ふかふか。

虎少年はとても困っていた。それはもう本当にとても。

何故なら今の虎少年は半裸の状態で複数人に囲まれているのだ。

とは言っても力尽くで押さえつけられているという訳ではない。


「わー、背中とってもフカフカだぁー、気持ち良いねぇー」

「お腹もふかふかで角っ子ちゃんが気持ち良さそう。あたしも後で前から抱いて良い?」

「いや、その、それは流石に・・・」


単眼が虎少年の背中を気持ち良さそうに触り、彼女も一緒になって胸元の感触を楽しんでいる。

更に少女がお腹にギューッと抱きついているので、虎少年は全く身動きが取れないでいた。

少女の行為に拒否など出来ず、ただ困った様に受け答えをするしかない虎少年。

何故こんな事になったかと言えば、それは少女に遊ぼうと誘われたのが直接的な原因ではある。


事の始まりは彼女がビニールプールを出して来た事だった。

最近暑くなって来たから皆で涼もうと少女を誘い、その少女が虎少年を誘ったのだ。

当然そうなると皆が水着であり、虎少年も男に借りた水着で庭に出て来る。


その際虎少年は少女の水着姿を褒め、嬉しくなった少女は虎少年にわーいと抱きついた。

だがそこで、虎少年のお腹がとても気持ち良い事に気が付いたのだ。

普段は服で隠れている部分が露出しており、とてもフカフカで心地いいと。


思わず少女は顔を埋めてギュッと抱き付き、彼女と単眼も羨ましそうな目を向けて近づいた。

最初は触って良いかと聞いて遠慮はしていたのだが、それは最初だけでしかなかった様だ。


今や単眼は虎少年の背中全体を堪能する様に手をにぎにぎしており、彼女は肩から胸にかけての感触を楽しんでいる。

屋敷に来てから色々あったおかげで女性に多少慣れつつある虎少年ではあるが、流石にこれにはまいっている様だ。


一番まずいのはお腹に顔をぐりぐりする少女である。

息苦しくなったのか顔を上に向けたかと思えば、ニパーッと嬉しそうに笑ってまた顔を埋める。

嫌な訳では無い。むしろ少女が喜んでいるのは嬉しくはある。


だが考えて欲しい。虎少年は多少大人びているとはいえ色々と多感な年頃の男の子である。

そんな男の子が好きな子に抱きつかれ、綺麗な女性にべたべた肌を触られ、しかも自分は半裸。

更には触ってきている女性達は皆が水着であり、目のやり場にもとても困る。

あと何よりお腹に伝わる少女の体温が一番困ると、天を仰いでいるような状態だ。


「あ、あのー、そろそろ、入りません?」


虎少年は流石に色々と限界を感じ、三人にプールに入る事を提案した。

そこで少女はハッと最初の目的を思い出し、テレテレと恥ずかしそうにしながら離れる。

少女が離れたので彼女と単眼も離れたが、まだもう少し触りたそうであった。

特に彼女は抱きつきたくて仕方ない様だが、取り敢えず今は我慢をした様だ。


気を取り直して少女はビニールプールに向き直る。

中にはもう水が張ってあり、準備運動をしてからゆっくりと足を入れる少女。

今回は彼女もゆっくりと入り、単眼は以前と同じ様に足をぱちゃぱちゃとつけている。

虎少年は少女に手を引かれて中に入り、水の冷たさを心地良く感じている様だ。


ただやはり彼女がじっとしていられず、水をぱちゃぱちゃと少女にかけだすと、少女もキャッキャと水をかけ返す。

当然近くにいる虎少年も巻き込まれ、だけど迷惑そうな様子は無く一緒になって遊んでいた。

ただ少女は暫くして、ふえっ?と声を漏らして驚き固まってしまう。


「え、ど、どうしたの?」


虎少年はなぜ驚かれているのか解らず問いかけると、彼女と単眼はクスクスと笑っていた。

そのせいで余計に訳が解らず狼狽える虎少年。

ただその後少女が頬をペタペタと触るので、その理由に気が付いて苦笑で返していた。

つまりは単純に、今の虎少年は毛が濡れてほっそりと見え、その事に驚いたという事だ。


水にぬれた虎少年はとても細く見える。

とは言ってもそれは元が毛で膨らんでいたという視覚的な理由で、そこまで細い訳ではない。

むしろ体格的には筋肉が有る方であり、とても良い体をしている。


「水に濡れると別人みたいだねー。細マッチョって感じ。これはこれでかっこいいね」

「私はふかふかの方が好きだなぁ。可愛いし気持ち良いし」


彼女は水に濡れた虎少年も良い様だが、単眼的には普段の方が良い様だ。

因みに少女も単眼と同意見だった様でコクコクと食い気味に頷いていた。

どうやら余程さっきのふかふかお腹が気にった様である。

少女はムフーと鼻息荒めで、虎少年は喜べば良いのか悩めば良いのかと複雑な表情だ。


「えっと、じゃあ、乾いたら、後でね?」


虎少年は少女が喜ぶならと、恥ずかしさを押し殺す事を決めた様だ。

当然少女は満面の笑みでコクコクと頷き、全身でありがとうと示す様に虎少年に抱きつく。


「ええー、あたしも抱きしめたーい」

「わ、私も、後ろからで良いから、駄目、かな?」

「えっ・・・あ、その・・・」


流石に少女以外に半裸で抱きつかれるのは恥ずかしいと、答えに詰まる虎少年。

だが少女が駄目なの?と問う様に見つめるので、虎少年はもう色々と諦める事にした。


「わ、解りました・・・」


虎少年の許可にわーいと喜ぶ良い大人二人と少女。本気で嬉しい様だ。

邪気無く純粋な喜びを見せる女性陣に、虎少年も本心から「まあ良いか」と思い始めていた。

因みにこの間ずっと羊角が真顔でカメラを回し続けているが、それはどうでも良い話だろう。








後日その時の事を複眼に虎少年本人が話す機会が有った。

その際複眼は「え、何それ、羨ましい。私も抱き締めたかった」と本気で言っていた。

どうやら複眼も虎少年の毛皮の感触は好きな様である。


流石に「脱いで抱かせて」とは言えず、少々悔しい思いを後で彼女にぶつける事を決める複眼。

因みに女も羨ましそうに睨んでいたのだが、それには誰も気が付かなかったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る