第69話『ジゼル・ウレザム』
◇◇◇◇◇
数日後。
今日はブラックドラゴンの家づくりをするぞ。
迸る創作意欲をぶつけてくるぜ!
「ふがふがふが……」
モノノフの腹に顔を埋めてエネルギーを充填する。
むくっと顔をちょっと起こし、そしてまた寝るモノノフ。
ふう……準備は完了した。
コンコンコン。
「領主様ぁ、お客さんだべよ~」
ドラゴンのところに転移しようとすると、部屋にメイド長がやってきた。
「は? 客だと?」
「んだよぉ、ジャードさんがすぐ来いってよぉ」
「誰だ? 町長とかならあいつに相手させとけよ」
「それが連邦の首都から来た商人さんだってよぉ? すげぇ都会から来た人だぁさ!」
「なぬ? 連邦……?」
早速あの街道を使って来てくれたのか……いや、ちょっと待て……。
街道を作ってから連邦のいくつかの商会に使いを送ったが、首都まではそれなりに日数がかかると聞いていた。
ここまで早い到着は移動時間の計算が合わない。
妙だな……。
「ジャードは他になんか言ってたか?」
「ヒョロイカ卿が何も察しないなら転職を考えるって言ってただ」
「…………」
どうやらジャードも疑わしく思っているらしい。
仕方ない、家づくりは後回しや。
すまん、ブラックドラゴン。
次の機会に必ずやるから……。
なんか最近なんでも後回しにしてる気がする。
負債の返済がちょっと怖い。水面下でひとつずつ解決していかないと。
俺は商人が待っている応接室に向かった。
俺とジャードは連邦から来た商人と面談をしていた。
目の前にいるのは銀髪碧眼の美少女。
人懐っこい雰囲気で髪の長さは短め。
年頃は十代前半くらい。むう、随分若いな……。
少女の商人は営業用スマイルを向けながら俺たちに自己紹介をしてくる。
「ウレザム商会のジゼル・ウレザムと申します。ニコルコの領主であるジロー・ヒョロイカ様と取り引きをさせて頂きたく参りました!」
目が合うと、妙に熱のこもった視線で見つめられた。
うおっ、なんでこんなガッツリ見てくるの?
すごいガン見されてるんだけど……。
とりま、ステータスを拝見して身元に偽りがないかチェックしとこう。
【名前:ジゼル・ウレザム】
【職業:商人見習い ウレザム商会長の次女】
【スキル:格闘術LV2 魔力耐性LV2 危機察知LV3 鑑定能力LV3 真偽判定LV3】
ふむふむ……。
ジゼルは商会長の娘らしい。
そういえば商会の名前と名字が一緒である。
ステータスを見る限り彼女の身分に嘘はないようだ。
意外とスキルが多くてレベルも高い。
でも、この子見習いなんですけど。
子供のお使いか? 田舎の領主だから舐められてるのか?
まあ、そこは別にいいだろう。
ちゃんと仕事ができるならな。
「えーと、ウレザム商会だっけ……? 有名なの……?」
どっかで聞いた気がするんだが。
どこだったかな……。
俺はひっそりとジャードに訊ねる。
「サスペンション付きの馬車など、近年出回り出した先進的な商品の大半はウレザム商会が考案したものです。頭角を現してきたのはここ数年ですが、現在の連邦で最も勢いがある商会と言えるでしょう」
ああ、そうだ。
ジャードが取り引きしたいって話してたところだったな。
あと、多分前にエレンとの会話に出てきたのもこの商会だろう。
サスペンション付きの馬車がどうこうって言ってたし。
評判通りなら願ってもない相手が向こうから来てくれたことになるが……。
商人の少女、ジゼルはニコニコしながら俺たちの様子を窺っている。
ふーむ、ちょっと探りを入れてみよう。
「なんでウチの領地に来ようと思ったの? 言っとくけど、ニコルコはなんもないよ?」
俺があえて鉱床の存在をすっとぼけて訊くと、
「はい! お兄様がニコルコに大きな商談のチャンスがあると仰られたので!」
ジゼルは気持ちのいい笑顔でそう言った。
……なんかすげー胡散臭い。
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