二人の想い。
虎少年は屋敷に来て早々に歓迎され、使用人達にお客様とは思えない程揉みくちゃにされた。
主に彼女が毛皮をワッシャワッシャと楽しんでいたが、今回は単眼も一緒になっている。
どうやら前回、虎少年の毛皮の触り心地を堪能しきれなかった心残りが有った様だ。
それだけが理由ならまだ違ったのだが、単眼がどうしても可愛がってしまう理由が別にある
虎少年は前回会った時より成長したとはいえ、まだ幼さが残る容姿をしており、まだまだ大人という雰囲気には達していない。
更には大きくない胴体のサイズの割に手足だけが少し太めで、何だかアンバランス感が有る。
そのせいで単眼の眼には、実際に虎の子供がよちよち歩いている様に見えていたのだ。
前回はまだ少し緊張感の有るお客様扱いだったが、今回は少女の友人枠という事で少しばかり砕けて接しているので、心おきなく虎少年を可愛がっているのであった。
当の虎少年は歓迎されるのは嬉しいが、大人の女性に体を触られまくる状況に赤面している。
ただし毛皮なせいで驚き狼狽えているのは解っても、赤くなっているのは解らないのだが。
そして何故か少女も一緒になってキャッキャと毛皮を撫でるので、途中からもう好きにしてくれと項垂れる虎少年である。
因みに少女は毛皮よりも肉球が好きな様だ。猫の足も時々無心になってプニプニしている。
そうして暫く歓迎され、ある程度の所で「一応お客様だぞ」と女が止めた事で一旦終了した。
止めてくれたのはありがたいと思った虎少年は、女の発した「一応」という言葉は聞かなかった事にした。聞かなかった事にしたかった。
その様子を同情する気持ちで見ていた少年は、解放された所で水を手渡しに行く。
ずいぶん前から用意していたので少し温くなっているが、それなら助けてあげれば良いのにとは誰も言わないだろう。
多分助けに行っても一緒になって遊ばれるだけである。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「うん、君も元気そうで良かった。彼女も、元気そうで」
少年と虎少年の挨拶は久しぶりに顔を合わせた様に聞こえるが、実際はそうでもない。
勿論じかに顔を合わせるのは別れて以来初めてだが、この二人は少女よりも連絡を取り合っている回数が多いのだ。
「それにしても、早く来れそうだとは言ってましたけど、予定より更に早くありませんか?」
「まあ、その、色々、頑張ったので・・・うん・・・」
虎少年は前回少女たちに伝えた通り、意外と早く来れそうだと伝えていた。
ただ本来もう少し先だと聞いており、実際に来たのは予定日よりかなり早くなっている。
暖かくなる頃に行くね、と言っていたのでかなりのフライングだろう。
だが虎少年は口をもごもごと動かすだけで、その理由を明確には答えなかった。
頑張ったとは何を頑張ったのか。そう言えばそもそも彼はどういう生活をしているのか。
と、少年は少し思う所は有ったが、その辺りは突っ込まない事にした様だ。
「貴方が来ると聞いて、数日前から楽しみにしていましたよ、彼女」
「ははっ、それは嬉しいな・・・妬けるかい?」
「っ、な、なにを・・・!」
「あははっ、本当に変わらないね、君も。ふふっ、あははは!」
虎少年はニッと笑うと横目で少年に視線を向けながら問いかけ、少年は見るからに赤くなって狼狽え始めた。
それがツボに入ったのか、虎少年は本気で笑い声をあげている。
少年は流石に少し不満だったのか、珍しくふてくされる様な表情を表に出していた。
「か、揶揄わないでください」
「ははっ、揶揄ったつもりは、なかったんだけどね。うん、揶揄ったんじゃないよ、今のは」
「・・・え? どういう――――」
「さて、いつの間にか消えた君達の旦那様に歓迎の感謝と恨み言でも言いに行こうかな」
揶揄った訳では無い。改めて二度も言ったその意味が少年には良く解らなかった。
だから問いかけようとしたのだが、虎少年はそれを解っていて遮った。
まるでその言葉の意味は、自分に聞くべく物じゃないと言う様に。
「案内、お願いして良いかな」
「・・・はい、解りました。こちらに」
男がどこにいるか、何てのは虎少年も解っている。
だけどあえて使用人として案内を頼み、先程の会話を打ち切った。
少年はもやもやとした気持ちを抱え、また何か言い様の無い焦りが増しているのだった。
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