第142話『鳥だ! 飛行機だ! いや――』
ミエルダ王国の勇者こと、野村陸はまるで成長していないらしい。
一体、どういうことなのか。
「リク殿はワシが最後に見た姿からまったく進歩がない……それどころか戦い方に関していえば基本を忘れてむしろ劣化しています」
「ほう」
「あんな剣筋の鋭さにかまけただけの荒っぽい攻めでは、理性のない魔物相手には通用しても魔王や四天王には見切られて終わりです。ワシがパーティにいた頃に課していた鍛錬を欠かさず行なっていれば、リク殿なら今頃はもっと隙のない剣士になっていたはず。だというのに……あれから一体何をやっていたのか……。正直、幹部を一人倒したというのが信じられない有様です」
「………………」
ぶっちゃけ、俺もスキルの多さや能力頼りの戦い方だから耳が痛い批評ですな……。
しかし、まあ、要するに、リクはゴルディオンが見込んでいた成長曲線を描いていないってことだな?
剣術だけなら俺を上回っていたし、その辺の魔物に遅れを取ることはないはず。
だから、きっとリクはゴルディオンが課した鍛錬はもう必要ないと思ってサボっていたのだろう。
そんなことをしなくても自分は十分に強いからと。
そして、強さを得たことで戦い方も雑になっていった……。
「確かに現時点でもリク殿はワシを凌ぐ実力を身につけております。ですが、それでもまだまだ成長過程にすぎないのです。魔王軍を相手にするには今のリク殿では……」
そういえば、あいつの剣術スキルはLV3だった。
LV5が上限とするなら、あと二段階は成長の余地があるはずだ。
恐らく、ちゃんと鍛えてLV5になれば俺の全マシとも互角に戦えるようになって、魔王を倒せるようにもなるんじゃないかな?
多分、勇者のチートはなんだかんだ最終的には拮抗するように調整されてると思う。
そうじゃなきゃ、さすがに不公平っていうか?
俺とリクであそこまで実力に差があるのは明らかにオカシイもんね。
リクと手合わせした感じだと、全マシは他のチートがレベルを上げたら専門分野では競り負けるようになる。
けど、多様なスキルを組み合わせて使えばトータルでは負けない。
初期からすべての能力値がLV5だったのはレベル上げではなく、豊富なスキルを使いこなすことに集中させるためだったんじゃないだろうか。
そういうところでバランス調整してたんじゃないかな?
知らんけど。
あ、でも……聖水が魔族に効果抜群で一撃技になってるからバランスもクソもないや。
実に意味のない考察だった。
◇◇◇◇◇
「誰かリク殿に戦いを教える人間はいないのか……これではリク殿がダメになる。そもそも、あの小娘たちは何だ。パーティとして連携を取る意志がまるで感じられぬ。ああ、なぜリク殿はあんな連中を仲間に……」
心配そうなゴルディオン先生。
もどかしい気持ちはわかるけど。
ブツブツ言いながらずっと悶えてるから、隣にいるのが正直しんどいんすけど。
ザワワ……。
「ん……?」
何やらジメッとした嫌な風が吹いてきた。
横にいるブツブツゴルディオンのせいではない。
ギャアギャアと、魔物の声が響いて遠ざかっていく。
「なんだ……?」
「妙ですな……」
ゴルディオンが剣を抜き、鋭い視線で周囲を見回す。
ササッと切り替えできる辺り、やっぱ歴戦の戦士だなぁ。
リクパーティも異変を感じ取ったのか、全員で立ち止まってキョロキョロしている。
「リク様、上です!」
タチアナがいち早く気がついて上空を指し示した。
バッサバッサバッサ。
上空に翼を持った大きなシルエットがあった。
鳥だ! 飛行機だ! いや――
ズシーンッ!
「おぷふぅ!」
そのシルエットが地面に着陸すると、風圧で砂埃が発生した。
口の中にちょっと土が入った!
迷惑な着地すんなよ!
「ドラゴン……?」
着地した物体を、目を凝らしてよく見てみる。
疑問形なのは、その造形がそうであると自信を持って言える状態ではなかったからだ。
二枚の翼や尻尾や長い首など、形状はまさしくドラゴンそのもの。
だが、目の周りは窪んでいて眼球がなく、肉も部分的に腐り落ちていて、骨がところどころに覗いている。
そんな異様な風貌なのだ。
この外見的特徴を言い表すのなら、
まさしく――
「ゾンビ……」
「ヒロオカ卿、あれはドラゴンゾンビです。死んだ竜族がアンデッド化した存在です!」
ドラゴンのアンデッドだって?
まさかブラックドラゴン……?
い、いつの間にこんな変わり果てた姿に……!
ブワッ……。
『グハアハァ! 勇者リクよ、ようやく見つけタゾオオオォオオォオオオ――ッ!』
吠えるドラゴンゾンビ。
あ、これ、別ドラゴンだわ……。
ドラゴン違いだわ。
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