第46話 宿命を背負いし3人の末裔
「イブール…。大丈夫かな…?」
アレンとチェス。そして、ラゼの3人で進む中、チェスがポツリと呟く。
「ん…?」
「チェス…」
この時、ラゼは後ろに振り返り、彼の横にいたアレンはチェスを見つめていた。
あのモーゼ…っていうおじさんを見たときのイブール…。感じる気が相当禍々しくて、怖かった…。あれは、まるで…
「あの人間が、僕らの元へ戻ってくる頃には…おそらく、目的を果たしているんだろうね…」
「え…?」
チェスが考え事をしていると、ラゼが深刻な
「…どういう意味だ?」
「…これは、僕の憶測に過ぎないけど…。あの人間が悪魔と“契約”するなんて理由は、大体想像がつく…。先程の相当激しい邪気には、驚かされたけど…ね」
鋭い視線で睨みながら、アレンはラゼに問いかける。
一方でラゼは、そんなアレンにも動じる事もなく、淡々と話すのであった。
もしかして…僕が、険悪な雰囲気を作っちゃった…かな?
周囲の空気があまり良くない状態になったため、チェスは挙動不審になる。
「そうだ…ラゼさん!僕、貴方に訊きたいことがあったんだ…!」
チェスは、この場を何とかしようと、話題を変えることにした。
「…なにかな?」
ラゼは、少し落ち着かせた状態で口を開く。
…やっぱり、僕が話をした方が、この
チェスは、自分達ウォトレストが彼らを認めているように…古代種“キロ”であるラゼも自分達の事を認め、信用してくれていることがわかり、少しだけ安堵した。
そして、真面目な話である以上、ちゃんとした状態で話さなくてはと考えたチェスは、その場に立ち止まり、真剣な表情になってから口を開く。
「僕達ウォトレストは、
「…うん、知っているよ。それがどうかしたの?」
ラゼは、落ち着いた表情で答える。
一方で、チェスは緊張感が強くなるばかりだ。
「貴方と同族であるラスリアと一番長く過ごしてきたのは…一族の中では、僕一人だけです。だから、気がついたのかもしれませんが…」
「…回りくどいね。君は、何が言いたいの…?」
チェスの言い回しに対し、ラゼが少しばかりか苛立ちを見せる。
そんな2人のやり取りを、アレンは黙って見守っていた。
「ラゼさん…。貴方は“二大魔術”を使えるほどの術者だから、自分から発せられる“気”を操る事も可能なはず…。例えば、人間でも双子なんかは同じ“気”を感じる。一方で、貴方は全く別人かのように気を操っているが…ほんのわずかな分だけ、ある人物と同じ気を感じました…」
「おい、チェス…。それって…」
長々と語るチェスに、アレンが途中で割って入る。
「…貴方とラスリアって、もしかして…」
「…言うな!!!」
チェスがその先を告げようとした瞬間、ラゼの叫び声がそれを遮る。
その荒々しい叫び声を聞き、チェスは自分の仮説が正しい事を確信する。
「チェス…だったっけ?」
「あ…はい!」
数秒ほど、彼らの間に沈黙が流れた後―――――――――突然、ラゼが口を開く。
「君の想像通り…だよ。ただし、“この事”は、胸の内に収めておいてくれないかな…?僕ら古代種の問題でもあるし…何より、彼女は“この事”を知らないから…」
そう述べながら、ラゼは周囲にある崩れた家屋を見つめる。
彼が持つ紺色の髪が風で靡く中、その表情は切なさが垣間見えていた。
「…そろそろ行こう。このままでは、“奴”が彼女に何をするか…わかったものじゃないからね…」
そう呟いた後、ラゼは再び歩き始める。
彼が意味深な
どうして、ラゼは、“あの事”をラスリアには黙っているんだろう…?
