ダブル虎。

ある日、屋敷には虎柄の存在が二つ並んで歩いていた。

片方は当然だが虎少年である。そして片方は何者か。

それは尻尾をぶらぶらと揺らしながら歩く、虎の着ぐるみを着た少女であった。


正確には着ぐるみパジャマだが、それは些細な事だろう。

虎少年とお揃いなのが嬉しいのか、何時も以上にニッコニコ笑いながら横を歩いている。

ポッフポッフとクッションの靴音を鳴らしながら、肉球靴がとてもお気に入りの様だ。


「かっわいい・・・!」


こんな物を用意するのは一人しか居らず、その一人はデータがいっぱいになる迄シャッターを押し続けている。

少女もサービスする様に両手を構え、がおーっとポーズをとるので尚更だ。

虎少年は少女の要望で同じポーズを取り、がおーっと構える2ショットも出来ていた。

どちらの虎も全く迫力が無く、むしろ少し照れながらの虎少年が可愛らしい。


因みにパジャマだからかお腹にポケットが付いており、猫がそこに収まっている。

時折ご機嫌にぶな~っと鳴いており、どうやらポケット内は居心地が良いらしい。

犬がちょっと入りたそうにしていたが、自分の大きさを理解しているので諦めた。

でもやっぱり良いなと前足をちょこんと入れ、その姿が可愛いと少女が撫でまわしている。


「わー、おチビちゃんもふもふだねー」


単眼が持ちあげて優しく抱くと、ゴロゴロとネコ科の甘える鳴き声を真似しながら単眼にすり寄る少女。

応える様に単眼は少女の顎下を指先でなでなでし、猫を可愛がるようにじゃれあっている。

似てるとは言い難い鳴き声ではあったが、二人にとっては些細な事だ。


ただその様子に虎少年が照れて少々目を逸らしている。

何故ならその光景は、自分の真似をされたのだと思ったからだ。


つい先日、ぼーっとしていた虎少年の頭を傍に居た複眼が撫でていた。

それ自体は最近特に珍しい事でも無かったのだが、虎少年は少し寝ぼけた様子でゴロゴロと鳴きながら手にすり寄ってしまったのだ。それも大分甘えた様子で。


最近では複眼も撫でるのに慣れ、虎少年が心地よさそうにしている所を見つけている。

なので日常になりつつある事で気が緩み、完全に無意識の行動だったのだろう。

すぐに気が付いてバッと離れたのだが、離れた所で既に遅い。


その時は少女も傍に居て、猫よりも大きなゴロゴロ音にほえーっと見つめていた。

なのでどう考えてもその時の自分の真似だと解り、しかも自分もあんな風にしていたのかと思うと、どうにも恥ずかしくて直視出来ないようだ。


「あはは、可愛いね・・・虎ちゃんも可愛かったよ?」

「うっ・・・あれは、忘れて貰えると嬉しいんですけど」

「どうしようかなぁ」


少し楽し気に感想を告げて来る複眼に、勘弁してという様子の虎少年。

複眼としては素直に可愛いと思っての事なのだが、恥ずかしがっている様子に少しだけいたずら心が働いたらしい。

ニマッとしながら虎少年の頭を撫で、虎少年は顔を抑えて俯いてしまっていた。


「うう・・・優しいお姉さんって言ったの撤回します。ちょっとだけ意地悪ですね」

「あはは、ごめんごめん。ま、可愛いって言われるのも今の内だけだと思うわよ? 君はすぐに大きくなるわけだし、精神的にもそこまで子供じゃないしね」

「そう願います・・・」


実際虎少年は数年のうちに、複眼程度は追い越すぐらい大きくなるだろう。

そうなれば見た目の可愛さはきっとなくなり、青年らしい凛々しさが見えて来るかもしれない。

ただ虎少年の性格を考えると、体が大きくなっただけじゃまだ可愛いだろうな等と思うが、流石にこれ以上恥ずかしがらせるのは止めておこうとも思う複眼であった。








因みに最近、女も虎少年を結構睨んでいる事が増えている。

以前からそこまで女を怖がらない人間な事と、周囲からの扱いに慣れない様子が可愛らしいと感じているようだ。

とはいえその眼光を見ると、虎少年は一瞬ビクッと体を固くするのだが。


「私も撫でたいんだがな・・・」


自分だけ虎少年を愛でる輪の中に入りそびれ、ちょっとだけへこんでいる女。

何でそういう所だけ不器用なのかと男は思うも、女への助けの手を出す気は無い様だ。

ただ寂しそうにしていると少女がポフポフと近づいて来て、猫の様に頭を擦り付けて構っていたので満足な様である。

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