第60話 ペテロの帰還
ペテロだ。
ヨハネの心に衝撃が走った。ヨハネは馬車の側から離れるわけにはいかなかったが、夢中で手を振り返した。
そのうちハシケは桟橋にたどり着き、その若者は、縦長の
「よお! 久しぶりだな! 半年ぶりか!」
金髪に茶色の目、そして平らな顔。すっかり日焼けして別人のようになっていたが、間違いなくペテロだった。
ヨハネは仰向けのまま下から思いっきりペテロの股間を右足で蹴り上げた。ペテロはとっさに股間をかばおうと足をすぼめたが足の先が急所に当たった。
「ほら、立て!」
ペテロは股間を押さえながら立ち上がると、しばらくヨハネを睨んでいたが、
「元気だったが!」
二人は肩を抱き合って再会を喜んだ。
「どうしたんだ、これ。この古い箱馬車!」
ペテロは馬車を見て大声で言った。彼は船の上にいたせいか声の大きさの加減ができなくなっていた。
「カピタンから借りてきた馬車だよ。お前を迎えに来るために借りたんだ。荷物もあるだろ」
「よく借りられたな!」
「頼み込んだんだ。そしたら一番古いのなら使ってもいいってさ」
「ほんとかよ! これはすごいな。早速行こうぜ。みやげ話は山ほどあるんだ」
「その背嚢を中に入れてしまえよ」
ヨハネが箱馬車の扉を開けると、大きな音がして扉は外れてしまった。
「ははっ、ほんとボロだな。これ昔、カピタンが使ってたのだろ? まだあったのか」
「そうだよ。その
ヨハネがペテロの
「これ何が入っているんだ?」
ヨハネが
「なんだこれ! 何入れたんだよ」
「ははっ、洗濯もんだ。船じゃ洗濯なんかできないからな!」
「これ腐ってるだろ。もう着られないぞ」
「大丈夫さ。灰をぶっ掛けて桶の水に一日漬けとときゃ、なんとでもなる。さあ、早く商館に帰ってカピタンに報告だ。俺は
「分かった。急ごう」
ヨハネは御者台に上がり、ペテロは
ヨハネが馬に一鞭を与えると、老馬はまた苦しそうに走り出した。
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