第3話

 自称困り人だと言う少年の願いをきいてやることにした。

 まあ、実際に俺自身、昔いた世界には絶対に戻りたくないと強く感じたというのが一番の理由でもあるが……。

 そんなこんなで、少年がもともといた世界に行くことにしたのだが、いきなり問題の渦中に行ってしまってもより良い行動は取れない。そう思い、少年がもともといた世界がどんな場所なのか情報収集できる場所から始めさせてもらうことになった。

 それで今、山の中にあるログハウス風の建物。

 どうやら別の世界に行くというのはとても体に負担がかかるらしい。こっちに来て一週間ぐらい経つが、かなり体がだるい。それで、ベットの中でくつろいでいた。

 すると、少女の声が聞こえてくる。


「おにぃーさまぁ〜」


 身長の低い少女の明るい声が響いて来た。

 自身を困り人なのだと言う胡散臭い、絶対に仲良くなることのないであろう少年と無事にわかれたあと、なぜかついてきた少女だったのだ。

 しかも、初対面にもかかわらずものすごく馴れ馴れしい。

 俺のことを勝手に『お兄様』呼ぶ始末。

 あの自分のことを自称困り人だと言うと少年といい。人の縄張りに勝手に入って来るのはやめて欲しい。本当に。

 だから、俺はベットから体を起こし、不快感を込めて、


「だから、その呼び方はやめろっ」

「--んっ?」


 首を傾げて、『なぜ?』と言わんばかりの表情を作る少女。今日は、フリフリのスカートの上に明るいベージュ色のエプロンを着ている。朝ごはんでも作っているのだろうか。


「それでだ。なぜ俺のことを『お兄様』なんて呼ぶ?」

「えぇ〜っと、それは、お兄様はお兄様だからです。

 それに、誰かがここに着た時に私たちの関係をなんて説明する気ですか?」

「メイド」

「えっ! そうなると……」

「なんだ?」

「きっと、ここに着たお客様は、ご主人様といけない関係、禁じられたメイド遊びをしているのだと思われてしまうと思います」

「いやいやいや、普通はそんなことを思わないから」

「いいえ、そんなことはありません。

 こんな人気のない山の中で、若い男女が二人きり。

 夜は夜な夜な、若い体を持て余した二人は……、と想像するに決まってます」

「いやいやいや、そんなことはない」

「いいえ、あります。

 だって、昨日の夜だって……、」

「なぜ、そこで恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向く」

「えっ、お兄様は昨日の夜のことを覚えていないのですか?」

「おいおい、なぜ俺が昨日の夜お前と一緒に寝てたように言う?」

「それでは、一つヒントをあげましょう。

 この家にはベットはいくつありますか?」

「--んっ?」


 と、少し俺は考えてしまった。

 なぜならこの家の中を全部屋見回ったことがなかったからだ。

 だから当然わからない。なので推測で答えるしかない。


「……2つ以上あるのではないのか?」


 そう言う答えをするのを少女は待っていたのであろう。少女は、ニヤリ、と笑い、


「いいえ、違います。

 この家にあるベットは一つだけです。

 だから、私も当然、お兄様と同じベットに寝ています」

「はあぁぁ、」

「そんな声を出しても無駄です。

 昨日の夜は私の膨らみかけの胸を揉みしだいて……。

 すでに既成事実は出来上がってし待っています」

「まさか、そんなことが……、あり得るわけがない。

 ずっと、ゆっくりと寝ていたはずだ。

 いったいどんなことをしてしまったと言うのだ?」

「それはですねぇ〜……、ま、まあ、その話はいいじゃないですか? こんな少女にそんな恥ずかしいことを言わそうとするなんて、この変態お兄様!」

「おいおい、そんな変態なこと言い出したのはお前だろ。

 そもそも、変態だって言うなら違うところで寝ればよかったのに」

「--うっ!」

「んんっ、どうなんだ?」

「--どうって?」

「本当にお前が言っているのが本当なのか?」

「--う、うっ」

「言えないってことは嘘なんだな?」

「--うっ……………………、はい。同じベットで寝たって言うこと以外は、嘘をつきました」

「ふむふむ、って、なぜ同じベットとに寝ようとする?」

「さっきも、言ったようにこの家には、ベットが一つしか……、それとも、いたいけな少女である私にこの硬い板でできた床で寝るようにと……?」


 床を悲しそうに見る少女。

 そんな表情をされたら、確かに床で寝ろ、なんて言えない。

 例え、この少女の戦略だとわかっていたとしても。

 そして、俺にはこの少女に『家から出ていけ』と言えない理由があった。

 俺は、自称困り人だと言う少年から希望を聞かれた時、人気のないところでのんびりしたい、と答えた。確たる理由はない。ただ、失っている前世の記憶のせいだろうか、前世で物凄くめまぐるしく、忙しく何かをやってきたので、少しゆっくりとしたい、と思ったのかもしれない。

 そうしたらだ。少年は優しそうな表情を作り、


「わかった。この僕が責任を持って、ゆっくりとできる場所を提供しよう。

 そうだな……、体は……、まあ、僕と同じぐらいの年齢18歳前後のものにしておこう」

「ああ、その辺は考えるのがめんどくさいから任せる」

「わかった。そんなめんどくさがりやの君に、身の回りのお世話もする少女もつけとくから、」

「ああ、ありがとう」


 そう言う話で終わった。

 そうして、まあ、俺の雑用を全部やってくれる少女もついてきたのだ。

 見てくれも悪くない。むしろかわいいと言っていいだろ。

 性格だって、ちょっとうざいところもあるが、明るくていいのかもしれない。雑用を黙々とやる、お通夜状態よりいいかもしれない。

 何もやりたくない今の俺にとって、雑用などやってくれるのはとてもいい……、そう、思っていた時代も俺にもありました。

 まさか、ついてきた少女はとんでもないポンコツがやってきてしまっただなんて……。

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