第83話『うおっ、まぶしっ!』
◇◇◇◇◇
「おーいきたぞー」
ベルナデットを御供に今日はブラックドラゴンの棲む山に来ている。
ブラックドラゴンと約束した新居は時間もかかったが九割九分完成していた。
要望された高さに加え、ドラゴンの巨体が棲めるサイズということで遠目に見ても圧巻のハウスになっちまったけど。
『あっ、いらっしゃーい!』
のそのそと穴から這い出てくるブラックドラゴン。
用があるっていうから来たが、どうしたんだ?
『うん、実は新居に引っ越すための荷物整理をしてたらいろいろ出てきてさ』
そう言ってブラックドラゴンは俺の前に紋様の刻まれた長方形の箱を置く。
「これ、もしかして人間の棺桶か……? こんなもの、どうしたんだ?」
若干、気味悪く感じながら俺は訊ねる。
『数百年くらい前なんだけどね。足の小指を怪我したのが痛くて一か月くらいジタバタして泣いてたことがあったの。そしたら人間の国の王様がくれたんだよ』
「…………」
それってあれじゃないっすか?
ジャードが言ってた、当時の大国がドラゴンの怒りを鎮めるために捧げた生贄ってやつ。
うわぁ、なんて迷惑なトカゲなんだ……。
『お見舞いの品だと思って受け取ったんだけど。人間なんか貰っても使い道ないしさ。ずっとそのまま置きっぱなしにしてたんだよ。よかったら引き取ってくれない?』
いやいや、数百年前の生贄とか……。
それ絶対に腐ってるやつじゃん! ミイラになってるやつじゃん!
俺は葬儀社じゃないんだぞ? ホラーは勘弁してよ。
つか、ドラゴンって人間を食べるんじゃないの?
へえ? 食べるドラゴンもいるけど基本はゲテモノ食材扱いなんですか……。
『奥にまだまだあるから持ってくるね!』
ブラックドラゴンは人の話を聞かずドタバタと穴の奥に戻っていく。
ちょ、待てよ。
「どうすんだこれ……」
俺は放置された棺桶を見つめる。
顔の部分はガラスのような透明な板が嵌められていて内部が覗けるようになっていた。
「あれ? なんかまだ綺麗だぞ?」
中で横たわる女性の顔は数百年の時が経っているとは思えない、まだ生きているかのような、ただそこで眠っているだけのような美しさを保っていた。
「もしかしてまだ生きて……いやありえないけど……ちょっと開けてみるか……ん?」
蓋を引っ張ってみるがビクともしない!
どういうことだよ!
欠陥品なんじゃないの?
「ジロー様、わたしに任せてください!」
ベルナデットが嬉しそうに申し出てくる。
何が面白いんだコノヤロォ!?
いや、役に立てるチャンスと思ってくれてるんだよね。
わかってますよ、ありがとう。
ここは獣人パワーで開けてもらうとするか。
「では行きます!」
ベルナデットが棺に触れると、棺の紋様が眩く光を放った。
「な、なんですか!?」
「うおっ、まぶしっ!」
ギギギィ……。
棺の蓋が音を立てて勝手に開きだす。
そして、むくりと起き上がる中の人。
マジで生きてた! あっ、鎧着てる! 頭に猫耳がついてる!
細い尻尾もある! きっと猫獣人の女騎士だ!
「ここは……? 某(それがし)は生きているのか……?」
「あ、どうもちわーっす」
第一印象が大切なので俺はとりあえず朗らかに挨拶をした。
ベルナデットは腰の剣に手を伸ばしていた。
こらこら、喧嘩腰はよくないよ?
フレンドリーに行こうぜ。
猫耳女騎士は周囲をキョロキョロと見渡し、
「あっ……貴女は……!」
視界にベルナデットの姿を捉えると、
「姫様ッ! 再び生きてお会いできるとは……某は嬉しゅうございます!」
棺桶のなかから飛び出してベルナデットの前で跪いたのだった。
「「姫様?」」
何言ってんだコイツ。
俺とベルナデットはきょとんと顔を見合わせた。
いや、そうなるっしょ?
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