第11話 普通の第3部「最後の選択」4

今日6万字が目標で、やっと5万字超えた。忙しい・・・。



ここはポンジャ城。王の間。


「あれが若い頃のおじいちゃんか。」

「なんだか若返っているから、笑っちゃいそう。クスクス。」


コウとナーは勇者候補生として、10人の中に残ることができた。そして、若かりし頃のハチを見ている。2人は暗黒の騎士の年老いた姿しか知らないからだ。


「よくぞ来た。勇者候補生の諸君。」

「おはようございます。王様。」


冒険の準備をして、勇者候補生の10人が、ポンジャ城のポンジャ王に謁見している。1人くらいはあくびをしている勇者候補生もいるはずだ。初登場のポンジャ大臣である。


「王様!? 大変です!?」

「どうした? 大臣?」

「1人が遅刻の連絡がありました!?」

「んん・・・、まあ仕方がない。勇者候補生だからな。」

「もう1人が自宅に引きこもっています!?」

「なな・・・。ホームシックは勇者候補生にはよくあることだからな。」

「あと1人が行方不明になりました!?」

「もう勝手にしてくれ!?」


ここで整理してみよう。現時点で「伝説の10人勇者」のメンバーを。まず主人公ハチ。そして暗黒の騎士としても登場したイチ、ニ、サンと、引きこもりのゴー。ここに邪悪なる者ヨヨヨヨヨンになるヨンもいる。あとは「遅刻」「行方不明」と、ここに来ている残り2名が、コウとナーになる。


「本当に、こいつらが伝説の10人勇者として、未来永劫、称えられているのだろうか?」

「こいつらはダメでしょ? この人たちにしときましょうね。一応、身内だし。」


大丈夫か!? 勇者候補生たちよ!? コウとナーも心配するぐらいのレベルだった。悲しいのはハチもポンジャも自分たちの先祖ということであった。


「そういえば、私のおじいちゃんがいないわね?」

「行方不明の1人だろ?」

「・・・おじいちゃん最初から戦う気がなかったのね。」

「まあまあ、そのお陰でナーが生まれたんだから。」


これで噂の「行方不明」もナナおじいちゃんということで、落ち着いた。それにしても、この酷い初期設定から現時点で5万字を超える対策に良くなったものだ。


「もうすぐ、チャンスがやって来るわよ。」

「分かっている。しくじるもんか!」


コウとナーの顔が真剣な表情になる。自分たちは遊びに来た訳ではない。世界の平和のためにやって来たのである。


「勇者候補生には、ポンジャ姫を救い出すために、魔王モヤイの城を目指してもらう。」

「ははあ。」

「魔王モヤイの城は・・・目の前だ!」

「なに!?」

「しかし、あの川は渡れないだろう!?」


正確に言うと、ポンジャ城と魔王モヤイの城の間に、大きな川が流れていて、川の流れが激しく直接渡ることができない。


「ということで、勇者候補生の諸君には、川を進むか、遠回りして進むかを各自で判断して進んでほしい。」

「ははあ。」

「では・・・解散。」


偉い人の話が長いのは、大人も子供も、みんなが嫌い。ということで、王様の長い話はカットしてしまおう。


「あいつがヨン。邪悪なる者ヨヨヨヨヨンになる者か。」

「んん? どちらかというと人見知りみたいな感じかしら?」


ヨンは、1人でいた。ハチたちに声をかけようか、声をかけたいが声をかけれないような、声をかけてくれるのを待っているような、もどかしい感じだった。


「ああ!? みんなが行っちゃう!? なんとか声をかけて、友達にならなければ!?」


ヨンは人付き合いが苦手な性格だった。そのため自分の気持ちを言葉に置き換えて伝えるということが苦手だった。勇気を出して振り絞った言葉でも、つい誤解を招く言葉が口から出てしまう。


