第39話 表情や心を見て感じ取れる事

地面を引きずるような音が、周囲に響く。

「“ガシエルアカデミー“の本部がある都市、メッカルかぁ…。そこって、すごい大きいのかなぁ?」

「そうね。レジェンディラスで云うアテレステンみたいな街らしいから、街の規模も凄そうよね!」

アレン達は、トラックという乗り物に乗って移動をしていた。

狭いトラックの中で、チェスとイブールが目的地のメッカルについて語る。

4つある内、手に入れたキタモラフ石は一つ…。「あと2つは何とかする」とシアは言っていたが…果たして、あの女に任せて大丈夫なんだろうか?

アレンは一点を見つめながら、考え事をしていた。

「…それにしても、“8人の異端者“が世界中で暴れ回っているなんて、実感が湧かないな…」

「その話だが…さっき、学者連中がこんな物をくれたぜ!」

ラスリアの呟きを聞いたミュルザが、数枚の紙束を彼女に渡す。

それを目にしたイブールやチェスも、ラスリアの近くへ寄る。

「…これは?」

「確か、新聞…とか言っていたな。見た所、各地での情報が紙に書かれているみたいだな」

ミュルザの説明を聞いたラスリア達は、新聞に見入る。

「ええっと…“機械都市ゲヘナを始め、近隣諸国や敵対している国でも、死者数百名。重傷者が数千人“…!?」

「なっ…!!」

新聞の記事を読み上げるラスリアだけでなく、その場にいる全員の表情が一変する。

「まさか、それが全部”8人の異端者”の仕業って事!!?」

チェスが目を見開いて驚いていた。

記事に食い入るラスリアは、何も答えなかった。それはまるで、事実を肯定するように――――――――

「…君らの世界の分も合わせれば、かなりの被害になっていル」

「てめぇは…」

アレン達の視線に入ってきたのは、イブールの師・ロレリア教授が知り合った学者、トキヤ博士だった。

「トキヤ博士…だったかしら?貴方、私達の世界・レジェンディラスの言語ことばを話せるの?」

博士の登場で緊迫した空気の中、イブールが問いかける。

するとトキヤ博士は、イブールに視線を合わせて言う。

「…君の師であるロレリア教授から教わったんダ。今は何よりも、仕事に専念しなくてはならないカラネ…」

博士は、少し訛った口調で語る。


その後、トキヤ博士とイブール。そしてチェスの3人は、何やらいろんな事を話し始める。

そういえば、あの男…誰かに似ているような…?

アレンは、トキヤ博士を見つめながら、ふと考え事をする。

この時、彼は“もう一人のガジェイレル“である女性・セリエルと肉体が入れ替わっていた時を思い出す。記憶の中に映るのは、トキヤ博士そっくりの青年と、ストの村で対面したジェンド博士の顔だ。

…そんなわけないか…

記憶が曖昧ではっきりと思い出せないアレンは、トキヤ博士の事について考える事を止める。


          ※


…1世記ぶりに訪れたから、大分見た目がマシになってきたな…

目的地であるメッカルに到着し、一行はトラックから降りて歩きだしていた。100年前に一度訪れた事があったミュルザは、懐かしそうに辺りを見渡す。

「“ガシエルアカデミー”は歴史が古くてネ…。200年くらい前に発足されたらしいんだ」

「200年か…。かなり古いんだな」

歩きながら語るトキヤ博士に、アレンが同調していた。

「…なぁ。この学者共が、邪魔くせぇんだが…」

辺りに数十人の学者が並んでアレン達を取り囲んでいる状態に、ミュルザは居心地悪そうな表情で呟く。

「君はともかく…チェス君のような竜騎士は特に、アビスウォクテラには存在しなかった。多分、一番注目を浴びているのは彼であろウ」

トキヤ博士の台詞ことばを聞いたミュルザは、黙り込んでしまう。

 …俺達悪魔は、世界が統合される前は両世界を行き来していたから、見たことない野郎なんていなくて当然だが…。今の言い方は、何だか嫌なかんじがしたな…

ミュルザは、不機嫌そうな表情かおで考えていた。

 そして、一行はガシエルアカデミーの本部に到達する。

「あの変な形をしたモノ、何?」

珍しい物体を目にしたチェスは、視線の先にある人間が間をくぐっている白い門のようなものを指差す。

「あれは、不審物を持っていないか調べる機械だヨ。チェス君の場合、槍を持ったまま通ると、ブザーが鳴ってしまうので…あれをくぐるときだけ、武器を預からせてモラウ」

「…という事は、俺の剣も…か?」

「…はい…」

アレンから問いかけられたとき、トキヤ博士は一瞬だけ固まっていた。

 アレンと瓜二つな女…?もしや、今のは…!?

アレンを見て固まった時、ミュルザはトキヤ博士が考えていた事とを偶然読んだ。

読み取った中でミュルザの目を引いたのは―――――銀色の髪を持ち、アレンと瓜二つの顔をした女性だった。トキヤ博士の考えていた内容ことのため、この女性と会ったことがあるというのが、どう見ても明らかであった。

