第116話『帝都に行こう!』
スチルと契約を交わしてから数日。
俺は久々にベッドに乗って空を飛んでいた。
目的とする地は大国、カッツォ帝国の中心都市、帝都アーワカトル。
ハルン公国の王都頭上をサクッと通過し、国境を越えてビュンビュン進んでいく。
風魔法とのコンビネーションを思いつき、以前より遙かにスピーディとなったベッド飛行。
おかげで二時間くらいで目的地が見えてきた。
「お、あれがそうだな!」
公国の王都よりも高くて立派そうな城壁に囲まれた帝都の街。
セキュリティ高そうだし、都市の規模もやっぱり数倍でかそう。
「このまま空から乗り込むか……」
入場門を見たら、かなり並んでいる。
あれを待つのは正直億劫だ。
「ちょっと! ジロー、またあなたは! ちゃんと降りて門から入りましょう!」
同乗者のデルフィーヌが慌ただしく制止してきた。
ちなみに今日は彼女と二人旅だった。
「大丈夫。ちゃんと隠密スキルを発動させている。気づかれることはない」
俺も学習したのさ。
ウレアの門で弓矢を放たれた愚かな過去にサヨナラバイバイ。
「帝都は上空に魔法障壁の結界が張ってあるの。侵入しようとしたら面倒になるわよ?」
「…………」
しょうがない。
俺はUターンしてベッドを下降させるのだった。
なぜ、俺とデルフィーヌが帝都に入ろうとしているのか?
それは数刻前の会話に遡る。
◇◇◇◇◇
「ねえ、ジロー。魔法教室のことで相談があるんだけど……」
執務室で承認のハンコを押すだけの作業をしていたら、デルフィーヌがやってきた。
「なんだ? 何か問題でも起こったか?」
子供たちの魔法習得は順調すぎるくらい順調だったと聞いていたが。
もしや、調子に乗った問題児でも現れてしまったのか?
「実は他にも教師を何人か雇って貰えないかなって。このままだと、わたしが魔法陣の研究と掛け持ちしながら一人で教えられる範囲を遥かに超えていくと思うの。実際、今でもかなり大変だし……。前にも相談しようとしたんだけど、あのときはタイミング逃しちゃって」
あのときっていつだろう。それはどうでもいいか。
「そんなに人手が必要なのか?」
「ええ、最初に引き受けた時はまさかここまで才能のある子たちが揃っているとは思わなかったから、あたし一人でも平気だと考えていたの。でも、あの子たちはすでに魔法の基本的な使い方をマスターして、今はもう各属性の高度な専門知識を持った魔導士が指導しないといけない段階に達しているわ」
「ふむ……」
ニコルコの子供たちはどういうわけか……。
いや、ホントにどういうわけか、基礎的なことをデルフィーヌに習っただけでとてつもない魔法を使えるようになっている。
アンナなんて、聖女だったスチルを上回る回復魔法や水魔法を身に着けているし。
ところが、デルフィーヌの話によると、どうやら魔法がすごいだけでは魔導士とは呼べないらしい。
魔法に関する理論的な知識を修めてこそ魔導士と呼ばれる存在になれるのだという。
エレンとかゴルディオンも魔法は使えるけど、ただ魔法が使えるだけだから魔導士とは分類されないんだって。
要するに俺も魔導士ではないということになる。
マジでか。
もっとも、魔法にあまり馴染みのない平民からは『魔法が使えれば魔法使いでしょ?』と一緒くたに認識されているみたいだが……。
「まあ、本来は魔法を極めていくために学ぶ知識だから、あの子たちのレベルならそこまで学ぶ必要はないのかもしれないけどね」
ニコルコの子供たちが並外れた魔法を使えるようになってしまったせいでおかしなことになっているが、本来はスキルアップのために魔導士としての知識をつけるそうだ。
もう十分な領域に至っているのに果たして知識は必須なのか? と、デルフィーヌが懐疑的になるのは無理ないことかもしれない。
「でも、学んだらもっとすごくなるかもしれないだろ?」
というか、魔法陣の研究だったり、エルブレッヘン皇国の棺をいじったりするような作業は魔導士としての深い知識がなければできないんだろ? それに魔導士としての学がなきゃデルフィーヌみたく人に教えられないのでは?
あいつらが自分たちだけなんとなく魔法が使えるようになってハイ終わりでは困るのだ。
ニコルコで次世代の魔導士を育てていける基盤を完成させていかないと。
だから、できればちゃんと魔導士として一人前にしてほしい。
俺がその旨をデルフィーヌに告げると、
「わかったわ。だとしたら、やっぱりこのまま一人で教え続けるのは難しいわね。魔法陣研究も指導も中途半端になって、あの子たちの才能を潰してしまうことにもなりかねない」
デルフィーヌは優秀な魔導士だ。
指導に集中すれば子供たち全員を教え導くことだってできるはず。
しかし、彼女には俺の召喚を妨害した例の魔法陣を解析するという大事な使命がある。
それは何よりも急務で優先すべきことだ。
子供たちに基礎的なことは仕込んでくれたし、デルフィーヌにはもう魔法陣の解析に専念してもらう感じでいいのかもしれない。
「よし、じゃあ新しい教師を何人か雇うとするか!」
俺はデルフィーヌの要望を承諾した。
まあ、デルフィーヌが必要だっていうならもともと拒否する理由はないんだけど。
「で、魔法の教師って、どこ行けば見つかるんだ?」
優秀で、それでいて辺境の領地に来てくれる魔導士なんかいるのかなぁ……。
デルフィーヌの伝手とかはどうだ?
「とりあえず公国の魔導士はダメね。優秀な人は公国に手綱を握られているし」
「そうか……」
「だから、帝国の魔法学校で募集をかけましょう」
「帝国の魔法学校?」
帝国、それは連邦と並ぶ大国。
ニコルコとは公国の王都を挟んだ反対側にあるため最も縁が遠い国である。
「あたしも一時期留学していたことがあったんだけど、あそこは魔術の研鑽と研究においては最高峰といえる場所よ。で、今はそこの卒業予定の生徒たちが就職活動をする時期なの」
「へえ……。しかし、そんなとこを卒業したエリートが公国の田舎にきてくれるかね?」
「それは多分大丈夫。実家の爵位が低かったり、平民出身の学生は優秀でも就職先がなかなか決まらなかったりするから。そういう生徒たちに声をかけていけばあっさり集まると思うわ」
俺たちからすればラッキーだが、なんか世知辛いのぅ……。
日本の学歴社会を彷彿とさせるぜ。
けど、家柄は個人の努力じゃどうやっても覆らないから微妙に違うか。
「ジローが身分とか血筋を気にするなら無理にとは言わないけど……」
「いや、俺は能力と人柄で決めるよ」
家柄だけがネックで優秀な人材が捨て置かれてるなら拾うしかないっしょ。
もったいないもったいない。
「その魔法の学校は帝国のどこにあるんだ?」
「帝都アーワカトルよ。もし、学園と連絡を取るのなら――」
「じゃあ、今からそのアーなんとかっていう帝都に行こう!」
「ええ? 直接行くの!? 今から!?」
こうして、俺はデルフィーヌを連れてニコルコを出立した。
そして、先ほどの空の旅に戻るわけである。
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