ショートショート
空音ココロ
SF系
絶対に安全
R博士は目の前にある手の形をした金属の塊を見て頷いていた。
「よし! これならきっと役に立つぞ」
一人で頷いていたが、さてこれをどうしたら他の人に伝えられるだろうか、頭をかしげながら考えていると友人のS氏が訪ねてきた。
「R博士、何か新しい商品はありませんかね?なかなか売り上げが伸びずに悩んでいます」
これはちょうどいい、
「うむ、今ちょうど新しい研究が完成したところだ」
「おぉ、それはなんてタイミングなんでしょう?それはどんな商品なのでしょうか?良ければ是非とも私の工場で作らせてください」
S氏は喜びの表情を浮かべて博士の発明を喜んだ。
「これは安全グローブといってな、これをつけていればハンマーで叩かれても車で引かれても自分の手を傷つける事は無い」
そう言って、R博士は目の前にあるグローブをT氏に見せた。
「それは素晴らしいですね」
S氏は目の前にあるグローブをまじまじと見つめる。
「着けてみてもよろしいでしょうか?」
S氏は効果がどれほどのものか試してみたかった。本当に良い商品なら今すぐにでも製造に取り掛かりたい。藁にもすがる思いだ。
「良いですよ、是非試してみてください」
S氏は信じていないわけではなかったが、自分の手が本当につぶれてしまったらどうしようもない。まずは手に着けずにハンマーでグローブを叩いた。
グローブにハンマーが振り下ろされ手にグローブを叩いた振動が伝わってくる。相当な衝撃がグローブには伝わったはずだったが、グローブはびくともしていなかった。S氏はグローブを手にはめてみると少しぎこちなさはあるものの良く動く。
「これはすごいですね」
S氏は喜んでR博士に製造させて欲しいと頼み込んだ。
「うむ、私もこれをどうやって広めたらいいか考えていた所だったのだ。私の方からも是非お願いしたい」
S氏は工場に帰ってからグローブの製造に取り掛かり販売した。
絶対に安全なグローブというキャッチフレーズから売り出した直後、たくさん出荷する事ができた。しかしすぐに売れなくなってしまった。
「何故だろう?作った商品が良くないのだろか?」
S氏はグローブをハンマーで叩いてみるが、グローブはびくともしない。手に着けて動かしても良く動く。
S氏はグローブを買ってくれてたT氏にグローブの使用感を聞いてみた。
「確かに怪我はしなかったが、使っていて誤って自分の手を叩いた時にものすごい痛みが伝わってきた。怪我はしないが痛みがすごいので使うのをやめてしまったよ」
S氏は試しにグローブを着けて手を叩いてみた。
「痛い!」
手にものすごい痛みが走った。これはどういうことなのだろうか?S氏は急いでR博士の元へ行った。
「博士、これはいったいどういうことなのでしょうか?」
「うむ、絶対に安全なグローブを着けて怪我をしなくなっても不安全行動が増えてしまってはしょうがない。そこで怪我はしないが痛みは伝わるようにしておいたのだよ。痛ければ危ない行動はしないだろう?」
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