未来は。
「んふふー」
その日、単眼はとてもご機嫌に少女を抱えて歩いていた。
抱えられている少女も高い目線にきゃっきゃと楽し気で、相変わらず仲の良い二人である。
と、普段ならそれだけの話なのだが、今日は少々事情が違っていた。
じゃれついている少女のすぐ傍、というか、単眼の腕の中に虎少年も抱かれているのだ。
「・・・高いですね」
「あはは、虎ちゃんもおチビちゃんも小さいからね」
経験の無い高い目線に、少しだけ不安気になっている虎少年。
別に虎少年の背が低い訳では無い。単眼が高すぎるだけだ。
そもそも少女と同じ『小さい』カテゴリ分けの時点で、単眼は少し基準がずれているだろう。
何故こんな事になっているかといえば、単眼が少女とじゃれている所に虎少年が通りかかり、君もおいでーとテンション高めに抱えたからである。
前回膝に抱えた事で、単眼の中ではもう躊躇する事のない事柄になっている様だ。
拒否する間も無く抱えられ、更には少女にわーいと抱きつかれての今の状態である。
しっかりと腰を抱かれ、少女にも袖を握られては逃げる事は叶わないだろう。
そもそも抱えられた時点で逃げる事など諦めているが。
「前に膝に乗せた時も思ったけど、虎ちゃん軽いね。見た目よりお肉ついてないのかな?」
「そ、そうですか? 同じ体格の人達と比べたら、重い方だと思うんですけど・・・」
左腕に少女、右腕に虎少年と、それぞれ片手で軽々と抱えている単眼。
単眼にしてみれば、少し重めの人形を抱えるのと大差無いらしい。
ただし単眼基準なので、普通はそんな事は出来ないだろう。
というか、虎少年はそこそこ重いはずだ。単眼の力が強いだけである。
「虎ちゃんも何時か私ぐらいになるんでしょ?」
「いや、僕は、流石にここまでは・・・」
「あれ、そうなんだ。それは残念。手足が太いし、もっと大きくなると思ってたんだけど」
虎少年は手足の太さを考えれば、もっと大きくなるのは確かだ。
なので単眼は仲間が出来ると思っていた様だが、残念ながらそこまで大きくはならない。
それにどちらかというと、虎少年は横に大きくなるタイプの種族である。
単眼の様に全てが大きい種族とは、少々成長の仕方が違うのだ。
「残念だねー」
ねー?と首を傾げる単眼に、少女も一緒にねー?と傾げている。
流石に種族の差は許して欲しいと思う虎少年だが、二人が楽しそうなので口には出さなかった。
首を傾げた後はキュッと抱きついて、きゃっきゃと特に理由も無く楽しそうである。
ついでに虎少年も無抵抗で二人にきゅっとされており、最早可愛らしい虎の人形状態だ。
「あ、でもさ、大きくなったら、私を抱えられるぐらにはなるんじゃないの?」
「あー・・・うーん・・・でき、るんじゃ、ないですかね」
出来ない事はないかもしれないが、かなり厳しいだろうと思った虎少年。
だが女性相手に『重いから無理です』と正直に言うのもはばかられ、若干曖昧な様子で返すしかなかった。むしろどう返せというのか。
先程から虎少年は単眼に振り回されっぱなしである。
「今はモフモフ可愛い感じだけど、大きくなったら凛々しい感じになるだろうねー」
「どうなんでしょうね・・・大きくはなるので、雰囲気は変わると思いますけど」
単眼の目に映る虎少年は、小動物と同ラインに認識されている。
なのでとっても可愛らしくて、小型の犬猫を愛でている感覚なのだ。
失礼に当たる可能性の有る感覚ではあるが、単眼は少女も同じ様に愛でているので、虎少年は余り気にしていない。
単純に「子供を可愛がる」という感覚なのだろうと受け取っている。
実際単眼は子供も可愛くて愛らしいと思っているので、その認識は間違いではないだろう。
だから子供扱いな事も致し方ないと、色々と抵抗を諦めている。
ただあんまりモフモフモフモフ撫でるのは、ちょっと恥ずかしいなぁと困っているが。
「その時はおチビちゃんも一緒に抱えて貰おうねー」
単眼の言葉に純粋に楽しみな様子で、ねーと首を傾げて応える少女。
虎少年は思わずその様子に、ドキッと心音が上がった気がした。
一瞬、ほんの一瞬、考えてしまったのだ。
成長した少女を抱き抱えて、自分が平静でいられるのかと。
「何を考えてるんだか・・・」
その頃になればきっと少女も落ち着いている可能性が高い。
ならば単に仲の良い男性に抱きつくなど、きっとやらなくなっている事だろう。
となればそれは、特別な相手に、そしてそれが自分であれば、などという妄想だ。
その事に少々顔を赤くする虎少年だが、幸いな事にやはり毛皮で気が付かれていなかった。
因みに平静そうに見える虎少年だが、先程から単眼の胸にキュッと抱えられているので、割と平静ではない。
かなり頭の回っていない状態で受け答えしており、だけど気が付かれないのは幸か不幸か。
単眼はモフモフを手にご機嫌で、少女はお兄ちゃんに好きな高さを見せられて満足な様だ。
「段々遊ばれる頻度が高くなっているな。頑張れー・・・」
男は巻き添えを食わない様に、ひっそりと応援するのであった。卑怯な男である。
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