第41話 襲撃の目的は
半端じゃない殺気を、あいつから感じる…。もしかして…!!?
ガシエルアカデミー本部内に突如、敵が現れたことで息もつけない緊迫とした空気に変わっていた。
「Tydnole…!!」
「え…?」
その時、目を見開いて驚いているジェンド博士が、目の前にいる敵を見て声を張り上げる。
「ジェンド博士!!彼が…!!?」
博士が言った言葉に対し、ロレリア教授も驚きを隠せない。
「教授…彼はなんと…?」
イブールは、ロレリア教授に小声で恐る恐る尋ねる。
すると、彼は冷や汗をかきながら口を開こうとすると―――――――――
「コソコソと、何を話しているか知らねぇが…」
視線の先にいる、大剣を担いだ男が口を開いた。
「…この建物の警備は、並の人間だったら侵入は難しイ。それを易々と
イブール達に対して語るようにして呟きながら、トキヤ博士は大剣を担いだ男を鋭い視線で睨みつける。
「ああ、そうか!俺様を知らない連中もいたんだもんなー。…俺様は、てめぇらが“魔人”と呼んでいた“8人の異端者”が一人、タイドノルだ」
「…っ…!!」
改めて名乗ってきた敵に対し、イブールとチェスの表情が一変する。
「貴方が…」
不意に呟くイブールだったが、この先の言葉を口には出せなかった。
こいつが、ラスリアの言っていたタイドノルって男…。ということは、目的はアレン…!?
イブールは、すぐに周囲を見渡す。
ここ数日、アレンやラスリア。そして、ミュルザとも別行動をしていたことを思い出す。
あの子達の様子を見に行かなきゃ…!!でも…
イブールは、アレンやラスリアの安否を確かめなくてはと、周囲を観察し始める。
「何が目的であろうと、君らの勝手には…させないよ!!」
そう啖呵を切ったチェスは、いつの間にか槍を構えていた。
チェスの言動を見ていたタイドノルは、一瞬だけ目を丸くしていたが―――――上機嫌になったのか、肩に担いでいた大剣を両手で握る。
「せっかく、こんなに人間共の多い街に来たわけだし…少しでもぶっ殺していかないと、来た甲斐なくなっちまうよなぁ…!」
タイドノルは、そう告げた後に、大剣を構える。
やっぱり…そう簡単には行かせてくれなさそうね…!
イブールは、タイドノルが通ってきた廊下の方を見る。それは、アレンやラスリアが使っている部屋がその方向にあるからだ。
「ロレリア教授…。私とチェスが敵を引き付けるので、博士達を連れて逃げてください…」
「イブール君!!?」
イブールは、低い声でロレリア教授に告げる。
「敵は、この場にいる人間を平気で殺せるような奴です。この“ガシエルアカデミー”で、皆さんは“頭脳”として必要とされている学者でしょう?…私は先生の教え子として、そんな皆さんを失いたくないです。だから…!」
「いや、しかし…」
「お願いします…!!」
イブールの
しかし、イブールの真剣な表情や、迷っている暇がない事を悟ったのか、すぐに口を開く。
「…わかった。わたしが先導して、彼らを連れて行こう」
「…お願いします」
教授は複雑そうな
その様子を、タイドノルはじっくりと観察していた。
「そういえば、あの銀髪の小僧の調子はどうだ?」
「…君らに答える義理なんてないね!!」
「やっぱり、あんたの目的は…!!」
イブールとチェスは、改めて敵と向きなおす。
「…まぁ、いいや。どの道、奴らは逃げられるはずねぇだろうし」
「なんですって…!?」
タイドノルは、こちらに背を向けて駆け足で進んで行く教授達を一瞥しながら、イブール達に向かって呟く。
イブールは、その思いがけない
「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」
「ひぃぃぃぃっ…!!!?」
すると、背後から叫び声が響く。
「まさか…!!?」
叫び声を聞いた途端、チェスの表情が次第に青ざめる。
そして、悲鳴の後に現れたのは…つい先程、ロレリア教授の先導で逃げ始めたばかりの学者達であった。
そして、逃げ行く彼らを追い立てるように現れたのは――――――――――金の髪と瞳を持ち、背中に白い翼を持つ男だった。
「“堕天使”ミトセ…!!?」
その姿を見たチェスは、目を丸くして驚く。
しまった…囲まれたか…!!!
前方にはタイドノル。そして、今現れたミトセによって、退路を絶たれた事にイブールは気がつく。
「さーて!!話しているだけじゃつまらねぇし…楽しませてくれよ…?」
前方で不気味な笑みを浮かべながら呟くタイドノルの瞳は、殺気に満ちていたのである。
※
「ぐあっ…!!!」
「クウラさん…!!」
衝撃壁に吹っ飛ばされたクウラは、苦しそうな
ラスリアが、そんな彼の側に駆け寄る。イブールとチェスが敵に囲まれた一方で、アレンとラスリアは違う敵と対峙していた。
「全く…弱い犬ほどよく吠えるというのは、本当だよね」
彼らの視線の先には、燃えるような紅い髪を持つ男が、ため息交じりで言う。
その男の指からは、伸縮自在の矛が連なっている。地面に座り込んだクウラは、敵に立ち向かい、その矛で斬られたのであった。
「貴様が、“8人の異端者”の一人・“野獣”ハデュスとかいう男か…」
「よく知っていたね!…といっても、あの魔術師のお嬢さんから、話を聞いているって所かな?」
鋭い眼差しで睨み付けるアレンに対し、男は飄々とした態度で返事する。
やっぱり、この
ハデュスを見上げながら、ラスリアはふとそう思った。
「ラスリア…。そいつと共に、下がっていろ」
「う、うん…」
剣を構えたアレンに対して、頷くラスリア。
しかし、アレンが再び敵の方を向いた際、ラスリアは大事な事を思い出す。
「アレン…その人の狙いは…!!」
しかし、時既に遅く…アレンは、ハデュスに立ち向かっていた。
剣と矛のぶつかり合う音が、周囲に響く。
「…なかなかいい腕しているねぇ。“ガジェイレル”…」
「その名前で呼ぶな…!!」
両手で剣を振るうアレンに対し、ハデュスは片腕の矛で軽く受け流す。
…今はとにかく、彼の治療を早急にしなきゃ…!