「貴様たちにはお似合いだな!」

「ヨン!?」

「俺様が川を越えて、魔王の城に1番にたどり着いてやる! おまえたちには引きこもりの相手がお似合いだ!」

「なんだと!? てめえ、やるか!?」

「イチ、やめてください。」

「わ!? わ!? わ!?」

「普通に相手にするのはやめておこう。」

「さらばだ! 雑魚ども! ワッハッハ!」


ただ、面白そうに言って、みんなの笑いを取り、ハチたちのグループに入りたかった。ヨンの本心は、成人男子にしては、カワイイものだった。


「ああ!? みんな、行っちゃった!? なんてしゃべるのが僕は苦手なんだ!? ヨンのバカバカ!?」


決してヨンに悪意はない。少し口下手で言葉足らずなだけだった。本当は強い仲間や、セクシー美女も、自分なんかには不釣り合いだと諦めた結果だった。


「なんだか、イメージと違うな?」

「油断しちゃダメよ! ヨンが世界を滅ぼすんだから!」


正直、ナーもコウと同様にヨンを見て、違和感を感じていた。このヨンが本当に邪悪なる者になり、世界を闇の蔦で覆いつくすものになるとは思えなかった。


「・・・どうせ僕なんか・・・。」


自分に自信がなく、内気なヨンは心の中に多くの闇を抱えていた。その闇が増大され、やがて世界を闇で覆いつくすことになる。



ここはポンジャ城の外。


「いくぞ。今のヨンなら簡単に倒せる。」

「ええ。世界のために。」


ヨンが1人になったのを見計らい、コウとナーは世界の平和のために、か弱そうなヨンに襲い掛かろうとする。


「みんなのために強くなって、魔王モヤイを倒してやる! そうしたら、みんなも友達になってくれるよね!」


この時の非力だが笑顔がかわいいヨンは、まだ夢や希望に満ちていた。とても邪悪なる者ヨヨヨヨヨンになるようには見えなかった。


「なんだ!?」

「これは・・・闇!?」


2人とヨンの間に闇が現れる。まるでヨンを守るかのように、闇がコウとナーに襲い掛かってくる。ヨンはコウとナー、闇の存在には気づいていなかった。


「危ない! ナーは下がって!」

「コウ、気をつけて!」

「聖なる五芒星と闇の五芒星よ! 1つに成りて、全てを消し去れ! ホーリー&ダーク!!!」


コウは父親から受け継いだ必殺の1撃で闇を消し去る。しかしヨンの姿はもう消えてしまった。


「ヨンを見失ったか!? ん? どうした? ナー?」

「闇が現れるなんて、私は知らない、知らなかったのよ!?」

「まさか!? もうヨンは闇を操れるというのか!?」

「このままでは世界が滅んでしまう!? 運命通りに進むというの!? 運命を変えることはできないの!?」


ナーが1人で下見に来た時には、ヨンに闇を感じなかった。それなのにコウと2人で来た今回は、今までと何かが違う。ナーは嫌な予感がする。2人はヨンの暗殺の次の機会を伺うことにした。



ここはポンジャ城の前の激流の川の付近。


「ここでヨンが川で溺れて、激流の下流の洞窟に流れてしまう。その前に倒すか、溺れたのを助けるかのどっちらかね。」

「事実上のラストチャンスだな。」


コウとナーも偶然を装って、事件が起こる現場で待機している。そこへ引きこもりのゴーを仲間に入れて帰ってきたハチたちが現れた。そして、ヨンも。


「あ!? みんなが帰ってきた!? よ~し! 強くなった僕の姿を見せてやる! 僕が川を渡って、魔王を倒して、みんなと友達になるんだ!」


ただ、友達が欲しいだけだった。みんなの輪の中に入りたかっただけだった。自分が必要とされる人間になれば、きっと、みんなと仲良くできるはず!? 意外にもヨンは内気で純粋なヤツだった。


「遅かったな! 貴様たち!」

「ヨンだ・・・。」

「うざい・・・。」

「む、む、無視・・・。」

「誰ですか? あのいじめてほしいと立候補しているバカは?」

「あれは普通に相手にしなくていいから。」


しかし、空回りした。人付き合いが苦手なヨンは、自分の言いたいことの少しも言えないのだった。ただみんなと仲良くしたいだけなのに。


「貴様たちが遊んでいる間に、この辺りの敵は俺様が倒してやったぞ! 貴様たち! 弱い敵を倒して、安全にレベルをあげれると思うなよ! ワッハッハ!」

「なんて、迷惑なヤツだ。」

「つ、つ、通報しますか?」


第一印象はそう簡単には変わらない。ヨンは周りのみんなから誤解されてしまっている。普通に話をすれば、とてもいい子なのに・・・。


「安心しろ! 俺様のレベルは1日で10になった! 俺様が川を渡って、魔王モヤイを倒してやる! 姫と結婚して、国王になるのだ! ワッハッハ!」

「こいつ、国の乗っ取りまで考えているのか!?」

「こ、こ、殺してしまいましょう!?」


あれ? 何か空気がおかしいな? なんだかみんなが僕のことを見る視線が冷たいような? 僕を殺す? きっと冗談だよね? よし! 僕が川を泳いで、みんなに勇気を与えるんだ!


