赤さんと100円均一ショップ


何処どこかに出掛けていたせきさんが、

ビニールぶくろを片手に帰ってきた。


「あ、お帰りなさい。」


「ああ、ただいま。」


彼は私の顔を見ると、

ガサガサと音を立ててふくろさぐ


土産みやげだ。」


と、その中から市販の菓子を取り出し、

投げ渡してくれる。


「おっと!

・・これは。」


その菓子は、

私が以前このんでよく食べていた物だった。


しかし。


ある日、

突然店頭から姿を消してしまい、

それでもどうしても食べたかった私は。


遠くのスーパーや色々なコンビニ、

ショッピングモールの駄菓子屋などでも

探し回った。


だが、結局見つける事ができず、

仕方なくあきらめた記憶がある。


「これ、何処どこにあったんですか?」


「材料を買いに立ち寄った、

100円均一きんいつに売っていた。」


まだ沢山たくさんあったぞ。


そう言いながら彼は、

またビニールぶくろから不思議な形の道具と、

プラスチックの小さいぼうの入った箱を取り出した。


「それ、何ですか?」


道具やプラスチックぼうが何かわからず、

私はせきさんにたずねる。


すると、

彼はプラスチックぼうを道具に差し込みながら、

説明をしてくれた。


「これは、接着剤せっちゃくざいような物だ。

この道具でプラスチックをかし、

けたプラスチックで、

接着せっちゃくした物を固定する。


これで今度は、

取れずに上手く出来できるだろう。」


せきさんはそう言うと、

道具を手にリビングを出ていく。


気になった私も着いていくと、

彼は黒之介くろのすけのケージの前にやって来た。


そのまま床に座り込むと、

側に置いていた文字の形の木片もくへんに、

けたプラスチックを付け始める。


「それは?」


黒之介くろのすけのケージ用の表札ひょうさつだ。


自分用の表札ひょうさつを、

あの子が欲しがっていただろう?」


「そう言えば・・。」




この間、

表札ひょうさつを初めて見た黒之介くろのすけに聞かれたのだ。


「ここについてるのなぁに?」


と。


表札ひょうさつっていうんだよ。

このお家に住んでいる人の、

名前が書いてあるんだ。」


そう説明すると、


「ボクのおうちにもほしい!」


と、

ケージに表札ひょうさつを付けて欲しいと

強請ねだられたのである。


「その話を黒之介くろのすけから聞いて、

せきさん造る約束してましたね。」


「ああ。

しかし、接着剤せっちゃくざいが上手く付かなくてな。


困っていたら、

これを教えてもらったんだ。」


話しながらも彼は手を動かし続け、

可愛かわいらしい小さな木の板に、

準備していた全ての丸文字の木片もくへんを張り終えた。


「よし!完成だ!」


早速さっそくケージの入口の横に、

出来立できたての表札ひょうさつが取り付けられる。


パステルブルーにられ、

雲のよう可愛かわいい形をした木の板に、

しっかりと接着せっちゃくされた丸い文字が並んで


『くろのすけのいえ』


と、ケージの所有者名をげていた。


私から見れば十分な仕上しあがりなのだが、

製作者のせきさんは納得なっとくがいかなかったらしい。


「・・やはり、少し曲がっているな。」


・・確かに、

木の板の形は少しいびつだし、

文字の並び方も均等きんとうではないが。


がとうございます。

黒之介くろのすけすごく喜びますよ。」


表札ひょうさつ不格好ぶかっこう出来できに少々落ち込む彼に対して、

私は笑顔で礼を言う。


「そうだろうか・・?」


「はい。


だって、彼のために造られた、

世界に1つしかない表札ひょうさつなんですから。」


あの子は絶対、喜んでくれる。


そう確信かくしんしている私は、

大きな声で黒之介くろのすけを呼ぶのだった。



その直後、

呼ばれて走って来た黒之介くろのすけは、

出来上できあがったばかりの表札ひょうさつを見て


「ぼくのひょうさつだ!」


と、やはり大喜びで。


尻尾しっぽを振りながらうれしそうに、

せきさんに何度もお礼を言う。


そのたびに彼は、

同じくらいうれしそうな顔で、

黒之介くろのすけの頭をでるのでした。

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