#20 リンリンゴ捜索開始

 クラードは集まった冒険者たちを一瞥した後、再び声あげる。


「みんな依頼を受けてくれて感謝する! 依頼主のクラードだ!」


 低くも強いその声は、よく通った。


「昨日までも参加した冒険者諸君は繰り返しになるが、この依頼内容を説明したいと思う!」


 その言葉を皮切りに、クラードの口から依頼内容が語られる。


・リンリンゴはこの平原に生息するレアモンスター

・リンリンゴの特徴としては、体は黄金色に輝き、鈴のような形をしている。鳴き声は「リンリン」

・このモンスターを倒して手に入る黄金リンゴをクラードに渡すことで依頼達成


 要約するとその内容はこのような感じの説明を受けた。

 クラードはさらに続ける。

 

「この平原のモンスターはピンクスライムなどの弱いモンスターだけしか生息していないが、万が一を考え、Eランク以下の冒険者はツーマンセルかスリーマンセルで行動するように。Dランク以上の

冒険者は任意で構わない」


 だとすると、俺はだれかと二人組か三人組にならないといけないのか。

 そんなことを思いながら聞いていると、クラードのその最後の言葉が耳に届く。


「説明はこれくらいだ。何か質問のあるやつはいるか?」


 誰からも声は上がらない。

 そこまで難しい内容でもなかったし、そもそも勝手が分かるやつも多いからか、しばらくしてもやはり声は上がらない。


 頃合いだとクラードは思ったらしく、締めくくりの言葉を述べた。


「ないようだな。それでは各自依頼に励んでくれ――解散!」


 クラードがそう告げると、強そうな冒険者は各々に散り始める。

 そんな中、俺は誰と組もうかと、辺りを見回していた。


 その時に、ポンポンと肩を叩かれる。


「アキラ、私とツーマンセル組も!」


 振り向けば、フィリーだった。


「フィリーはCランクだろ?」


 その言葉にフィリーはチッチッチッと指振る。


「任意だよ任意! 私の気分で組んでもいいし組まなくてもいいってことだし」


 左手と右手の人差し指をからめたり、ほどいたりしながら言葉を続ける。


「それに君は組む相手決まってないんでしょ? ちょうどいいじゃん」


 確かにその通りだ。ミヤがいない俺にとってここで知り合いはいない。

 俺に断る理由はない。よろしくという言葉と握手をした後、フィリーは笑った。


「君に聞きたいこともあるしね」


 最後に意味ありげな言葉を述べたフィリー。


 あの事象のことだろうか? 

 俺もまたあの事象を気になっていたので、やはり結論は変わらない。


 俺はフィリーの申し出を快く受けることにした。 

 こうして、俺とフィリーのツーマンセルが結成された。


 * * * 

 


 ナルバッツ平原はヘルラルラ平原とは違い、

 完全な草原というわけでなくぽつりぽつりと大きな石や木が点在するといったような場所だった。

 

 そんな平原を俺とフィリーは二人歩きながら、リンリンゴ捜索を始めた。

 

 その中で交わされるフィリーとの会話は俺の予想に反し、


「私さ、マールス酒場のホットピッグ丸焼きが好きなんだよね。アキラは?」

 

 とか。


「金貨10枚あったら何する?」


 という全く関係ない世間話が展開されていた。


 俺が思っていたような話ではなく、本当に他愛もない話。

 で、俺があの事象のことに触れようと、少しでも話題をずらそうなものなら。


「うんうんそうだね。でさー」


 といった具合だ。


 あの事象に触れられたくないのだろうか。

 だったら『それに君に聞きたいこともあるしね』という言葉はなんだったのだろう。


 フィリーの真意が、全く読めなかった。

 そんな悶々とした気持ちを抱きながらも、俺はフィリーとの会話は続いた。

 

 ……いないな。

 もちろんそんな会話の最中でも、本来の目的であるリンリンゴを探しのために辺りに視線を巡らせるが、やはり見つからない。


 で代わりに、リンリンゴでもなんでもないそのモンスターの影が見えた。

 ピンク色をしたスライム――おそらくピンクスライムといわれるそのモンスターに。


 数匹の集団を形成したそれがぴょんぴょんとはねながら、俺たちへと向かってきた。

 弱い弱いと言ってたけど、モンスターが危険であることには変わりはない。

 

 俺は武器である、こんぼうを握った。


「フィリー、モンスターだぞ」

「うん、見えてるよ〜」


 少し後ろから聞こえたその間延びした声。

 俺が不思議に思って振り向くと、フィリーは気持ちよさそうに草原の上で座っていた。


「んじゃ、よろしく〜」


 ぶんぶんと手を振るだけで、フィリーはその場を動こうともしなかった。


「……いやいや戦おうよ」


 俺のその言葉を聞くと、フィリーはふふふといった表情を浮かべながら、片目でぱちりとウィンクをした。


「女の子をこき使うのはよくないよ〜それに私の出る幕ないでしょ」


 フィリーの人差し指が唇へとあたる。

 その唇がゆっくりと弧を描く。


「だって君――私より強いんでしょ?」


 まるで悪戯を楽しむ子供のように、

 にっこりと、フィリーは笑った。

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