課金。

少女は自室で端末を見つめながら、とても不思議そうに首を傾げていた。

端末の画面には良くあるネットゲームの説明が映っている。

ただ少女はその説明をスライドして行けば行く程、顔には不可解が増していた。


一度画面から目を離し、うーんと考える素振りを見せる少女。

だが少しすると、うんっと何か決めた様に頷いてパタパタと部屋を出て行った。






「うん、何、ゲームの説明が無い?」


男の言葉にコクコクと頷き、開いていた端末の画面を見せる少女。

少女は何時もゲームで遊んでくれる男に聞けば解ると思い、男の部屋まで訪ねたのだ。

ゲームの事を主人に聞きに来る奴隷というのも普通ならおかしな話だが、そもそも男が新作を買う度に少女を誘うので当然の選択である。


「どれちょっと貸して・・・ああ」


男は少女から端末を受け取り、どういう意味なのかをすぐに悟った。

画面には男にとっては特に珍しくもない、携帯端末専用のゲームの説明。

良くある『ガチャ』を回すゲームだ。


ただしその画面には『ゲームの詳しい内容』が確かに記載されていない。

勿論ざっくりとどういうゲームなのか、どういう層に向けてのゲームなのかの説明は有る。

ただ肝心のゲームシステム部分の説明がとても少ないのだ。

ゲーム紹介なのに中身の説明がない。その事に少女は首を傾げていたらしい。


元々は興味が有ってその画面を開いた訳では無く、少し端末で調べ物をしていた少女。

その際に広告に指が当り、アワアワとしているうちにゲームの説明画面に飛んでしまう。

最初はすぐに消そうと思ったのだが、ゲームの説明という事で少しだけ興味をそそられた。

そうしてその説明を読んでいくうちに、といった感じで今回の事に至ったという訳だ。


「これは何て言うか・・・課金ゲーム、だから、俺はあんまり好きじゃないんだよな」


課金ゲーム、という聞き慣れない単語に首を傾げる少女。

だが暫く考えた後、はっとした顔になってサーッと血の気の引く様子を見せる。

そしてアワアワと慌てながら、男の袖を縋り付く様に握った。

顔に思い切り「どうしよう」と書いているのが見える。


課金という言葉そのまま受け止めれば、それは料金を課されるという意味。

ならば課金ゲームとは、単純にお金をとられるゲームという事。

つまり少女は画面を開いた事で、既にお金がかかる様な事をしてしまったと思ったのだ。


「ああ大丈夫大丈夫、ゲームをプレイしてから、お金を入れて色々やるゲームってだけだから」


この世の絶望でも見たかの様な表情を見せる少女に、勘違いしたんだろうと説明する男。

落ち着いた男の説明を聞いた事で、少女は少しづつ平静を取り戻した。

そして更に詳しい説明を聞くうちに、最初と同じ様に首を傾げ始める。

何故なら男の説明には少し偏りがあったからだ。


「こういうのって基本金をかければかける程強いキャラが手に入る、ってパターンだけど、それだけでゲームのシステム面の積み重ねが薄いんだよな。時間をかけた有利も薄い。あんまり好きな種類のゲームじゃないんだよなぁ」


とまあ単純に、好きではない人間側の意見だったのだ。

男としてはゲームをやるならプレイに技量なり知識なりが有効なゲームが良い。

課金でキャラを集め、装備を集め、プレイ技術や総時間よりも金をかけた量が物を言う。

そういうゲームは男には肌に合わない物らしい。


勿論そんなゲームばかりではないのは承知の上だが、それでも手を出そうとはしない。

こういう種類のゲームは嵌ると大変な事にもなると思っているからだ。

課金キャラ欲しさに生活費をつぎ込む者も世の中には居るのだからと


「それに何時か消えるデータにそんな金かけてもなぁ。手元にシステム残せるならともかく」


とまあ、男は手元に残せるゲーム専用機が好きな人間なので、どうにも否定的だ。

アナログゲームも遊ぶ口なので余計かもしれない。

なのでそれを聞いた少女の頭の中では少し混乱が生じていた。


確かにゲームは基本、お金を出して買って遊ぶ物。

そのゲームもお金を出すけど、出す額に際限が無い。

そして出したからと言って思い通りのゲームプレイが出来る訳じゃない。

更にお金を出したのにそのゲームは手元からなくなる可能性が有る。


なら何でそんなゲームが存在出来るんだろう? となってしまったのだ。


致し方ない事ではあるが、否定的意見だけを耳にしてしまった為にそうなっていた。

取り敢えず男には説明して貰ったお礼を言って、ポテポテと自室に戻る少女。

ただその間も首を傾げながら、良く解らないなぁという感じで。


「おチビちゃん、どうしたの? 何かあった?」


その間うみうみゃ唸りながらだった為、偶々通りかかった単眼が声をかけた。

なので先程あった事を男の説明込みで伝えると、単眼はおもむろに自分の端末を取り出す。

そしてちょっと操作すると、少女の隣にしゃがみこんで画面を見せて来た。


「ここ押してみて」


単眼が何やらボタンマークらしいところを指さすので、少女は首を傾げ名からトンと押す。

すると端末から何だか悲しげな音が鳴り「はずれ、ざんねん」という文字が出た。


少女は少し不安げに単眼を見つめると「もう一回」と言われたのでまた同じように押す少女。

今度は「にゃ~」と鳴き声がなり、猫の写真が「あたり、おめでとう」の文字と共に現れた。

少女は素直にわーいと喜んで単眼に笑顔を向け、それを見てから単眼はニコッと笑って口を開く。


「様は、こういう楽しみかなーと思うんだ。これはお金がかからない物だけど、当たったーって気分を楽しむ感じかな。くじ引きとか、そういうの。偶にやるでしょ?」


確かに時々使用人同士でくじを引いて何かをする、という時が有る。

その時の辺り外れでの一喜一憂はの雰囲気は少女も好きだ。

とはいえ少女は何が来ても楽しむので、そこは少し違うのだが。


「だから、そういうのが楽しい、っていう人達には人気なんだと思うよ。ただ私はやっぱり、お金がかかっちゃうのは怖いからやらないけど。こういうので満足かなー」


少女は成程ーと納得し、ぺこりと単眼に頭を下げた。

単眼はそんな少女を胸元まで抱き上げ、どういたしましてという様にニコッと笑う。

何だかとても嬉しくなった少女はキャーッと楽しそうに首に抱きつき、単眼もきゅーっと抱き締め返しと、頭を下げられるよりもこっちの方が嬉しかったらしい単眼であった。





因みに後日、課金系のゲームは出来ない様に設定出来ないかと相談に行く少女。

どうやら課金で大変になった、という状況を詳しく調べて青くなっていた様である。

プルプルと涙目で震えながら必死に説明をする様は、少々慌て過ぎていて要領を得なかったそうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る