第111話『よき隣人として』
「まさか本当に謀叛を企てているのですか?」
絶賛されると思ったら違ったパティーン。
日本食文化でヨイショされるのは案外難しい。
そう実感する今日この頃。
てか、本当にって何よ? そんな懸念が元からあったわけ?
もしかしてそういう噂が流れてたりするの?
まだどっかにスパイがいるのか……?
「今のニコルコは私の知っていたニコルコとは別物です。貴殿が領地の運営に携わってからニコルコは見違えるように変貌を遂げた。魔境を切り開き、他国との街道を繋げて交易を結んで――まるでこの地に新しい国を作ろうとしているかのようだ……」
淡々と語るネイバーフッド伯爵の表情は硬い。
そんな決死の表情をしなくてもいいと思うけど?
まあ、聞いてる感じ、ネイバーフッド伯爵は自分の推測を述べているだけみたいだな。
近くにスパイはいないようで安心した。
いや、やっぱ安心できんわ。
だって、ネイバーフッド伯爵は俺が公国に反逆するのではと警戒してるわけだろ?
それは友好の感情とは遠いものだ。
急速に発展した領地を見て不審に感じてしまったのか?
そういう準備を進めていると懸念を抱かせてしまったのか?
困ったな……。
いやホント、だってあながち間違ってないから。
俺はハルンケア8世という国の象徴を追い落とすために動いているわけだし。
半分事実ではあるんだけど。
まだそれを明かすわけにはいかない。
実はオタクの王様、魔王と繋がってましてね……? などといきなり言っても、やばい妄想を拗らせてクーデターを企ててる危険人物としか思われないだろう。
「貴殿は何の目的があってここまで急いて領地を発展しておられるのですか? 貴殿は一体何を考えて……」
………………。
疑惑と困惑の視線。
どうする? いや、まあ、説得するしかないんだけど。
理由を話さずどこまで理解を得られるものか……。
俺のことは勇者じゃなくて冒険者として公国が公式見解出しちゃってるからね。
勇者だって明かしても、じゃあなんでそうなってるのって、ますます泥沼化しそうだし。
なんとか表に出てる条件だけで安心して貰わないといけない。
「ネイバーフッド伯爵……ここでひとつ、例え話をしましょうか」
「た、例え話ですか……?」
俺はテーブルに両肘を着けて手を口の前で組んだ。
古来より伝わる威厳を出したいときのポーズである。
異世界の人にも同じ印象を与えるかは知らんけど。
「人というものは未知に遭遇したとき、極端に視野が狭くなることが多い生き物です」
「はあ……?」
「ですが、外から見れば未知や異端に思える行動も、本質を理解すれば自分たちのためにもなる行為だった、なんていうこともありえない話ではないのです」
「本質……? 自分たちのため……?」
胡乱な表情になるネイバーフッド伯爵。
大丈夫、今日の俺の弁舌は最高にキレている。
町の案内でもやばい多々局面はあったが、話術でことごとく納得させてきたのだ。
あれ? でも、納得させてたら今ここで不審に思われてなくね?
まあいい。
今は考えないでおこう。
「確かに急な領地改革を訝しむ気持ちはわかります。ですが、物事の真理というのは深く関わってみないとわからないものです」
「深く……関わる……?」
「ええ、そうです。場合によっては、どうしようもないと困っていた問題が異質と思っていた存在と関わることで良い方向に転がる可能性だってあるかもしれないんです」
ネイバーフッド伯爵の経済状況が思わしくないという情報はジャードから聞いている。
ニコルコと縁が強くなれば恩恵が得られるかもよ?
だからすぐに怪しいと決めつけず、よく吟味してから考えてくれない?
御託を並べたが、俺の言っていることは大体そういうことだ。
「わ、私は……困ってなど……それに私は……」
揺らいでいる。
言葉が刺さっている証拠だ。
ニコルコの発展具合を見て、アテにできそうだという考えがよぎったのだろう。
ここでダメ押しの一発を入れる!
「ネイバーフッド伯爵、よく考えてみてください。行き詰まって身動きが取れなくなるくらいなら思い切って手を伸ばしてみるのもいいのではないですか? 何も危険なことはない。我々はよき隣人としてきっと手を取り合っていけるはずだ」
俺はネイバーフッド伯爵にそっと手を差し出した。
微妙に論点を逸らすことに成功したな。
「それは……つまり、ヒョロイカ殿は私を許し、救いの手を出して守ってくれると……そう仰るのですか……?」
ネイバーフッド伯爵はプルプルと肩を揺らして嗚咽を漏らし始めた。
どうしたの!?
というか、許すってなに?
「あの、伯爵……?」
「グスッ………グスッ……」
鼻水を啜る音。
俺がネイバーフッド伯爵の謎ムーブメントに首を捻っていると、
「ヒョ、ヒョロイカ殿ォォオォォオォォォ!」
ネイバーフッド伯爵がいきなり立ち上がって吠えた。
そして、
「貴殿の慈悲に感謝いたしますぅ! やはり貴殿は――」
ズサーッと勢いよく土下座をし、
「やはり貴殿は勇者様だったのですね!」
え……なに……? どういう流れですか?
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