私とイソップ童話


イソップ童話に


『よくばりな犬』


という話がある。


これは、

大きな肉をもらってご機嫌きげんな1匹の犬が、

橋を通りがかった事から始まるお話だ。


犬は橋を渡る時に、

川に自分と同じ様に肉を持った

1匹の犬がいる事に気が付く。


「あっちの肉の方が大きそうだ。」


そう思った犬は、

えて相手をおどかし、

その肉も手に入れようと考えた。


そこで犬は川の方に身を乗り出し


「ワン!」


える。


しかし、

川に映っていたのは自分の姿だったので、

くわえていた肉を落としてしまった。


肉は当然川の中へ。


犬は欲張よくばったばっかりに、

ごちそうの肉を失ってしまう。


つまりこれは、


欲張よくばれば、全て失う事になる。」


といういましめだ。



そして今、

目の前で似たような出来事が起こっている。



先程さきほど

私は黒之介くろのすけに新しいおもちゃを

土産みやげとしてあげた。


彼のお気に入りの、

音の鳴るカラフルなボールである。


「あたらしいぴっぴぼーるさんだー!」


尻尾しっぽを振りながらすごく喜び、

部屋の中を嬉しそうにけ回って、

元気よく遊んでいた。


しかし、

よほど気に入ったのか、

昼寝をする時も側に置き、

トイレに行く時もそれをくわえたまま。


しばらくそうやって、

ボールとずっと行動を共にしていた。



しかし今、

彼はとても悩んでいる。



水の入った、

入れ物の前で。


「・・。」


これにはもちろん、

黒之介くろのすけが飲むための水が入っている。


部屋中を走り回って遊んでいた彼は、

のどかわいて水を飲みに来たらしい。


しかし、

それでもボールを離すのが嫌で、

どうするべきか考えているようだった。


(どうするんだろう?)


と、その光景を偶然ぐうぜん見かけた私は、

彼がどう行動するのかを観察している。


「・・。」


やっぱり水が飲みたかった彼は、

それでもボールを離さない。


ボールをくわえたまま、

そーっと入れ物に口を近づけ飲もうとし、


「あっ!」


失敗して、

入れ物の中にボールを落とし、

「クーン」と鳴いて項垂うなだれている。


(イソップ童話の犬みたいな結果だけど。)


欲張よくばりというより、

ただ可愛かわいいだけでした。




その後、

困っている彼を助けるため


私は、

ボールを取ってタオルでキレイにき、

水を新しく入れ替える。


それらを全部済ませた後で、

ずっと側で静かに待っていた彼に、

水気がとれたボールを返してあげた。


「ありがとう!」


「今度は、

ちゃんと置いてから飲むんだよ。」


「うん!」


そう元気で、

良い子のお手本のような返事をしたのに


「あっ!」


彼は、

1時間後にまた同じ事をした。


水をちゃんと飲むまで、

取り上げるべきかとも考えたが


「ぼーるさん、おちちゃった・・。」


と落ち込む姿が可愛かわいかったので、

私はまたボールの救出に向かったのである。

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