ケーキ。
今日の少女はお菓子作りの為、いそいそとエプロンを付けている。
最近はクッキーなら一人で作れる様になったので、今日は違う物を複眼に教えて貰う予定だ。
とは言っても作るのに日数がかかる物ではなく、今日中に出来る程度の物だが。
「今日はベイクドチーズケーキを作ろうか」
はーいと元気よく手を上げる少女に小さく口角を上げながら、複眼は材料を出して行く。
その間に少女は道具を用意して、自分専用の台座も用意。
ちまちまと動く少女を見る猫は、犬の頭の上でぶな~と鳴いて応援していた。
「じゃあまずはクリームチーズを練ろうか。クリームチーズ以外でも良いんだけど、これの方が作るのが簡単だから。練るのが楽だし」
用意しておいたボールをハイっと差し出す少女に笑みを浮かべながら、チーズを入れる複眼。
何時もの様に見本を見せてくれる複眼を見つめ、うんと気合いを入れてから少女もヘラでチーズを練り始める。
うんしょ、うんしょと、力が足りないというよりも、入れ過ぎない様に気を付ける少女。
そのせいか動きが何だかたどたどしいが、複眼はクスクスと笑うだけで作業を続ける。
「柔らかくなったら砂糖と薄力粉を入れて、また練るよ。ちゃんと計ってね」
はーいと手を挙げてから、少女は慎重に計量して砂糖を混ぜる。
薄力粉も大匙を使って綺麗に混ぜると、ふぅとひと仕事した様に息を吐いていた。
もうお菓子作りもそこそこ慣れている筈なのに、何処か初心者感のある態度に複眼はどうしてもにやけてしまう。
そんな複眼の様子に気が付く事も無く、少女はチーズを慎重に練って行く。
「今度は卵を入れるよ。一気に入れない様に一つずつね」
今度は卵を入れては混ぜ、入れては混ぜと、途中で泡だて器に変えてまた混ぜる。
混ぜ混ぜしているうちに楽しくなった少女は、調子はずれの鼻歌を歌い始めていた。
同じ作業の繰り返しなので、うまい具合に肩の力も抜けている様だ。
少女の背後では猫が合の手を入れる用にぶなーんぶなーんと鳴いている。
複眼は一人おかしくてプルプルと震えているが、気が付いているのは犬だけである。
「このぐらいで良いかな。後はブランデーを少し入れて・・・」
お菓子用のブランデーを少量入れた複眼は、そのままブランデーを少女に渡す。
そこで複眼は失敗した事に気が付くが、少々遅かった。
何時もの慣れで瓶ごと傾けて入れた複眼だったが、本来こういう時は匙を使う。
特に少女の様に不器用な場合は尚の事だ。
「あー・・・ああ」
案の定少女は入れ過ぎてしまい、慌てて瓶を戻していた。
アウアウと慌てる少女に少し申し訳なく思いながら「大丈夫大丈夫」と声をかける複眼。
実際ちょっと入れ過ぎた程度なので問題は無いだろう。
ただちょっと、普通の物よりも酒の香りや苦みがきついだけで。
「後は生クリームも入れる。これも卵と同じ様にね。しっかり混ぜ終わったら器に流し込んでオーブンに投入するよ」
複眼は手際よく混ぜ込んでいき、それを見ながら少女も少々もたもたしながら混ぜ込んでいく。
実際にはそこまでもたもたしてはいないのだが、いちいち動きがそう見えるせいだ。
隣に居る複眼の手際の良さも原因だろうが、小動物感溢れる動きが有る限り手際よく見えるのは難しいだろうなと、複眼は小さく笑いながらデコレーションカップに流し込んでいく。
「さて、焼いている間にお茶でも飲もうか」
流し込み終わったカップをオーブンに入れ、火を入れるとお茶の用意をしだす複眼。
少女はまだカップに流し込む所にも行ってなかったので、少々ワタワタしながら流していた。
「慌てなくて良いからね」
複眼にそう言われ、あうぅと少し肩を落としながら作業を終える少女。
その頃にはお茶の準備も出来ており、少女は何時でもオーブンに入れられる状態にしてから席に着いた。
暫くして複眼の入れた分が焼けると、少女は待ってましたと自分でオーブンに入れて行く。
ただそれだけの作業を楽し気にやる少女に、見ている複眼も楽しんでいた。
「ちみっこのは冷やして食べるとして、こっちは暖かい内に食べよっか。熱いから手でつかんじゃ駄目だよ。フォーク・・・よりもスプーンの方が良いかな」
複眼はお茶を入れ直し、少女も言われた通りにスプーンを用意。
足をプランプランさせながら、ニコニコとお茶が入るのを待っている。
複眼は少女の前にカップを置くと、鳥ささ身の欠片を猫と犬にあげてから席に着いた。
犬はちょっと嬉しくて放り投げたかったが、頭の上に猫が居るのでぐっと我慢した様だ。
猫は特に気にせず、ぶなぶなとご機嫌に鳴きながら食べている。
「それじゃ暖かい内に食べようか」
複眼が席に着いてからスプーンをケーキに入れ、ぱくっと一口入れる少女。
ん~っと満足気にパタパタ動いてからまた一口と、実に幸せそうに食べている。
解り易いなぁと思いながら、このまったりした時間を心地良いと思う複眼。
今日は乱入者が居ないので尚の事まったりしているのだろう。
「残りはちょっと常温で冷やしてから冷蔵庫に入れて、ちみっこの分も冷やしたら旦那様と先輩・・・あとは虎のお兄ちゃんに渡しに行こうか」
複眼の提案に素直にコクコクと頷く少女。
渡した時の反応を楽しみにしながら、口に広がる甘味に蕩ける少女であった。
因みに少女が作ったケーキだが、男と女、そして虎少年の口には合った様で喜ばれた。
そして少年にも渡して喜ばれたのだが、そこで少々問題が起きる。
少女のケーキにはアルコールが多めに入っている。そして少年はそれを食べた。
結果、少年は酔ってしまったのだ。
焼き菓子だから大丈夫だと思っていたが故の油断だろう。
ただし少年も解り易くすぐに酔っぱらったのではなく、食べて暫くしてからフラフラし出した。
そして顔も赤く目も虚ろな所を見つけた少女は、少年が体調を崩したと大慌てで駆け寄る。
少年をぎゅっと抱きかかえ、蒼白になって女の下へワタワタと助けを求めに行くのであった。
因みに少年はその時の事を殆ど覚えていない。
良かったのか悪かったのか判断に困る所だろう。
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