第25話『【成長補助LV5】』

「フィー、ヒロオカ殿! これならいけるかもしれん……」


 戦況を見つめて、エレンが興奮気味に言う。

 だから最初から平気だって言ったじゃんね。

 始まって以降、流れは終始こっちのものだ。


 ベルナデットは一撃を加えたら速攻で距離を取る。


 無理に攻め入らない理想的なヒットアンドアウェイを崩さずに続けていた。


 一方でホットササミは完全に翻弄されて間合いを掴めず、手出しのできないままじわじわと削られている。


 決着は間近だろう。


「すごい、すごいぞ……彼女は一体何者なのだ……!?」


「獣人ってあれくらいやれるもんじゃないの? 身体能力が人間より高いんだろ?」


 ベルナデットはすくすく成長したから、てっきり成長期の獣人は鍛えれば誰でもああなると思っていたのだが。


「……あのレベルになると滅多にいないな。フランクは若くして騎士団長と同等の剣技を身に着け、さらなる伸びが期待される天才だが――彼女はそれを容易く見切り、あしらっている。獣人の身体能力でもそう簡単にできることじゃない」


 チョリソーが国の騎士団長と同格ってほんとかよ。

 やっぱり人材不足なんだな……。

 憐れな国だ。


「あれは天賦の才だ。奴隷としては相当値が張ったんじゃないのか?」


 エレンはそう言うが、うーん、そこまで高額じゃなかったはずだが……。条件次第ではもっと高額なのがいるって言ってたし。


「獣人の身体能力のせいだけじゃないなら、もしかして……」


 俺のスキルのなかに仲間の能力を引き上げるものがあったのかもしれん。数が多すぎてチェックしていなかったが、ちょっと調べてみよう。


 スキル一覧をスクロールし、確認してみた。



【成長補助LV5】

【効果:仲間の成長を促進させる。親しいと感じている者ほど効果が上昇する】



 ……あった。


 こいつは回避と同じでオート作動するタイプのスキルなのか?

 使った記憶はないが、ベルナデットの戦闘力が平均より高い理由としてはしっくりくる。

 恐らく間違いないだろう。


 把握してないスキルが圧倒的に多いんだよなぁ……。

 ひょっとしたら今も何かが勝手にバックグラウンドで作動していることもありえる。

 毒耐性とか麻痺耐性とかはわかってるけど。


 変なのが効果を発揮してると困るから一度全部に目を通しておくべきか?

 いつかやろう、きっと、そのうちに――



『ガキィンッ』



 金属の弾かれる音が聞こえ、フランクフルトの剣が手を離れて地面に転がった。


「勝負あり、ですね」


 ベルナデットがフランクフルトの喉元に剣を突き付けて勝利の宣告をした。

 ああ、雑談してる間に終わっちゃった。

 ま、実況する価値もないほど一方的だったけどな。


 ベルナデットに賭けていた冒険者たちは歓喜の雄叫びを上げ、フランクフルトに賭けていた連中は『鼻がでかいからや!』と罵声を浴びせていた。


「ぐぐぐ……こんなことはありえん! 認めてなるものか! この僕が獣人の奴隷ごときに、ま、負けるだなんて……!」


 膝を着いて崩れ落ちるフランクフルト。

 ベルナデットは一直線に俺のもとへやってくる。

 すでに敗者への興味は失われているようだった。


 ととと、って効果音が付いてきそうな走りかたが可愛らしい。


「ジロー様、申し訳ありません。思ったより時間がかかってしまいました」


「いやいや。十分すごかったぞ。それに怪我しないのが一番だからな」


 彼女の頭を撫でると、猫耳と尻尾がピコピコ動いた。

 無表情になってもこういうところは正直だ。



「ほ、ほんとにフランクに勝っちゃった……」


「一体、二人は何者なのだ?」


 呆気に取られてるデルフィーヌとエレン。

 勇者やぞ。勇者と愉快な仲間やぞ。

 この感じなら異世界に来て初めて勇者と認めてもらえるかもしれない。



 …………ん?



「待て、貴様ら! この僕に恥をかかせて大人しく帰れると思っているのかッ!?」


 

 殺気を感じて振り返ると、コンビーフが従者たちに剣を抜かせて詰め寄ってきていた。

 もうショックから持ち直したのか。早いな。

 負けたからリンチにでもしようってか?


 それなら勝てるとでも?


「……勝負はついたはずだぞ」


 恥の上塗りをしていることをコイツは理解していないのかね。


「いいか、その女は陛下のお怒りを買っている。デルフィーヌに加担した意味をいずれ貴様は身をもって知ることになるだろう」


 性懲りもなくグチグチと……。鬱陶しいやつだ。


「そもそも僕へ危害を加えたとなれば伯爵である父が黙っていな――」


 ここは普段あまり使っていない魔法の練習台になってもらおう。


「……ふんっ!」


 俺はパチンと指を鳴らす。すると、


「「「「あばばばっ」」」」


 ハムトーストと従者たちがビクンビクンと痙攣を起こして失神した。

 バタンと倒れ、全身から体液を噴出させる。

 うお。ヨダレにゲロ、涙。


 あれは小便か……? 

 おや、なんか尻の辺りがもっこりして……えんがちょ!


「な、なにが起こったの!?」


「まさか禁術……呪いか!?」


 身を寄せ合って震えだすお嬢様方二人。

 失敬な! 何が呪いか!


「雷魔法だよ!」


 麻痺させただけなのに大げさなやつらである。

 表情を一切動かさなかったベルナデットを少しは見習え。

 同じようになられても困るけど。



 心身ともに汚いものになったベーコンウィンナー。

 もう二度と関わりたくないぜ。


 俺たちは訓練場を後にした。

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