんが嫌いになり、


「泣かなくなる方法は無いか」


こらえる方法を探したりもしたのである。




そんな思いをかかえたまま成長した私は、

ある日、偶然ぐうぜん居合いあわせたつるぎさんに相談したのだった。


「泣かなくなる方法はないですか?」と。


すると、彼は不思議そうな表情をした後、


「何でそんな方法を探してんだ?」


と聞いてきた。


そこで私は積年せきねんの悩みを打ち明けたのだが、

彼から返ってきたのは予想もしない答えで。




「別にいいんじゃね?我慢がまんしなくても。


・・涙脆なみだもろいって事は、

他者に共感出来る優しさを持ってて、

色んな出来事を純粋に受け取れるって事だ。


子供の頃、人間はみんなそうなんだが、

大きくなるにつれて変わっていっちまう。


成長しても涙脆なみだもろいのが変わらないって事は、

誰かの痛みや悲しみを自分の事の様に受け取れる、

良い年齢としのとり方をしてるって証拠だ。


だから、そのままでいい。」



・・そんな風に考えた事の無かった私は、

その言葉に物凄ものすごく驚いたのをおぼえている。


何となく心が軽くなった気がして、

静かに涙を流す私に、

彼は苦笑しながらポンポンと肩を叩きながら続けた。




「泣くのは悪い事じゃねぇ。


本当にダメなのは、

泣いてその場にまっちまう事だ。


涙を流したままでも足は動く。


だから、歩く事を止めるなよ。」





悲しみはえないし、

さびしさも消えないけれど。


泣きながらでも、

まだ動く事はできるから。


だから、

涙をながしたままで歩いて行こう。




もっとずっと年齢としを重ねた後、

君の側にいられる様に。

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