不思議そうな
※
「はぁ…はぁ…はぁ…」
チェス達が”古代種の都跡”を進んでいく一方…アギトの元から逃げ出したラスリアは、見知らぬ場所で立ち尽くしていた。
「ここまで来れば…追いつかれない…わよ…ね…」
息切れをしながら、ラスリアは周囲を見渡し始める。
…最初に来た方向とは、逆に走ったつもりだったけど…。ここは一体、どこなのかしら…?
周囲の見知らぬ風景を見渡しながら、ラスリアはふと考える。
「…!?」
数分程呆けていた後―――――――突然、ラスリアの心臓が強く脈打つ。
「あ…れ…?」
何かに導かれるように、ラスリアの足が勝手に進みだす。
そして、彼女が最初に立っていた建築物の入り口のような場所から、更に奥へ奥へと進んでいた。ラスリアが進んでいく先の周りでは、さんご礁のように色鮮やかな大理石の柱が多く存在する。まるで、神殿のような雰囲気を持つ場所であった。
「ここ…」
数十分程歩くと、ラスリアは大きな広間のような場所に到達する。
彼女の視線の先には、玉座のようなモノが見えていた。
「私…」
その玉座を見た瞬間、ラスリアは困惑した表情になる。
私…この場所を、知っている…?
初めて訪れるはずなのに…一度、その場所に自分がいた事があるような感覚を覚える。
『ラスリアよ…』
「えっ…!!?」
その瞬間、ラスリアの頭の中に謎の声が響いてくる。
この声…あの時の…!!?
ラスリアは、自分が眠りから覚めた直後に聞いた声と、同じものだという事に気がつく。
「さっきも聞こえた、この声…。貴方は一体…?」
ラスリアは、頭を抱えながら声の主に問いかける。
『そなたの肉体が感じているように、ここはそなたが一時期育った場所…。しかし…今、我が伝えたいのは、そのような昔話ではない…』
「伝えたい事…?」
声の主の話を聞きながら、ラスリアは首を傾げる。
『ラストイルレリンドリア・ユンドラフよ…。そなたは、生まれながらにして“宿命”ともいえる大事な役割を担っている…。あの2人の“キロ”と同じく…だ』
「それは、一体…?」
問いかけるような口調になるラスリアだったが、声の主が自分の疑問に答えてくれないのは、先程の事でわかりきっていた。
しかし、なぜ声の主が自分の本名を知っていたのかすらも気にならず、ただその声に耳を傾けていた。
『話そう…。そなたが持つ、“宿命”を…!』
この
「…ここがどこだか、思い出せたか?」
「!!!」
声の主から話を聞いてから数十分後――――――ラスリアの背後から、聞き覚えのある声が聞こえる。
ラスリアがすぐさま振り返ると、そこにはアギトの姿があった。
「貴方が…」
ラスリアは、アギトを見つめたまま、その場で立ち尽くしていた。
私が生まれてきた理由…
ラスリアは、声の主から聞かされた話によって、呆然としていた。そんな彼女に構うことなく、アギトは彼女の近くまで歩いてきてから口を開く。
「ここは、本来…わたしが座るべき場所だった…」
「え…?」
アギトは、右手で玉座に触れながら話を続ける。
「…君に見せたかったモノの2つめが、この場所…。我らは、“キロ”を統べる王族の者であった…」
「…やっぱり、貴方も私と同じ…」
ラスリアはアギトを見つめながら、ボツリと呟く。
声の主は、アギトが何者かとは教えてくれなかったが…彼が自分と同じ古代種の末裔であることは、話を聞いていて明らかであった。
「自己紹介が、まだだったね…。わたしは、アギラストリュエ・ゴナセイル。…通称“アギト”」
「…“8人の異端者”のリーダー…?」
「…人間共は、そう捉えているみたいだね」
「“みたい”…?」
ラスリアは、下から覗き込むような表情で、アギトを見上げる。
その視線は、疑いの眼差しをしていた。
「…知っての通り、我々が“救済”を始めた張本人だ。しかし、“愚かな連中を救済する”という利害が一致しただけ…。我々の間で、“情”などない」
そう語るアギトは、最初に会った時よりは生き生きとしたしゃべり方をしていた。
“救済”…って、古代大戦の事を言っているのかしら…?