ラスリアは、アレンの事を心配しつつも、まずは傷の深いクウラを治そうと、
「ラスリアさん…これは…?」
「…今は、説明する暇がありません。とにかく、大人しくしていてください…!」
「自分は…悔しいデス…」
「えっ…?」
「皆さんと会う…少し前……自分の親友が、奴らに殺されたんデス…。遺体からは、ナイフにしては細い斬り傷があっ…タ…。だから、奴が敵なのニ…!!」
拳を握り締めることで、クウラは怒りを抑えている。
その表情は、今にも泣き叫びそうな状態であった。
「クウラさん…」
彼の話を聞いたラスリアは、うつむいてしまう。
この時浮かべたクウラの表情が、まるで「自分は無力だ」と考えている自身と重なった部分があるからだろう。
「ぐっ…!!」
「アレン!!?」
アレンのうめき声が聞こえ、ラスリアは俯いていた顔を上げる。
彼女の目の前には、地面に足をついたアレンと、勝ち誇ったような
「やれやれ…。“君たち”は、殺してはいけないって言われているんだけどなぁ…」
「それは…貴様らを束ねている奴…か!!?」
息を上げながら、アレンは敵を睨む。
「…さぁね。でも、君が僕らのところに来てくれれば、自然とわかる事なんじゃない?」
ハデュスは、飄々とした口調で話す。
まずい…。このままでは、アレンが連れてかれてしまう…!!
そう思ったラスリアは、すぐにアレンの側に行き、立ちはだかるように彼とハデュスの間に立つ。
「ラスリア…!!」
「彼を連れて行かせないわ…!!!」
ラスリアは、鋭い眼差しで敵を睨みつける。
怖い…。でも、そんなこと考えている場合じゃないわよね…!!
今現在、チェスやイブールがこの場にいないため、ラスリアは何とか乗り切らなければという想いを強く持つ。
一方でアレンも、再び立ち向かおうとするが…今の戦いで足を挫いたようで、すぐには立ち上がれない状況となっていた。
対するハデュスは、2人の様子を黙って見つめる。その顔に不気味な笑みが浮かんだ後、彼は口を開く。
「大丈夫だよ!今日は、彼を連れて行くために来たわけじゃないから…」
「え…!?」
予想外の
すると、その一瞬の隙をついて、ハデュスの腕が自分に伸びてくる。
「あっ…!!?」
伸びてきた腕はラスリアを絡めとり――――気がつくと、ハデュスの腕に抱き寄せられていた。
「今日は、君を迎えに来たんだ。
「えっ…!!?」
自分の耳元で囁くハデュスの
「よくわからないけど…放して…!!」
ラスリアは、敵の腕の中から逃れようと、身動きを取ろうとする。
しかし、伊達に“野獣”と呼ばれていないのか、彼女の肩から首にかけて掴んでいるハデュスの腕は、ビクともしなかった。そんなラスリアを見たハデュスは、その場でため息をつく。
「全く……馬鹿だねぇ…」
「痛っ…」
ハデュスがボソッと呟いた後、ラスリアの首筋に軽い痛みが生じる。
彼が背後から、ラスリアの首筋を浅く噛み付いたようだ。
「あ…れ…?」
その直後、ラスリアの視界が突然曲がり始める。
なんか…すごい…眠…く…?
ラスリアは、視界が捻じ曲がるのと同時に、突然の睡魔に襲われていた。
「おやすみなさい、お姫様…」
耳元で囁いているハデュスの声すら、だんだん聞こえなくなる。
そして、ついにはラスリアの視界は真っ暗になってしまうのであった。
※
「貴様…ラスリアに何をした…!!?」
アレンは痛めた足を抑えながら、ハデュスを睨みつける。
ハデュスに首筋を噛まれたラスリアは、その腕の中で意識を失っていた。
「…何をしたかって?僕の歯は、ちょっとした毒が含まれている。それで眠らせただけ…かな?」
「貴様っ…!!」
アレンは敵を睨みつけてはいるが、内心は動揺していた。
そんな彼を眼中にないように、ハデュスは気絶したラスリアを担ぎあげる。
「まさか、貴様の目的は最初から…!?」
その様子を見たアレンは、敵がこの場に現れた真の目的に気が付く。
一方で、敵は否定をせずに、ただ不気味な笑みを浮かべていた。
「ぐあっ!?」
その直後―――――アレンの腹部に痛みが入り、そのまま壁に飛ばされる。
ハデュスが、アレンを蹴り飛ばしたのだ。
このかんじ…。肋骨にひびが入ったか…!!?
アレンが腹部を抑えていると、ハデュスは彼の目の前を通りすぎようとする。
「この
「…!待て…っ…!!」
彼は敵を引き止めようとするが、痛みであまり大きな声が出せなかった。
「ラスリアっ…!!」
アレンは、苦し紛れにラスリアの名前を叫ぶが―――――――――彼女を抱えたハデュスは、何処へと去ってしまうのであった。
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