そして、ゲートのようなものを潜り抜けたミュルザ達は、とても長い机の存在する部屋へ入る。

「さて、今後の動きについてだが…。君達は、“8人の異端者”に遭遇したことは…?」

ジェンド博士やロレリア教授も揃い、全員が椅子に座った状態で話し合いが始まる。

その第一声を出したのが、ロレリア教授だった。

「…俺たち全員が見たのは、3人。それと、イブールが見たという男も、連中の仲間らしい」

「4人か…。因みに、奴らの名前や特徴は覚えているかね?」

「…竜騎士“ダークイブナーレ”の女性、ヴァリモナルザ。黒髪・黒い瞳で、その瞳には憎悪が宿っていた…」

そう呟いたチェスの表情は、複雑そうな表情かおだった。

 …まぁ、あの女と戦ったのはガキんちょだけだし、説明しなくてはならないのは仕方ねぇよな…

完全に他人事のような想いで、ミュルザは彼らを観察していた。

悪魔である彼にとって、この世界がどうなろうと知ったことではない。ミュルザが一番に優先したいのは、主であるイブールが“復讐”という名の目的を達成し、自身に魂と肉体を差し出す事だからだ。

一方で、話は続く。ミュルザも目撃している“血に飢えた吸血鬼”ジェルムや、“魔法使い”コルテラ。そして、イブールが見かけたという伸縮自在の矛を持つ男の話も出る。

「あのー…」

「シア…じゃなかッタ。ラスリアさん…かな?どうかしたのかい?」

トキヤ博士が、何故かラスリアの名前を言い間違えた後、彼女に問いかける。

「いろんな事があったので、うろ覚えでもあるんですが…」

「ラスリア…?」

少し困惑気味な表情で口を開くラスリアに、全員の視線が集まる。

「世界統合して間もない時に、私が出会ったあの男の人も…もしかしたら…」

「…そいつに、襲われたんだな?」

「なっ!!?」

ミュルザの台詞ことばを聞いて、アレンやチェス達の表情が一変する。

 ラスリアちゃんの思考から見ると…この野郎も、ただの人間じゃねぇな…

ミュルザの脳裏には、ラスリアから読み取った人物――――――濃い茶髪と白銀色の瞳を持ち、大剣を軽々と担ぎ上げていた男の姿が浮かんでいた。

「おそらく…ラスリア君が言った男が“魔人”の異名を持つ男・タイドノル。そして、イブール君が見かけたという男は、“野獣”ハデュスだろうな…」

ジェンド博士が話す言葉を、ロレリア教授が直訳して話してくれた。

「まずは、君達が知っている奴らの情報を、できる限り欲しい。…そしてそれを聞いた上で、奴らの討伐計画を練る!!」

「因みに…討伐軍の指揮を取るのは、ギルガメシュ連邦という軍事国家らしい。それと、わたしの所属するコミューニ大学からも、人材の支援などを記した文書を送ってある」

「そっか…。教授は、学長とも交流がありましたものね!」

全体の説明の中で、ロレリア教授がこっそりと呟いた。

教授をよく知るイブールは、その発言に信憑性があるのをよく理解していたのである。

竜騎士ウォトレストと連絡を取れるのも僕だけだし…。僕も、会議に参加した方がいいんだよね?」

「ああ。もちろんだとも!是非、よろしく頼む」

「その台詞を待っていました」と言わんばかりの口調で答えた後、ロレリア教授はチェスの両肩を軽く叩く。



「君達には申し訳ないが…知識人として、チェス君とイブール君を借りるよ。ここの警備は、どの国にも引けをとらないくらいしっかりしているらしいから、君達3人は建物内で自由にしていてくれ」

ロレリア教授からそのように言われて、ミュルザ達は各々で自由行動することになった。

 …しかし、ラスリアちゃんが“あの話”をしなければ、アレンの野郎に“護衛”なんざつかなかったんだろうなぁ…

独り建物内を歩くミュルザは、ふとそんなことを考えていた。


それはつい先程、ラスリアが「アレンが敵に狙われているかもしれない」という一言から始まった。

「…それは、本当かね!!?」

「はい…」

ラスリアの思いがけない発言で、周囲が静まり返る。

「その…さっき私がお話ししたタイドノル…という男性ひとは、確かにアレンをどこかに連れて行こうとしていた…」

ラスリアは、その当時のことを思い出しながら語る。

「ラスリア…何だか震えているわ。大丈夫?」

少し怯えながら話すラスリアに、イブールが心配そうな表情かおで見つめる。

「大丈夫…」

ラスリアは、自分に言い聞かせるようにして呟いた後、話を続ける。

「あの後、何があったのかわからないですが…彼は、アレンを連れて行かなかった。でも、次に遭遇する事があった場合は、同じような事にはならないと思います。おそらく…」

ガシエルアカデミーの面々とアレン達の会話を、ミュルザは後ろのほうで聞いていた。

辺りを見回したとき、ロレリア教授など、ほんの一部の人間がアレンの事を知っているように読み取れた。


「あの男、すごい変な髪色だよなー…」

「やっぱり、“あっちの世界の人間”は野蛮人が多いからかねぇ…」

気がつくば、自分とすれ違った学者達が、ミュルザを見て陰口を叩いていた。

 くだらねぇ…

しかし、当のミュルザはそんな小言を全く気に留めていない。ミュルザは、建物内の廊下を歩く。

 “人間の手助けをする”というのは面倒くさいが…あの堕天使を“正当な理由”でなぶり殺せるというのには、ある意味感謝かもな…

ミュルザは、考え事をしながら不気味な笑みを浮かべる。

はるか古代より争いの耐えなかった、天使と悪魔。その当時の敵対心は現在まで残り、“天使は八つ裂きにし、魂をも破壊する”という行為が、悪魔達の中で当たり前の事とされている。

 “8人の異端者”とやらの争いが始まったら、俺様の相手は間違いなく“堕天使ミトセ”だな…。腕が鳴るぜ…!!

ミュルザは正当な動機ではないが、アレン達も彼らとの戦いに備えて、士気を高めていくのであった――――――――

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