第42話『やっちまったZE☆』



『ギャオオオオオォォォォォォォウゥゥゥゥォォォオォォ――ッ!』



 鋭い叫びとともに大きく拡がっていく焔。

 ヒザマは鳥の形を失い、ただの巨大な火の球になった。


「…………」


 俺はじっとヒザマの変遷を窺う。

 無造作に拡がった炎は凝縮され、やがて小さな人型に再構成されていく。



『コロスコロスコロス……モヤシテモヤシテ……ヤキツクス……』



 ヒザマは小学校高学年くらいの子供サイズにまで縮んだ。

 顔はのっぺらぼう。見た目は炎でできたマネキン人形みたいな感じ。

 鳥が変身して人になるってどういう繋がりなんだろ。


 最終形態で小型化するのはラスボスっぽいけど。



『ウガガガガ……勇者……消ス……世界ヲ、モヤス……ッ』



 理性を失ってるか……。

 あれじゃもう話を聞いても無理っぽいな。

 せっかく当事者から事実を聞き出すチャンスだったのに。


 こりゃ裏切り者の特定はデルフィーヌに頑張ってもらうしかないな。

 デルフィーヌならあの魔法陣から真相に辿り着けるはず。

 ファイトだぜ! 俺も協力はするけどさ。



『モヤスモヤスモヤス……シネシネシネ……』



 ボシュンボシュン。



 理性を失ったヒザマは地上に向かって無差別に炎を投下し始めた。



「どわぁ! あちぃ!」

「おっとあぶねえ!」

「やべえ、燃えた魔物が突っ込んできた!」



 地上では炎の塊が降ってきたせいでパニックが起きている。



『アレモ敵、コレモ敵……ミンナミンナ……殺シテ燃ヤシテ……!』



 ヒザマはもう敵味方の区別もつかなくなっているようだった。



「やむを得ないか……」



 このままでは下で戦ってる連中を巻き添えにしかねない。

 建物はごめんテヘヘで済むが、人の命はそうはいかん。



 俺はヒザマに手をかざし、撫でるように手首を動かした。



 ――ヒュン



『グゥッ!?』


 グサグサッ。


「もういっちょ」


 手を払うたび、眩い輝きを放つ光の杭がヒザマの身体を貫いていく。

 ほれほれ。もっといくぞ。


 グサグサグサッ。


『グオオオォオォゥ! オゥオゥウゥウゥ――ッ!』


 光魔法によって出現した複数の杭はヒザマを拘束し、空中で磔にした。


 いやぁ、イメージでこんなんできるかなーって思ってたら本当にできたわ。


 クールジャパンに囲まれて育ってきたおかげで、こういうファンタジー的発想がすんなり思い浮かぶ。



「万が一のないよう、全力でやらせてもらうぜ?」



 俺は両手首を合わせて手を開き、体の前方から腰にもっていく。

 そして魔力っぽい何かを手の平に集中させ、


「ナントカ・カントカ波――ッ!」


 ビュビュビュウゥウゥギュルウゥウゥウゥウッウゥウゥン――ッ


 前に突き出すと同時に、ビュッビュッどころではない激しい放水を開始した。

 その勢い、まさにジェットストリーム。

 圧縮された水が螺旋回転をしながらヒザマに向かっていく。


 実は魔王を倒した時より威力が強めなんだぜ。

 絶対に避けられないようにしてからオーバーキルの攻撃でダメ押し。

 先程の油断を帳消しにする圧勝で締め括りだ。


 ……と、なるはずだったのだが。



「なっ……」



 ――ボゴォン!



 俺の水魔法はヒザマの手前で起こった謎の爆発によって防がれた。

 なんだ? 一体何が起きた? 魔法を継続しながら目を細める。

 もくもくと際限なく発生していく白い煙。押し止められている水流。


 もしかして聖水が届く前に蒸発させられてる?

 どんだけ激熱な身体なんだよ……。

 さすがは自我を代償に捧げる最終奥義だけあるわ。



「この野郎ォ!」



 ボォン! ボォン!



 一層の出力を上げて放出していくと、水蒸気で辺り一帯が真っ白になっていく。

 くそっ、前が見えなく……あっ、見えるわ。これもスキルのおかげか?



「なんじゃこりゃぁ」

「前が見えねえ」

「うわっ、なんかにつまずいた!」



 地上で冒険者たちが騒いでる。アカン、下の戦いを邪魔してるぞ。



「あれ? なんか魔物たちが苦しんでどんどん倒れてねえか?」

「ほんとだ。次々と胸のあたりを掻き毟って死んでいってる……」

「この霧でこいつらおかしくなったんじゃね?」



 ……と思ったら助けてた。

 そっか、聖水から発生した水蒸気だから魔物にとっては毒の霧みたいなもんなのか。

 ヒザマ、お前、最終奥義を解放してから味方に損害しか与えてないぞ。


 まあ、こういうピーキーさも含めて最終奥義だったんだろうな。

 個人で特攻しかけるぶんには有用だが、味方を率いて使う技じゃねえ。

 何はともあれ、これで下の安全はある程度保証されたわけだが……。


「こっちはどうするかねぇ……」


 とりあえず、出力アップするか?

 蒸発してしまうなら、それを飲み込む物量で押し切ってやれば……。

 でもさすがに疲れてきた。


 最初から全力のつもりだったのをさらにギア上げてるわけだからな……。



「あ、ひょっとして、範囲を絞ってるから消されるのか?」



 物は試し。

 元のヒザマの大きさでも包めるくらい太めの水流に切り替える。

 

 ドバァ!


『グォオオオオォオォオオオオオォオッ……があぁぁああアァァァぁぁあああああ――ッ!』


 バキィンッ!


 光の楔が外れる音がする。

 極太の水流はヒザマをあっさり飲み込んだ。

 水の勢いは留まることを知らず、そのまま森の遠方にある魔王城を撃ち抜く。


「……やべ」


 慌てて魔法を止めるが、もはや手遅れだった。

 千里眼的なスキルが働いてるおかげで見えるけど、魔王城はガラガラと崩壊していた。

 やっちまったZE☆




 ――戦いは終わった。



 伝説に語り継がれた一説によると、戦いの後、大地には聖なる水が降り注ぎ、空には綺麗な虹がかかっていたそうな。

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