最初に至る均衡の調整者〜異世界で至高の大魔法使いになったが、魔法使いは迫害を受けていた〜

★634

第1話

『大魔法が完成した。もし、この世界に別れを告げたいのであれば、求めに応じ来たれり』


 仕事が終わり家に帰ると、そう書かれている一通の手紙がテーブルの上に置いてあった。

 郵便受けから持ってきたわけではないのに、泥棒などの入られた痕跡がないのにいつの間にか……。


(だが、『この世界に別れを告げたい』という文言はとても気に入った。 この窮屈で、勝ち続けなければいけない世界。離れてどこかへ行きたい)


 と、思った瞬間、目の前の景色が変わった……。




 ◇◇◇




「おめでとぉ〜」


 祝福の声が聞こえてきた。

 優しげな表情をしている男。いや、少年といったところだろうか。


「ん、んっっ、」


 寝ていたわけではない。

 立っているのだが、今さっき目覚めたような心地。


(いったいなぜ褒められているのかがわからないな。

 というより……、)


 不思議に思い、記憶を探るが……。


「ーー記憶がない」


 小さい声で呟く。

 すると、先ほど祝福の声をかけてきた少年が、


「ああぁ、君の記憶は無くなっているよ。

 というより、無くさせてもらっている、といっていい。

 なぜならば、これから君に選んでもらう選択肢には君の記憶はまったく不要なものだからね。

 ちゃんと選んでもらいたかったのさ」

「いったい何を言っている?

 というか、ここはどこだ?」


 目の前にいる少年が警戒心を抱かせない雰囲気だからこそ慌てずに済んでいる。

 が、事情によっては危険な状況なのだろう。

 いったいどんな状況なのかまったくわからない。

 とはいうものの、どこだかわからない以上、逃げようもない。


「う〜ん、警戒をしているねぇ〜」

「当然だ、」

「でも、安心して大丈夫だよ。

 僕が君を何かしようと考えていれば、こんな状況になってないから。

 だからさっ、」

「だから?」


 少年は一呼吸置き、


「この状況を楽しんでいってよ」

「ーーはぁっ?」


 こっちが困っている状況をわかっていてるにもかかわらず、軽い感じで返されて、イラっときた。おそらく表情にも出ているだろう。

 その予想通り、


「えっ、まっ、待ってよ。

 僕はこの日が来るのをずっと待ってたのに……。

 さっき祝福の言葉を君に言った通り今日はおめでたい席なんだから。笑顔でね」

「ーーはぁっ?」


 こっちの状況をわからず自分勝手に物事を進めようとするような奴なんて、


「絶対に性格が合わないな、」

「おいおい、本音が声に出てるよ……」

「そんなことはどうでもいいから早く要件を言ってください」

「そんなことを言わなくても……、」

「ほらっ……」


 話を促される少年。

 さっきまで気楽にしてたのに、なぜか条件反射的に青ざめ、


「あ、ははっ……」


 と、後退りながら言い、深呼吸をし、


「なんだか、懐かしいなぁ」


 と、感慨深く言う少年。


(おいおい、勝手に懐かしむのはやてくれよ)


 と、思いながら、呆れた視線を少年に送る。

 そして、その視線に少年はしばらくして気づき。


「すまない。こっちが勝手に楽しんでしまって……。

 っと、時間が予定より時間がだいぶ進んでしまってきたな、」


(お前が悪いんだよ。

 こっちは早く進めて欲しいのに勝手に懐かしみやがって)


 と、言いたいが言葉を飲み込む。


「では、自己紹介がまだだったね。

 僕は現世とあの世の間に取り残されてしまった者さ」

「つまり、胡散臭い奴なんだな、」

「いや、いや、胡散臭い奴じゃなくて、ただの困り人さ。

 僕は君にやってもらいたいことがあってこっちの世界に来てもらったんだ。

 いや、お願いと言ってもいい」

「お願い?」

「そう、破滅する世界の運命を変えて欲しいんだ」

「ーーんっ? 言っている意味が急展開すぎるだが……」

「そうだね。確かに急にそんなことを言われても意味不明だよね。

 今、僕がもともといた世界は、10年後に破滅することに未来が決まっている」

「なぜ?」

「それは、魔法使いと非魔法使いの間に起こった差別や因縁から起こった戦いによって大規模な災厄を引き起こして……ね」


 悲しそうな表情をしながら言う少年。


「で、俺にどうしろって?」

「うん、それで君には第三の勢力になって欲しいのだよ」

「第三の勢力に?」

「そう第三の勢力。さっき言った二つの勢力を破壊し、君にこの世界の頂点に君臨してくれれば世界の破滅から世界を守ることができる、と予知ができた。

 だから、この世界からすると異世界人である君に、運命を変えられるイレギュラーとしてこの世界に来てもらったんだ」

「なるほど……、随分と大きい話だな。

 そういえば、最初に言っていた祝福って、いったいなんなんだ?」

「ああー、一番大事なとこだね。

 実は君、死ぬ前に意図してやったわけではないんだろうけど未だ誰も達成できなかった儀式を成功さたんだ」

「儀式?」

「そう儀式。修行と言ってもいいかな」

「修行?」

「そう修行。

 どういうものかというと、世界の偉人って苦行やたゆまぬ努力によって、常人にはない力を手にいれるだろ?」

「はあ、」

「ピンときてないようだね。

 例えば、修行僧とか断食して仏になろうとするよね?

 それと一緒さ」

「死ぬ前に俺っていったい何したの?」

「まあ、そう思い出さない方がいいと思うよ。

 ものすごい苦しみに耐えてきたのだから」

「なるほど、だから記憶をなくしてくれているわけか、」

「別に褒めてくれていいんだよ」

「うざっ、」

「はあぁ、」


 落胆したため息を出す自称困り人の少年。

  まあ、困り人なんだから当然か……。

  もっと困らせてやりたいが、自称困り人は今までのひょうひょうとした態度を改め、真剣な表情に変わり頭お下げる。


「この世界にあなたが必要なんだ。

 どうかこの世界を救って欲しい。お願いします」

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