第6章 敵も求めている”キタモラフ石”
第28話 状況整理
“世界統合”によって、世界は本来の姿を取り戻す。しかし、言語や文化の全く異なった形で発展を続けていたレジェンディラスとアビスウォクテラの人々は、事態を把握できずに混乱を極めた。アビスウォクテラにある“ギルガメシュ連邦”という国だけがこの事態を把握し、少しずつ対処してきたが――――――
鳥の鳴き声…梟の類か…?
長い眠りについていたアレンは、少しずつ意識がはっきりしてくる。そして、窓を開けるかのように重たくなった瞼をゆっくりと開く…。
「う…」
瞳を開いたアレンが最初に目にしたのは、木の葉だった。
枝から落ちてきた1枚の葉っぱがアレンの頬に当たり、彼はゆっくりと起き上がる。
「ここは…」
意識を取り戻したとはいえ、まだ頭の芯に霧がかかっているような状態のアレンは、ゆっくりと辺りを見回す。
彼の周囲は真っ暗で、横には焚き火を消した跡がある。
今は、夜…なんだな…
木々の隙間から見える月と、梟の鳴き声で、アレンは今が夜だと認識した。
「…よう」
斜め後ろから、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ミュルザか…」
「おお!…やっと目覚めたようだな…」
目が覚めたアレンを見たミュルザが、満足そうな笑みを浮かべる。
「どうやら、色々と混乱しているかもしれねぇが…」
ミュルザは、途中で何かを言いかけながら、地面に寝ているラスリア達に視線を落とす。
「こいつら、いろいろと疲れているみたいだから…詳しい話はまた翌日…な?」
そうアレンに伝えたミュルザは、そのまま木に寄りかかる。
アレンは、自分の近くですやすやと眠っているラスリアとチェスを見つめる。
無事…だったんだな…
アレンは未開の地にて、“星の意思”に頭の中を介入され、ほとんど意識のない状態に陥っていた。自分がしでかした事によって…仲間たちに危害を及ぼしていたのではとずっと気がかりだった。
そのため、
…今の段階で、俺が“目覚めた”のを知るのはミュルザだけだし…。ひとまず、朝までおとなしくしてるとするか…
そう考えたアレンは、再び地面に寝転び、瞳を閉じて眠りについた。
そして、翌朝―――――――――――
「アレン…元に戻ったんだね!!」
チェスが、何かに感激したような
「…アレン…!!」
「…!!」
かすれたような声で自分の名前を呼んだラスリアが、いきなり抱きついてきた。
「おい、ラスリア…」
突然の出来事に戸惑うアレンの頬が、僅かに赤くなる。
「私…すっっっごく心配していたんだからね…!!」
気がつくと、涙で顔がグシャグシャになっているラスリアが、アレンの顔の近くにあった。
そして、再びアレンの胸にすがりついて泣く様を見た途端、彼は、不思議と暖かい気持ちになっていた。
「悪い…。心配、かけたな…」
自分のためにここまで心配してくれる事が、アレンにとっては何よりも嬉しかったのだ。その気持ちもあってか―――――アレンは、ラスリアの背中に自分の腕をソッと回した。
「…なかなか、お熱いことで!!」
気がつくと、チェスとミュルザの卑しい視線が感じ始める。
それを不快に感じたアレンは、即座にラスリアを離す。そして、少し捻くれたような
「と、とにかくだ…。俺が目覚めるまでに何があったか、教えてくれないか?」
アレンの一言で、皆引き締まったような表情を見せる。
「そうだね。…結構いろんな事があったし…ね」
「だな。この後にまた出発しなきゃいけねぇし…今のうちに、状況整理でもしときたいよな」
互いを見て話す、チェスとミュルザ。
しかし、その横でラスリアだけは口を開かずに黙り込んでいた。
「…ラスリア?」
どうかしたのかと思ったアレンは、ラスリアに声をかける。
「あ…ううん、大丈夫だよ」
アレンの視線に気がついたラスリアは、笑顔で返す。
しかし、それが無理して作ったような笑顔ではないかとアレンは感じていた。
「まず、話を遡るには…あの時だな!」
そう始めに切り出したのが、ミュルザだった。
「アレンとラスリアちゃんが、教団共に連れて行かれた後…俺とイブールとこのガキんちょは、連中の手で幽閉されていたが…」
「だから、ガキ扱いしないでよ!!」
言いかけたミュルザに、チェスが割って入ってくる。
それを見た悪魔は、ため息交じりで再び話し出す。
「…まぁ、お前がイブールに教えていた言葉ってのが、あの首輪を外すバスワード的なモノだという事に気がつき…力を取り戻した俺様は、こいつを連れて脱出できたわけだ」
「気がついた…か」
ミュルザの話を聞いて、アレンは自分が口パクで伝えていた内容をわかってもらえた事に、少し安心していた。
「そして、ルーメニシェアを脱出後…地震に遭って気絶して…。その更に後、俺様はこいつに“水竜の元へ行け”と指示した」
そう語るミュルザは、チェスの方を指差す。
アレンとラスリアは、彼の会話を黙って聞く。
「そして、僕は…ミュルザやイブールと別れて、単独行動を開始。…ウォトレストの村に戻ってウンディエル様にお会いし…ラスリアを発見する事ができた」
「…水竜の元へ行った理由は…?」
「…ミュルザですら、この世界が分裂する前を知らなかった。だから、僕らの身の回りで
アレンの質問に対し、チェスは懸命に答えてくれた。
