3. おじという異界——ナナメの関係性
さて英語のスラングに「guncle」ということばがある。gayとuncleを組み合わせた語で、そのまま「ゲイの伯父さん/叔父さん」という意味だ(ちなみにレズビアンの伯母/叔母は、lesbiauntie)。一家にひとりくらいいる変わり者、といったニュアンスを含むらしい。変わり者とすることについてはさまざまな意見があろうが、どこか大らかな言い回しであるようだ。ガンクル向けの甥っ子・姪っ子に関する育児書も出版されており、家族のかたちや関わり方の多様化がうかがえる。それぞれがそれぞれの生き方を受け入れ合うことを表す語のように思う。
おじを、親の兄弟で身近な存在としつつ、べつの住処で親とはべつの生き方をしている大人とすることにより、おじは甥姪にとっての非日常、「ささやかな異界」になり得るのではないだろうか。
物語中の事件やちょっとした事情により、少年少女はおじと関わる。おじコレ参加作でも、「おじと束の間行動を共にする」話(※1)、「何らかの事情により親ではなくおじと同居・生活している」話(※2)が多く見られた。できごとの大小はあるが、おじとの関わりは、異界への旅といえるだろう。異界にふれた少年少女は何かを得(あるいは失い)、変質する。舞台がファンタジー世界であれ、日常であれ、〝行きて帰りし物語〟になり得る。
親子が縦の関係、きょうだいが横の関係なら、「おじ」はナナメの関係だろうか。父とも兄ともちがう距離感だ。ナナメの関係には義務や上下関係、競争意識が薄れることから、どこか自由な空気が漂うように思える(扶養や教育の義務がない、ライバルというには歳が離れている等)。
また、おじと甥姪とは、親子関係・きょうだい関係あってこそのつながりなので、自然と親子・きょうだいとの差異が浮き彫りになる。まったくの他人をえがくこととのちがいはここだろう。赤の他人なら親きょうだいと別世界の人物でも当然だが、おじは親族だ。親きょうだいと共通する部分がありながら、別の生き方を提示する存在。おじというナナメの関係性は、縦横の関係ではできない・困難なことを、他人とはちがったアプローチでえがいてゆく。
おじコレ参加作でもいくつか見られた、「独身で一人暮らしのおじの家を訪ねる(通う・居候する)」話(※3)は、〝親とは異なる大人〟としてのおじのテリトリーを覗く物語といえる。また、「おじの手助けを借りる」話(※4)では、親とはちがう立場で甥姪の人生にヒントを与える、おじだからこその立ち位置が強調される。これらはみな、ナナメの関係性ゆえの物語だろう。親族である気安さと、親きょうだいにはない何かを、少年少女はおじに求める。
また、そういった距離感から発展して、甥姪がおじにはっきりと憧れや恋愛感情を抱く作品、肉体関係を結ぶ作品も見られた(※5)。
少年少女の日常と地続きで、しかしはっきりと別の世界を、おじは持つ。ナナメの関係性による非日常はさまざまな物語を生むだろう。読者は、甥姪とともにおじという異界の旅に出るのだ。
なおこれから挙げるおじレビューは、必ずしもおじが主人公、ヒーロー・ヒロインの物語とは限らない。それぞれのおじがそれぞれのポジションによって見せる物語を、おじに与えられた異界という役割を楽しんでいただければと思う。
また本企画はおじに限ったが、これが「おば」の場合だとどうなるか、あるいは「いとこ」になるとどういう違いがあらわれるのか、引き続き課題としたい。
※1…「星の流れる夜に—円環の系譜—」(高杉なつる)、「風まかせ」(木村凌和)など。
※2…「美少年興信所」(鳴原あきら)、「アリアドネの珈琲」(ヒビキケイ)など。
※3…「羽化待ちの君」(まるた曜子)、「会う時はいつも夜の下」(森瀬ユウ)など。
※4…「星の流れる夜に—円環の系譜—」(高杉なつる)、「変人姫君と熱血騎士」(鹿紙路)「みちのくの君」(ひなたまり)など。
※5…憧れ : 「ぼくの、ヒーロー」(凪野基)、恋愛感情 : 「くるぶしにくちづけ」(まゆみ亜紀)など。また作中でおじと甥姪が性行為をおこなうものは「羽化待ちの君」(まるた曜子)、「水ギョーザとの交接」「未完の漫画と踊りつつある叔父さん」(オカワダアキナ)があった。
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