第6話 悪い夢を見ないようにしてやりたい

【3月24日(木)25日(金)】

夜中、布団の中に美香ちゃんが入ってきたので、目が覚めた。時計を見ると1時半だ。


「どうしたの」


「いやな夢を見たので、ここに朝まで居させてください」


「どんな夢?よかったら聞かせて。美香ちゃんが家へ来たころだったけど、僕の布団に入ってきたときに夜中に僕にしがみついてきたことがあったけど、その時は怖い夢を見ているようだった」


「そのうち、話します。お願いします。抱いてくれとは、いいませんが、抱きしめてもらえませんか?」


「うーん。抱き締めるくらいはいいか。それで、悪い夢をみないで眠られるのなら。じゃあ、背中を向けて、後ろからなら抱きしめてあげる」


背を向けた美香ちゃんを後ろから抱きしめる。抱き締めるだけなら、みだらな行為にはならないだろう、それも安眠のためと、自分に言い聞かせているのに笑ってしまう。本当は抱きたくてしょうがないのに、俺も男だなあ。


抱き締めた美香ちゃんの身体は柔らかくて、温かい。美香ちゃんは廻した腕にしがみついている。美香ちゃんの甘いような匂いがして、これは悪くないなあと思っているうちに寝入ってしまった。


翌朝、目が覚めた時には、美香ちゃんは布団にいなかった。もう起きて、キッチンで朝食を作っていた。


「昨晩はありがとうございました。おかげでよく眠れました。邪魔で眠れなかったのではないですか、すみませんでした」


「いや、柔らかい湯たんぽを抱いているみたいで、温かくてよく眠れたよ」


「じゃ、毎晩いいですか」


「だめ、眠りながら無意識的に美香ちゃんを抱いてしまうかもしれないから、絶対にだめ。昨晩は特別でこれで最後」


「無意識でそうなったらうれしいけど、残念ですが、圭さんは絶対そんなことないと思います」


「大体想像がつくけど、嫌な夢、早く見なくなるといいね」


「・・・・」


それから、4~5日たった夜中に、また、美香ちゃんが布団に入ってきて、目が覚めた。


「どうしたの、前回が最後のはずだけど」


「いやな夢を見たので、今晩もお願いします。昨晩もその前の晩も毎晩、夢をみるので、我慢できなくなって、お願いします」


「ずっと、見ていたのか、かわいそうに、いいよ、ここにいて」


「僕と一緒に寝ると悪い夢を見ないの」


「安心するみたいで、悪い夢は見ないみたい。それより、買い物に行った楽しい夢をみます」


「それなら、一緒に寝ることを考えてみてもいいけど」


「話を聞いて下さい。話をしたものかどうか、この話をすると圭さんが私を嫌いになると心配して、しばらく考えていました。でも大好きな圭さんに聞いてもらうと気が楽になるかもしれないと思って」


「聞かせてくれる」


美香ちゃんは、覚悟を決めたように、叔父さんとのことを淡々と話し始めた。叔父は見た目はが良いが、どちらかというとぐうたらな男で、会社勤めはしていたが、働くのは嫌いで、給料はほとんど自分で使っていた。生活は叔母に頼っていたこともあり、叔母にはとても優しかったとのこと。ただ、酒癖が悪く2人に暴力をふるうこともあった。叔母は生活のために週に2回は夜のパートにも出ていたとのこと。


高校2年の8月、叔母さんがパートで外出した晩に、お風呂から上がって布団に入ったときに、無理やり奪われたこと。それからは叔母がいないときに身体を求められて、いやがって抵抗すると暴力を振るわれた。叔母に話すというと、そうすればお前もここに居られなくなると、脅されたという。そのうちにいやなこともさせられて段々抵抗する気力もなくなって家を出る前はなすがままになっていたとのこと。


それで、叔母にそれが見つかって、私が叔父を誘惑したみたいに思われて、出ていけと言われた時、ずっとそんなことから逃れたいと思っていたので、思い切って出てきたと言った。


美香ちゃんは、最初はしっかり話していたが、その時を思い出したのか、段々泣き声になり、最後まで話し終えると、わんわんと大声で泣いた。こちらも、あまりにもひどい話なのでつられて泣いてしまった。そして、泣きじゃくる美香ちゃんを抱きしめていた。


「話して、気が楽になった?」


「本当は話したくなかった。私を嫌いになると思ったから」


「いや、話を聞いて美香ちゃんが愛おしくなった」


「ここにおいてもらってから、早く忘れたいと思っているけど、夢に見るの」


「僕のそばで寝ていると、楽しい夢をみるのなら、これからはそばで寝ていてもいいよ」


「うれしい。きっといい夢が見られそう。でもやっぱり抱いてはくれないんですね」


「18歳になるまではね」


「私は、大好きな圭さんに抱かれると、悪いことが忘れられるような気がして、抱いて下さいと何度もお願いしていたのです。好きな圭さんなら叔父さんにさせられたことでもなんでもします。圭さんにさせてもらうときっと悪い思い出が忘れられると思います」


「美香ちゃんの気持ちは良く分かった。だけど、今は、そばで寝るだけ、抱きしめるだけにしてほしい」


美香ちゃんを抱きしめた時、このままと一瞬思ったけど、踏み留まった。弱みに付け込むなんて叔父さんと同じではないか。美香ちゃんの今の気持ちは痛いほど分かる。でも、今は自分の気持ちの整理がつかない。お互いに時間が必要なのかもしれない。


それから、美香ちゃんを前と同じに後ろを向かせて、そっと抱きかかえて寝ることにした。美香ちゃんは泣き疲れたのか、すぐに寝入った。何とかしてやりたいが、今は、本当にここまでが精一杯だ。

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