「という事は…。チェスと合流するまで、お前は…」
「…うん。私は多分、川に流されて倒れていたみたい。そのおかげで、ウンディエル様が私の“気”を感じ取ってくれたらしいわ…」
アレンは、ここまでの内容を頭の中で整理する。
3人で脱出したチェス達は地震…世界の統合が成された後に2手に別れ、単独行動を開始したチェスが、1人行方知らずになっていたラスリアを見つけた…といった所か…
アレンは、腕を組みながら考え事をする。
「そういえば…。ミュルザはイブールと行動を共にしていたのよね?…どうして今は、単独行動を…?」
不思議そうな
「言われてみれば、確かに…」
アレンも、なぜ別行動を取っていたミュルザが今は、イブールとも別々になっているのかが気になっていた。
そして、面倒くさそうな
「…俺様が、チェスと別れた後、イブール姐さんが“行きたい”と言っていたとある遺跡へ向かったんだ」
「…趣味の遺跡発掘って事か…?」
アレンが皮肉るような口調で呟くが、ミュルザは反論する事はなかった。
「…まぁ、それも理由の一つかもしれねぇが…」
「確か、僕と別れる前…“あそこに行けば、何かわかるかも”ってイブールは言ってなかったっけ?」
うつむくミュルザに、チェスが補足する。
「ああ。そして、イブールの記憶を頼りに…俺達は、その遺跡にたどり着いたんだが…」
「…何かあったのか?」
複雑そうな
すると、彼は首を縦に振った後に口を開く。
「どうやらその遺跡…特殊な結界みたいなのが張り巡らされていて、俺様だけ入る事ができなかったんだ」
「じゃあ…イブールは、1人でその遺跡の中へ進んだという事?」
「…ああ。“ここまで来たのに、あきらめるわけにはいかない”とか言ってな…」
「悪魔を弾く結界がある遺跡…か…」
ラスリアの問いにミュルザが答え、その側でチェスが低い声で呟いていた。
「…そんで、俺はあいつを待つために遺跡の近くで居眠りしていたが…。せっかく暇なのだから、お前らと合流でもしておこうかと思って…昨夜、お前が目覚める前に、こいつらと合流したんだ」
そう語るミュルザの視線はアレンに向いていたが、顎でラスリアやチェスの方を指していた。
「本当…いろいろあったんだな…」
これまでの経緯を知ったアレンは、ボソッと呟く。
俺も…目が覚めるまでに起こった出来事を…話せる限り、教えといた方がいいかもな…
アレンは、「そうしよう」というより、「そうしなければ」という思いに駆られていた。
「お前は…眠りについている間、何があったのか…覚えているのか?」
ミュルザがアレンの顔を覗き込むようにして、顔を近づける。
「…――――」
アレンは何かを言いかけた時に気がつく。
今はとにかく…イブールと合流する方が先…だよな
そう考えたアレンは、立ち上がって仲間たちの方を見る。
「覚えている範囲でしか伝えられないが…とりあえず、歩きながら話そう…」
そう言い張ったアレンは、先頭を切って歩き出した。
※
それからアレンは、ラスリア達に、自分が目覚めるまでに起きた出来事について語り始めた。自分と同じ“ガジェイレル”であるセリエルという女性に出会っていた事。“未開の地”で“イル”に触れた事で、その女性と自分との肉体が入れ替わっていた事。そして、“8人の異端者復活”といった情報を交換していた事や、肉体が入れ替わっていた時に起きた出来事について話してくれた。
という事は…あの時、車椅子に乗せて一緒に避難していたアレンの中には、セリエル…という
アレンの話を聞いたラスリアは、黒い竜が村に襲い掛かってきた時の事を思い返していた。
普通だったら到底理解できないような内容をアレンが話したにも関わらず、ラスリアを含む仲間達は、割りとすぐに理解を示していた。
「…“8人の異端者”の中に、竜騎士もいたんだ…」
気がつくと、チェスがラスリアの横でポツンと呟いていた。
「チェス…どうしたの?」
ラスリアが彼に声をかけたにも関わらず、チェスはまるで聞こえてないかのようにボソボソと呟く。
「兄さんやウォトレストの皆から聞いた、漆黒の竜騎士の話…。もしかして、“彼女”が…?」
「…ガキんちょ!!!」
ラスリアの声に聞く耳持たずなチェスを見かねたミュルザが、大声でチェスを呼ぶ。
「えっ…なに…?」
「ガキ」という言葉に反応したのか、チェスはやっと、周囲の状況に気がつく。
何を考えているのかがお見通しだったミュルザは、彼を見下すような
「…お前、女の子を困らせてるんじゃねーよ。それに…あともう少しで、目的地に着くぜ?」
「そっか…ごめん」
ミュルザに指摘されたチェスは、その場で俯いてしまう。
私に気を使ってくれたのか…それとも、ただチェスがボソボソ呟いているのが気に食わなかっただけなのか…。どちらにせよ、少し助かったかも…
ラスリアは、内心でそう感じていた。
チェスの呟いている内容は理解できなかったが、彼らのいる場所から少し離れた場所に、遺跡と思われる高さのある塔が目に入ってくる。
「あそこに、イブールが…」
ラスリアは、天まで届きそうなくらい高さのある塔を遠くから見つめながら、一言呟く。
そして、彼らはイブールがいるという、遺跡へ足を進めるのであった。
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