#33 アナグラムの活用と制限その2

「……とりあえず俺のステータスで」


 そう思い、俺は自分のステータスに目を向ける。


【 名 前 】 アキラ

【 職 種 】 魔法使い

【 レベル 】 19

【 経験値 】 7700(次のレベルまで2199)

【 H P 】 962/962

【 M P 】 10/10

【 攻撃力 】 2525

【 防御力 】 1642

【 俊敏性 】 313

【  運  】 9115

【 スキル 】 なし

【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】



「適当に文字を入れ替えて」



【 HM名 】 アキラ

【 力 種 】 PP使い

【 ルルル 】 19

【 敏ベル 】 7700(運経験まで2199)

【 魔 性 】 962/962

【 次の職 】 10/10

【 法 力 】 2525

【 ベ 撃 】 1642

【 前防御 】 313

【 俊攻値 】 9115

【 キ レ 】 なし

【特殊ススキ】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】



「……ふざけ過ぎたような」


 弄りすぎて色々おかしくなった。

 ルルルってなんだよ。


 これが通ったら逆にどうなるんだろう?

 俺は興味半分、恐怖半分でステータスから手を放す。


 瞬間、視界にそれが映る。


 

 文脈センテンス齟齬エラー

 複数の意味が通りません。【アナグラム】不成立、元に戻ります。



【 名 前 】 アキラ

【 職 種 】 魔法使い

【 レベル 】 19

【 経験値 】 7700(次のレベルまで2199)

【 H P 】 962/962

【 M P 】 10/10

【 攻撃力 】 2525

【 防御力 】 1642

【 俊敏性 】 313

【  運  】 9115

【 スキル 】 なし

【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】



 ――使用制限ペナルティ発動。

 一日間【アナグラム】使用できません。



「……お、おう」


 何か凄い怒られた。

 使用制限ペナルティまで出てきたぞこれ。


 その機械質な声と文字が、俺の目の前で踊る。

 ミヤの様子からみるに、俺だけしか見えてない&聞こえていないっぽいそれは暫くしてプツリと消えた。


「……う~ん、駄目そうだとは思ったが制限まで掛けられるとは」


 今日一日は【アナグラム】が使えない。

 まあステータス自体は文字を弄る前のやつだから、全然苦にならないとは思うが。


「と、まあ実験はこんなところか」


 強制的に終わったそれを俺は頭の中で整理しながら、いくつか考えをまとめる。

 

 特に最後の事象。

 他者のステータスとの入れ替えとは違い、"文字"を動かせたのは多分意味があるように思える。


 今回だけでは文字が入れ替え可能かはまだ分からないが、

 注意文的なやつを見るに"齟齬"さえなければ書き換えられそうだと俺は結論付ける。


 とりあえず今回分かったことは、以下の通り。


・他者のステータスも【アナグラム】可能


・ステータス間の入れ替え、譲渡は不可(条件なのか仕様なのかは不明)


文脈センテンス齟齬エラーだと【アナグラム】は一日使用不可になる


・文字の入れ替えはできそうだが、文脈センテンス齟齬エラーが無い場合に限りそう



「うん、こんなもんだろう」


 頭の中で整理したそれを消化していると、ミヤのじれったそうな姿が目に入る。

 その姿に俺は小さく苦笑しながら、俺は再び身支度を再開する。


「ミヤ、お前のステータスも明日強くなるように弄ろうと思うんだけど」


 身支度をしながら、俺は何気なくミヤへそう言葉をかけた。

 それに対し、ミヤは少し考えるような仕草をした後、小さく首を横に振った。


「うちはええわ。練習して上手くなる人がいるように、うちはうち自身で強くなりたいわ」


 うんうんと頷くようにミヤはいう。

 少しばかりその答えに驚いたものの、俺は小さく頷いた。


「そっか、分かった」


 人それぞれ考え方があるだろう。

 俺はそのミヤの意見を尊重した。

 

 ただ俺自身はこのまま【アナグラム】を使い続けていくことに変わりはない。

 ――こいつたちを守るための力なんだから、それくらいは許されるだろう。


 小さな決意を秘めながら、俺は身支度を進める。


 俺が数分ほどで身支度を整え終わると。

 先ほどから待ちきれなかったミヤはその様子を見て、うんうんと頷いていたが、しばらくして首を傾げる。


「そういえば、なーちゃん起こさんでええの? なーちゃんも連れて行くんやろ?」


 そのミヤの言葉を聞いて、俺は気付く。

 ナナの所在について、何も考えていないことに。


「……そうだよな」


 俺はちらりと眠っているナナを一瞥した。


「ここにおいていくのもどうかと思うが……かといってモンスターがいる危険な場所につれていくのもな」


 誰かに預かってもらえればいいんだが、神に愛されなかった者のナナを誰も受け入れてはくれないだろう。

 フィリー達でさえ、あんな感じだからな。


 俺がうんうんと悩んでいると、ミヤはそれに対し不思議そうな顔をしながらその言葉を発した。


「普通に一緒に連れていけばええやん」


 そのはっきりとした声は、続く。


「なーちゃんも一緒に戦ってもらえればいいんよ。最初は手助けしながらやけどね」


 それがさも当然のことのように言うミヤ。


「いやそれは」


 危険だろと言いかけたところを、ミヤは言葉で制する。

 小さくもはっきりとした声が、俺の耳へと届く。


「いつまでも、うちらが面倒みてあげられる保証はないんやで」


 一瞬、ミヤが何を言っているか分からなかった。

 だが、その言葉の"意味"が俺の脳へ徐々に溶けていくと、その言葉の重さを酷く感じた。


「一人で生きていかなきゃいけないこともあるやろうし」


 ガンッと、頭をトンカチで殴られたような気がした。

 そのくらい、それらの言葉は重く衝撃だった。


 俺は小さく長く息を吐いた。


「……そうだよな」


 ミヤは、本当の意味でナナのことを考えているのだろう。

 そんなミヤの言葉に対し、俺は深く頷いた。


 そんな一連のやり取りが終わる頃。

 ベッドで寝ていたナナは、目を覚ましたらしい。


 寝ぼけ眼をこするナナに向かって、俺はその言葉をかける。


「ナナ、一緒に行くか」

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