「俺様が川を渡るところを見せてやる! さらばだ! 雑魚ども!」

「ヨンの態度はムカつくな。」

「まあまあ、目の前から消えてくれるんですから、放っときましょう。」

「ま、ま、魔王にやられてしまえばいいんだ!」

「なんか空気悪いし、面倒臭くなってきた。家に帰って引きこもっていいか?」

「人間が2人いれば、争いが起こるのが普通だよ。」


ヨンを取り巻く周囲の雰囲気は険悪なものになっていた。ヨンは純粋でかわいい良い子なのに、一般成人男子のハチたちの方が普通なのだが、コウやナーには冷たい態度だと目に映った。


「ハチさんたち、いじめだな。そりゃあ、あんな冷たい態度を取ったら恨みを買って、普通に邪悪なる者を生み出してしまうぞ。」

「そうね・・・。」


ナーは腑に落ちなかった。納得がいかないのだ。ヨンの独り言や外に出てしまっている心の声を聞いていると、純粋そのものであった。邪心の欠片も見えない。


「変よ! やっぱり変よ!」

「どうした?」

「ヨンの心と、ヨンがハチさんたちにしゃべっている言動があべこべ過ぎる!?」

「そう言われてみれば。」

「ヨンは普段、自分のことを僕って言うわ! でもハチさんたちに話す時は、俺様や貴様、雑魚どもなんて言葉を内気なヨンが使うなんて考えられないわ!」

「確かに・・・。」


ナーは確信に触れる。成人男子のコウでは気づかないだろう、細かい言葉の使い方に、成人女子のナーは気づいた。


「まさか!? 闇!? それで心にもない言葉を!?」

「そうよ! それしか考えられないわ! コウはヨンを取り押さえて! 私は最悪に備えて、ヨンが川で溺れたら、次元を捻じ曲げてヨンを助けるわ!」

「分かった! ヨンのことは任せろ!」


コウは川に飛び込もうとするヨンを止めようと駆け寄る。ナーは運命通りなら、川に溺れてしまうヨンを助けるために、川辺に向かう。


「ヨン! 待つんだ!」


今ならまだ間に合う! 飛び込んで体を抑え込むことができる。運命は変えられる! 世界を平和にすることができる! コウはヨンの元に駆ける。


(邪魔はさせんぞ!)


謎の声が聞こえてくる。その声は悪意に満ち溢れていた。声と共にコウの進路に、邪魔をするように闇が広がっていく。


「こ、声!? なんだ!? この邪悪な闇は!? ヨン! やめろ! 川に飛び込むな!!!」


闇はコウに絡まっていき、完全にコウの動きを封じてしまった。もうコウには世界を救うことはできない。


「こんな川に飛び込むなんて、怖くてできないよ。」

「でも僕が勇気を出して川を渡ることが出来たら、みんなも渡ってくれるはず。」

「みんなと友達になりたいな。」


ヨンの心の声。ヨンの想いは、邪悪なる闇にかき消された。そして闇はハチたちに汚い言葉を浴びせ、どんどんヨンを意図的に孤立させていく。


(飛び込め! 飛び込め!)


ヨンは自分の言葉が、闇の言葉に置き換わっていることを知らない。闇はささやき、闇は飛び込むのをためらっているヨンの背中を押す。


「とう!」


威張り腐っていたヨンが魔王モヤイの城に最短ルートで行くために、普通であれば誰も飛び込むことのない激流の川に飛び込み、そして溺れ流される。


「やめろ!!!」


コウの叫び声は邪悪なる闇に遮られ、ヨンやハチたちには届かない。ヨンが川に飛び込むことを阻止できなかった。


「私に任せて!」


ナーは第3の瞳を開き空間を歪めて溺れているヨンを助けようとした。しかし、ナーの第3の瞳に映ったものとは!?


「闇がヨンを呑み込んでいる!?」


川に飛び込み溺れているヨン。ヨンが身動きが取れないように闇がヨンを包んでいる。邪悪なる闇が!?


「僕は溺れているのに、誰も助けてくれないんだろう? みんなのために勇気を出して川に飛び込んだのに・・・。どうして誰も助けてくれないの? ・・・どうせ僕なんか・・・。」


ヨンの心は完全に邪悪なる闇に支配された。自分は良いことをしたはずなのに報われない。そして自分への自信の無さ。闇が器として選ぶには、ヨンは申し分のない精神の持ち主だった。ヨンは闇に堕ちた。


(この肉体は私のモノだ。)

「キャア!? 闇が!? いつの間に!?」


ナーにも闇がまとわりつき、身動きが取れなくなっていた。これではヨンを次元の彼方に飛ばして救うこともできない。


「ヨン!!!」


ナーの叫ぶ声は、虚しくも闇に遮られる。ヨンに憑りつく闇は、不気味な笑みを浮かべると、一気に加速し、川の下流へと流されていった。


「ギャア!?」

「おい、流されたぞ・・・。」

「川の流れが速過ぎて、もう見えない・・・。」

「ご、ご、ご臨終です。」

「なぜだろう? 重たかった空気が軽くなった! まるで地球の重力から解放されたみたいだ。」

「物語が始まったばかりで、いきなり魔王と戦う設定には普通ならないよね。」


この一連の出来事を、ハチたちはまったく気づいていなかった。


つづく。

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