改稿前(文章へったクソです)

5 ひーるとびしょうじょ

 あれから、予定通りに冬夜はスタートダッシュに努めている。同じ見知らぬ初心者同士、その場で即興のパーティを組んでダンジョンを攻略する日々を繰り返し、上げられるだけ上げたレベルは20になった。多くのプレイヤーと出会っていたが、彼等は友達であっても味方ではない。安全な村のフィールドを一歩出れば平気で襲い掛かって来たし、こちらも平然と迎え撃つ。そういう世界だから。フィールド内唯一のダンジョンである廃墟は従って、見知らぬ同士でも協力し合える数少ない場所だった。

 冬夜は相変わらずの初期服だ。誰も盗っていかない。武器だけは、ブレードソードからアーチェリーに変わっていた。弓のほうが使い勝手が良かったのだ。

「トウヤは変わり者だよな、サポートなんて今日び流行らないってのに。」

 知り合ったプレイヤーたちは皆、口を揃えてそう言った。

「これも戦略の一環だよ。大手のギルドに入るなら、サポートの方が重宝されるだろ?」

「そりゃそうだろうけど……。育てるの、大変じゃないか?」

「その為に廃墟の周回やってんだよ。」

 冬夜は笑って答えた。


 ネットゲームはプレイヤーを長く拘束する為に、色々と面倒なシステムを作って強くなる過程を遠回りさせる。純粋なレベルの他に武器ごとの熟練度、さらにスキルという技ごとの熟練度まで求めた。すべての武器を使えるようにする事は途方もない遠回りだから、多くのプレイヤーは専門職に成らざるを得ない。冬夜は長期計画を睨み、初期では不利なサポート職を選んでいた。初期では恐ろしく弱く、ソロでのダンジョン攻略は望めそうにない。けれど、初期から徹底して上げたサポートスキルは後々の強力な武器となる予定だ。


「メンツが揃ったら、攻略に出るから。あと一人、誰か参加してー!」

 呼びかけ人のプレイヤーが冬夜たちの前へ来て告げ、次いで廃墟前の広場でも声を上げた。定期的に周囲のプレイヤーに呼びかけてダンジョン攻略のメンバーを募っている。頭の上に赤い旗が宙に浮く形で立っており、数字が浮かんでいた。8分の7。8人パーティで残り1人の空きがあることを示している。

「あっ、アキラだ。」

 声に釣られて振り返る。白銀の高価そうな鎧を纏う女戦士が澄ました顔で歩いていた。デザインの良い装備は総じて高価で、彼女が身に着けている物もリアルマネーでしか買えないアイテムだ。胸を強調するビキニタイプは基本的に局部のみを辛うじて隠し、申し訳程度の薄い生地は逆に生々しいイメージを見る者に与えた。色香を強調する衣装は何の目的だか、それを考えると冬夜は胸が悪くなる。

 アキラと呼ばれた少女はさらさらの黒髪をなびかせ、取り巻きを引き連れて得意げにダンジョンへ入って行くところだった。意図的でなければ靡かない中途半端な長さの髪だ。冬夜は彼女がいけ好かない、すぐにそっぽを向いた。

「可愛いけど、ネカマじゃないかって噂があるよな。本人、否定してるけどさ。」

 悪い笑みで知人は言い、冬夜に同意を求める。

「どっちでもいいじゃん、どうせ俺達が誘っても来やしないんだから。」

 別のプレイヤーが吐き捨てた。彼女はレベルの高い友人たちとつるんでいた。


 冬夜がこのゲームを始めて、一ヶ月が過ぎた頃。この少女、アキラは冬夜の「相棒」となった。相変わらず冬夜は初期服で過ごしていたし、彼女は自慢げだった白銀の鎧を銀行に仕舞い込んでいた。今は初期服に毛が生えた程度の簡単なワンピースを着ている。そして、ハードランスという物騒で巨大な武器を背負っていた。馬上槍という物に近く、普段は二つに折りたたまれた状態だ。装備と云えそうな物はランスと両手に嵌めた鉄製のガントレットくらいだった。ワンピースはいわゆるメイド服という代物で、村の商店では一番安い。ニーソックスに黒い靴も一番安い品。しかし、狙っているとしか思えないラインナップで、一部では好評だった。冬夜と同じ黒い髪はストレートのセミロング、おかっぱのような髪型に以前のわざとらしい飾りっ気はない。大きな黒い瞳で肌が白く、まるで日本人形のよう。そして小さな唇はたいていの場合は閉じていた。以前から見かけたのに、まるで別人のようだった。


「前から時々見かけたけどさ、なんか雰囲気変わってね?」

「ん。中身が変わったからじゃねぇ?」

 冬夜の質問に、美少女キャラは可愛らしい声でそう返した。

 さらりと受け流される言葉に、冬夜は苦笑で黙るしかない。喋ってみればネカマという奴だったようで、見た目とのギャップで少し残念な思いだ。淡い期待は見事に砕けた。

 以前は、どことなくいけ好かないキャラに見えたので世間話をする程度だったが、最近急に人格が変わったようにイイ奴になった。そこで、思い切ってこちらから近付いてみたのだ。

 中身が変わったりするのはよくある話だ。ある程度育ててからオークションで売るという事が普通に許されていたし、彼もオークションで買ったのだろう。「中の人」が変わったのだ。以前の取り巻きは近付きもしなくなっていた。

「そのキャラだったら高かったんじゃねぇの?」

「んー、そうでもなかったよ。なんちゃって、実は知り合いに作って貰っただけでしたっ。」

「そんな暇なヤツが居るわけねーよ、本当のとこはどうなんだよ、」

「ねちねちしつこい奴は嫌われるぞ、トウヤ。」

 けらけら笑って少女は質問を躱す。詳しい事情は教えてくれず、アキラはいつも話題を転じてしまった。


「今日はどうする?」

 美少女から問い返される。もう前の話題はしたくないとの意思表示も兼ねている。冬夜も了解して、キャラメイキングに関してはそれきりになった。思いを巡らせるように上空を見上げ、冬夜は考える素振りをして見せた。スキルや武器の熟練度は上がったが、レベルは12から動いていない。初期ダンジョンの経験値などたかが知れていた。ステップアップの時期が到来したのだ、初心者クラスのフィールド攻略はもう潮時かも知れない。

「ダンジョンも飽きたしなぁ、……狙ってみるか? そろそろ。」

 冬夜の悪い笑みに、釣られたようにアキラも笑い返す。美少女の悪巧みな表情というのはまた、格別だ。

 いよいよ、ターゲットの変更を考えるべき時がきた。二人のレベルでは、せいぜい、迂闊に出てきた初心者パーティか、同レベルのソロを狙うくらいが関の山だが。PKでも相手のレベルに応じた経験値は貰えるから、ここは積極的に行きたいところだった。同業には十分な警戒が必要だが、二人の『若葉狩り』がこの日、デビューを迎える。


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