#13 アナグラムでステータスをいじってみた
「アキラさんが30匹も倒したんですか?」
やくそうの後にスライム玉を渡すと、
ミリアさんは困惑した表情を浮かべる。
「すごいと言いますか……普通に考えてありえないといいますか……」
ごもっともだと思うが、嘘は言っていないので俺はどう説明しようかと悩んでいた。
急に強くなりましたと言っても絶対嘘だと思われるし。
「買取はもちろんさせていただきます」
納得のいかなそうな顔を浮かべながら、ミリアさんはスライム玉を軽く指で叩いた。
「……あれでしょうか? 私にいいところを見せたいがために見栄を……?」
ミリアさんはぶつぶつと小声を言いながら、スライム玉を集計を行う。
「……確かにスライム玉30個ありますね」
数え終わった後も少しばかり首をかしげたミリアさんだったが、銀貨3枚を俺へと手渡してくれた。
その後、ミヤのスライム玉も集計と買取してもらい、ミリアさんは最後はこう締めくくった。
「それではまたお越しをお待ちしております」
最後はいつも通りの笑顔を浮かべるミリアさん。
俺たちもいつも通りに会釈を返し、冒険者ギルドを後にした。
そんなことがあった、ギルドからの帰路。
ミヤはうーんと唸っていた。
「嘘はいってへんけど、信じてへんみたいやったなぁ」
トラッキーの上で腕組みをするミヤは納得のいかない様子だった。
俺ももちろん府には落ちないが。
「まあいいじゃん。飯にしようぜ」
このことも気になるがとにかく腹が減った。
俺のその言葉にミヤは大きく頷いた。
「ええな! うちもぺこぺこやわ!」
宿への帰り道に見かけた一軒の酒場。
俺たちは香ばしい肉の匂いにつられ、ホロホロ鶏の香草焼きが名物というその酒場で飯にすることにした。
* * *
夕食後。宿の一部屋。
俺は自分の右手をグーパーさせながら、今日の現象を考えていた。
「やっぱり、おかしいよな」
ヘルラルラ平原で起こったことを考えても、俺が強くなっているのは明らかに事実だった。
それもかなり強くなっている。
昨日は何十回も攻撃しないと倒せなかったスライムが、今日は一撃で倒せたくらいだ。
普通に考えて、こんな急成長はあり得るのだろうか?
いや、ミリアさんの反応から言ってもおかしいと考えるのが当然だろう。
んじゃ? なんで?
俺は頭をかきながら、ステータスと心の中で唱えた。
【 名 前 】 アキラ
【 職 種 】 魔法使い
【 レベル 】 4
【 経験値 】 160(次のレベルまで100)
【 H P 】 29/29
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 102
【 防御力 】 45
【 俊敏性 】 10
【 運 】 10
【 スキル 】 なし
【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】
そのステータス画面に表示されるその数字に、俺は首を傾げた。
……あれ?
俺、昨日まで攻撃力1ケタだったよな?
それなのに3ケタ?
その疑問が浮かんだ時、俺ははっと気づいた。
「……あれは夢じゃなかった?」
ステータス画面から文字や数字が抜け落ちていったあの現象。
あまりにもありえない現象だったので、その出来事は俺の中では夢と消化していた。
異世界に来たことによるストレスで見たんだと、そう思っていた。
しかし、今この状況を照らし合わせるならば、あれは実際に起こったことらしい。
ますます意味が分からない。
なんかのバグか? それとも何かの能力?
「でも俺にそんな能力ないしありえ……」
と言いかけたところでそれが目に入る。
【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】
「……あ」
これだ。
これに間違いない。
そう確信した瞬間、
幾ら思い出そうとしても思い出せなかったアナグラムの意味が嘘のように頭の中に浮かんだ。
文字を入れ替えたりして、違う意味のものにするとかいう言葉遊び――それがアナグラム。
俺の中で全ての点が、線としてつながる。
なるほど。
アナグラムが発動したからあの文字がなんたらの事象が起こったのか。
そう納得すると、俺はまたまたあることに気付いてしまう。
「……これ、もしかして凄いスキルなのでは?」
だってこれ、ステータス弄り放題じゃん。
試しに経験値にある【1】の数字を人差し指で触れてみた。
すると、触れている【1】がゆらゆらと動く。
指を動かすと【1】の文字は指を追うように動き始める。
まるでスマホのアプリのアイコンを動かしているときのように、文字が指の動きに連動した。
で、試しに防御力の場所に置いてみる。
【 名 前 】 アキラ
【 職 種 】 魔法使い
【 レベル 】 4
【 経験値 】 60(次のレベルまで100)
【 H P 】 29/29
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 102
【 防御力 】 451
【 俊敏性 】 10
【 運 】 10
【 スキル 】 なし
【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】
その事象を終えると、俺はある体の変化に気付く。
「あれ? 強くなった気がする?」
なんか分からないけど、防御力が上がった気がする。
感覚的なものだが、身体の張りが違うというかいつもより固いというか。
剣で斬られても平気な気がするくらいだ。
そこで俺は確信する。
「これは使えるぞ……間違いなく使える……」
不敵な笑みを浮かべながら、俺はステータス画面をいじり始めた。
「これをこうしたら、ここがこうで」
「攻撃と防御は大事だよなぁ」
「こうしたら凄く強い」
「経験値がなくなったけど大丈夫か? レベルは変わってないけど」
「あーでも全部の数字が強すぎるとあれだし、いい感じにしとくか」
「……とりあえずこんなもんでいいか」
その一言を呟くと、視界には見違えるほどの数字が羅列していた。
まあ少しは抑えたが、それでも昨日の初期ステータスと比べると凄まじい変化だ。
俺はそれを満足しながら眺めていたが、急に眠気と疲れがどっと出てきた。
あれか残りHPの方もいじった影響だろうか。
「……ねよ」
気怠い体を横にして、俺は瞼を閉じた。
明日が楽しみだという思考を最後に、俺は眠りに落ちた。
こうして俺の異世界二日目は終わった。
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