第132話『前世の記憶』
◇◇◇◇◇
アンナが話してくれた衝撃の事実。
なんと、彼女には日本人であった前世の頃の記憶があるということだった。
「マジでか……アンナは元ジャパニーズだったのか……!」
「じゃぱに……?」
日本でのアンナは7歳頃、乗用車との交通事故で死んでしまったらしい。
そして、こっちの世界でアンナとして生まれ変わり、前世のことを思い出さないままずっと過ごしていたそうだ。
しかし、俺が領地に初めてやってきたあの日。
彼女は俺のスキルによって病気を治療され、死の淵を彷徨っていたところから奇跡的に回復したことがきっかけで前世の記憶を思い出したのだという。
そういやこの子、初対面の時に俺のこと『おじさん』って言ったんだよな。
この世界じゃアジアなフェイスの俺は若く見えるはずなのに……。
忘れていた設定が忘れかけていた思い出と共にカムバックした。
あれはアンナが日本人だった頃の感性を取り戻していたからだったんだなぁ。
「なるほど……まだ小さかったのに一人で知らない世界に放り出されて怖かっただろ?」
「いえ、こっちで生きてきた記憶もちゃんとありますから……。それに、むこうでもパパとママはいなかったですし。ここにはいじわるな大人もいないので、教会のみんながいる今のほうがしあわせです!」
「そ、そうなんだ……」
詳しい事情は聞けなかったが。
アンナが前世で暮らしていた場所はあまりいい環境ではなかったみたいだ。
テレビもゲームもない、中世的な文明の異世界のほうがいいと子供がハッキリ答えられてしまう程度には……。
しかし、あれだな。
俺たち勇者みたいな転移とは別に転生という形でこっちにきてる日本人もいるんだな。
ひょっとしたら当人が自覚してないだけで、転生者って意外と周囲にいるのかもしれん。
そういう可能性を少しだけ認識することになった一幕であった。
その後、俺は教会の子供たちにラーメンを振る舞った。
「うめえ!」
「おいしいね!」
「もっと食べたい!」
大好評だった。
うんうん、これだよ。
この絶賛こそが現代メシを披露したときにあるべき光景なんだよ。
賞賛の声、ンギモッヂィイイイイイイイイイイイイ。
まあ、もともとニコルコの民は醤油とかに馴染みがあるってのもあるんだろうけど。
これを元に本職の料理人たちがいろいろ工夫して派生が増えてくれれば、異世界のラーメンはさらなる進化と発展を遂げていくはず。
そして、いずれニコルコはラーメンの聖地となるのだ!
麺派の俺としては、こっちでも美味いラーメンを食いたいから早急に流行って欲しい。
手応えも掴めたし、他にもいろいろご当地メニューを提案していこうかな。
次は牛丼なんてどうだろう?
寿司、ラーメンと並び、日本のプロ野球にきた助っ人外国人が好きになる食べ物として代表的なヤツだし。
「ところで、このラーメン、なんて名前で売り出したらいいかな?」
「りょうしゅさまが作ったラーメンだから、じろうラー……」
アンナ、それはダメっすよ。
まずは無難にラーメンでいくことにした。
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