ラスリアはアギトの主観的な語りに、戸惑いながらもおとなしく聴いていた。
すると、男はラスリアの方を向いて、再び語りだす。
「我々は、常に相手に疑いを持ちながら行動を共にしてきた…。ミトセが君の記憶をいじり、会っていた事を報告しなかったことがいい例だな…」
「…あの金髪の天使が、私と…?」
ラスリアはその
あの
ラスリアの表情は、戸惑いでいっぱいになる。それを見かねたアギトは、フッと哂いながら再び話し出す。
「…何、大した記憶ではないから、気にする必要はない…。それより…」
「それより…?」
その言葉の後――――周囲の空気が変わったような感覚に、ラスリアは陥る。
「…っ…!?」
ラスリアはアギトの顔を見つめた途端、表情を一変させる。
穏やかそうな表情は、いつしか狂気に満ち溢れた
「ラスリアよ…。わたしは、この世界を“浄化”し、再び我ら一族の再興を果たしたいと考えているのだよ…!!」
その狂気に満ちた表情で語るアギトを見た途端、ラスリアは悪寒を感じる。
「浄化…?」
「…我々“キロ”は、“星の意思”に従って生きてきた…。しかし、奴は我らを見放したのだ…。最初は絶望したが、最終的に“良い事”を思いついたのだ…!」
「…まさか…!!?」
遠まわしな言い方ではあるが、アギトの
この
この時、ラスリアの心臓が強く脈打っていた。
「わたしは、思いついた!…奴が自ら創り出した
「…!!!」
恐怖の余り、ラスリアはその場で固まる。
声の主が言っていた、世界を滅ぼす
数少ない同胞が、世界を滅ぼす――――――――すなわち、”ガジェイレル”であるアレンやセリエルという“もう一人のガジェイレル”を犠牲にするという考えを持っていたことに対し、ラスリアは憤りと同時に哀しみが広がる。
同時に、それは「正しくない事だ」と言い聞かせている自分もいた。
「この場所に来て…何となくだけど、ここで過ごした感覚が思い出されてきた…。私は、まだ幼かったから曖昧だけど…。人間という名の大軍が、この地に襲い掛かってきたことは…身体が覚えているみたい…!」
ラスリアは掌を胸に当てながら、その場で呟く。
「…その感覚こそ、人間を滅ぼす力になり得る“想い”だ…!!今こそ、我ら一族の恨みと屈辱を晴らすのだ…!!」
アギトは、まるで演説するかのように語る。
「これ…は…!!?」
すると、アギトの
※
「何これ!!?気味悪い…!!!」
アレン達は、古代種の都跡の最深部の方へ辿り着きつつあった。
すると、何かを目に下チェスが、怖がった表情をしながら言う。そんな彼らの周囲には白い浮遊物が漂い、物凄いスピードで奥の方へと向かっていく。
「彼らは、僕の同胞…。はるか昔に死した、キロの魂達だよ…」
「数千年が経過しているのに、まだ彷徨っている…という事か…?」
アレンの
「アギト…あの男、まさか…!!?」
「あっ…ラゼさん!!?」
ラゼはポツンと何かを呟いた後、思い出したかのように突然走り始める。
そんな彼を見たチェスは、急いで追いかけ始める。
「…っ…!?」
アレンも、彼らを追って走り出そうとしたときだった。
急に、彼の心臓が強く脈うったのだ。
「なんだ、このかんじ…!!?」
何かの予兆を示しているような心臓の高鳴りに、驚きを隠せないアレン。
何故だろう…。何か、嫌な予感がする…!!?
アレンの中に、一筋の不安がよぎる。
「今は…」
“今はラスリアを救い出すことが先決”―――――――――――そう考えたアレンは、先に走り出したラゼやチェスを追うため、自身も走り出すのであった。
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