虎少年の行動理由。
「あ、今、良いかな?」
少女は屋敷の掃除の最中に声を掛けられ、ふみゅ?と首を傾げながら顔を上げる。
そこには最近余り構ってくれなかった虎少年が居て、パァッと笑顔になる少女。
だがすぐにハッとした顔になり、少しだけ頬を膨らまして虎少年を見つめる。
私は少し拗ねてますよ、というアピールの様だ。
「あー、ごめんね、ちょっと最近思い立った事が有って・・・もう落ち着くから」
虎少年は苦笑しながら少女に弁明し、少女も本気で拗ねている訳では無いのでニコッと笑う。
そして今度こそどうしたのかと首を傾げると、虎少年は本題に入る為に口を開いた。
「近いうちに、屋敷を出る事になったから、伝えておこうと思って」
そして告げられた言葉に、少女は笑顔のままピシっと固まった。
暫くそのまま微動だにせず、脳内で言葉を反芻する少女。
そして答えに行きつくと表情がいきなり抜け落ちた。
だけど即座に首をフルフルと横に振ると、ニコーッと良い笑顔を虎少年に向ける。
寂しくないよ。大丈夫だよとでも言う様に。
「今すぐ、って訳じゃないけど、遠くないうちの話だと思っておいて欲しい、かな。それで最近ちょっと忙しかったんだ。ごめんね」
虎少年は申し訳なさそうに頭を下げるが、少女は笑顔で首を横に振る。
「角っ子ちゃん、そっち終わったー?」
そこで彼女が様子を見に来た事で、虎少年は行っておいでと手を振った。
少女は少しだけ困った顔をしたが、今はちゃんと仕事をしようとペコリと頭を下げる。
そしてパタパタと彼女の下に向かい、虎少年は笑顔で見送っていた。
「ん、虎ちゃんと話してたの? ごめん邪魔しちゃった?」
少女を探しに来た彼女は視線の先に虎少年を見つけ、やって来た少女に謝罪を口にする。
だが少女は気にしないでとフルフルと首を横に振り、ぐっと手に力を籠めてお仕事を頑張りますとアピールをしてみせた。
「あははっ、じゃ、行こっか」
笑顔で迎える彼女に同じ様に笑顔で付いて行く少女。
ただその笑顔にはどこか寂しさが有ったが、それでも少女はニコーッと笑っていた。
以前笑顔で見送った時と同じ様に、暗い顔で見送る様な事はしたくなくて。
「・・・良いのかい、今の、勘違いしてるぜ?」
その様子を少し離れていた所で見ていた男が訝し気に虎少年に声をかけた。
だが虎少年はクスリと笑うと男に顔を向け、何でもないという様子を見せる。
「勘違いはしてませんよ。言った事は事実として受け入れてると思います、彼女」
「それは確かにそうだが、本当の事も言ってないだろ」
「それはその時のお楽しみに、と」
「まあ君がそれで良いなら良いが、あんまり拗ねさせて嫌われても知らんぜ?」
「ふふ、それこそ杞憂ですよ。あの子は・・・優しい子ですから」
「ま、確かにそうか」
二人の男達は少女を見送ると、少しだけ悪戯めいた笑顔を見せていた。
後日きっと少女が見せるであろう表情を今から想像して。
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