第72話 新しい伝令役

 商会に帰ると、二人は仕事に戻った。

 ペテロは東インド情勢を報告書でまとめ始め、ヨハネは商会の裏路地の整備を新しく来た奉公人たちと始めた。


 商会裏の路地は、雨が降るとドブ川のようになってしまう上に奉公人たちが食い残しを捨てたり立小便をしたりするため、不潔極まりなかった。ヨハネは過去に市参事会の仕事で覚えた大通りの整備の方法をここで使おうと考えていた。まず新人たちと共に近くの河から砂利を運んできた。そして裏路地の水溜まりをすべて埋めてしまい、さらに路地の両脇にくわで溝を掘った。その溝が崩れないように煉瓦でびっしりと固めた。次に路地の中央が高くなるように土を左右から寄せ集めて固め、その上から砂利を撒いた。最後にヨハネは井戸から組んできた水を路地の上にぶちまけてみた。水は砂利の中に染み込むとしばらくして両脇の溝に砂利を通ってゆっくりと流れ込んだ。

 ヨハネは小さな満足感を感じた。だが新人たちは退屈な作業にうんざりしていたようだった。

 

 奉公人用の扉が開いて中からカピタンの秘書が顔を出した。

「奉公人頭。カピタンがお呼びです。それから新しい奉公人の中から一人、伝言役を選んで連れて来いとの事です」

「わかりまりました」

 ヨハネは答えた。そして昨日やって来た早々に生意気な態度を取っていた新人を呼んだ。

「お前、名前は」

「パウロです」

「お前が伝令役だ。ついて来い」

 ヨハネは井戸で手を洗いながら言うと商会の中へ入って行った。


 奉公人用の入り口を通って、台所を抜けると、ヨハネは二階への階段を昇った。彼がこの商会に来た頃は、二階に上る事など決して許されなかった。


 後ろを振り返ると、パウロは頬っぺたを赤くして興奮した様子だった。

「カピタンに決して失礼な口をきいてはいけない。とても厳しい方だ。気を付けろよ」

 ヨハネは言った。パウロは赤い頬っぺたを真っ青に変えて、唇をきつく結んだ。二人は三階に上がった。そこは商会の重役たちが働く特別な空間だった。廊下には絨毯じゅうたんが敷かれ、大通りに面した壁は幾つも窓が付けられていた。カピタンの部屋の近くまで二人が近づくと、その扉が開き、中から勘定係の男が現れた。そして、その後ろから一人の娘が現れた。

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