感謝。

「今日も角っ子ちゃんはお部屋なのかな?」

「みたいねぇ・・・天使ちゃん、どうしたのかしら」


彼女がきょろきょろと少女を探すが姿が見えず、羊角も見ていない様だ。

それもそのはずで少女は最近、仕事の時間以外は部屋にいる時間が多くなっていた。

お仕事の無い日は畑と食事の時間以外出て来ない日もあり、今日も見かけない事に彼女は少し心配になっている。


「お散歩の時間には出て来るのよね?」

「そうなんだよねー・・・その時にそれとなーく何してるのか聞いてみたんだけど、すっごく『隠してますー!』って解るアワアワした様子で何でもないって首横に降られてさ」

「うーん、天使ちゃんの事だから悪い事はしてないと思うけど、少し心配ねぇ」

「あんまり隠し事とかしない子だから余計にね」


という風に、明らかに何かを内緒にしているのは解っている。

解っているけど何度聞いても教えてくれないので、これ以上ぐいぐい行っても嫌がられるかな。

彼女はそう思い、これ以上の踏み込みが出来ないでる様だ。


半面羊角は多少の心配をしてはいるが、それでもそこまで物凄く心配している様子は無い。

少女がもし本気で困った事になったら全力で力になる気なので。

それはもう、出来る限りの全てを持って。

という訳で羊角はむしろ少女が撮れない事の方が辛い。部屋に突撃も出来ないので余計に。


「うーん、もう一回だけ聞いてみようかなぁ・・・」


羊角と別れた彼女は最後にもう一回と、少女の部屋に向かう。

コンコンとノックをすると、バタバタと慌てた様な音が暫くなってから扉が開いた。

中から現れた少女はえへへと何か焦ったような笑顔を向けており、明らかに何かが有ると全く隠せていない。


ただそこで、ふと顔を上げると、ベッドが不自然に膨らんでいるのが見えた。

その横には猫が居て、ぶなぶなと鳴きながら膨らみを叩いている。


「角っ子ちゃん、ちょっとお部屋に入って良い?」


彼女の視線がベッドに向いている事に気が付き、ぴゃっと声を上げてフルフルと首を振る少女。

そしてオロオロとしてから意を決した様に、彼女を部屋から押し出してペコリと頭を下げてから扉を閉めた。


「・・・え、マジ?」


彼女は今少女に何をされたのか、一瞬理解出来ずに固まっていた。

今の光景はこれまでの少女ならば絶対にやらない様な事だ。

だが現実として彼女は部屋から追い出され、少女は何も話してくれなかった。


「あっれぇ? あたし嫌われるような事・・・いやちょっとは揶揄ったりはしてるけど、普段通りに接してたはずなんだけどなぁ・・・っかしいなぁ」


彼女の性格上、少女をからかって膨れられた事は有る。

だけどそういう時はすぐに謝ってご機嫌取りをしていた。


それに少女が引き籠るようになる前だって、仲良く接していたつもりだ。

流石に嫌われるような事は嫌なので、彼女だってその辺りは気を付けている。

だからこそ少女の完全な拒絶の対応は、彼女にとって思考を鈍らせるに十分だった。


「どうしたの、おチビちゃんの部屋の前で何してるの?」

「・・・角っ子ちゃんに部屋を追い出された」

「・・・あー、そうなんだ」


少女の部屋の前で暫く固まっていた彼女だったが、そこに単眼が声をかけて来た。

ただ自分の返事に対する反応が少しおかしい事に気が付き、彼女はずいっと単眼に詰め寄る。


「あんた、何か知ってるでしょ」

「・・・し、知らないよー?」

「いや、角っ子ちゃんと同レベルで隠し事が下手過ぎるでしょ」

「そ、そんな事無いもん。あそこまであからさまじゃないもん」


単眼は少女と同じという事に訴えるが、どもって視線を逸らしている時点で同レベルだろう。

彼女は確実に単眼が何か知っていると思い、けど自分には話してくれないのかと考えだす。

普段は女の次ぐらいに仲が良いと自負していただけに、少しショックな様である。


「うーん・・・まあ、いいや。あたし今日は部屋に戻る・・・」

「あ、うん」


彼女は珍しく沈んだ顔で「あたし何やったっけ?」とブツブツ言いながら去って行く。

単眼はその様子を少し申し訳なさそうに見送ってから、コンコンと少女の部屋にノックした。

するとまた先程の様にバタバタと慌てる様子からの、恐る恐るといった様子で顔を見せる少女。

だが来たのが単眼だと気が付くと、ぱあっと笑顔を見せてそのまま招き入れた。


「どこまで出来たの?」


単眼は部屋に入ると少女にそう訊ね、少女は布団をめくって中を見せる。

そこには彼女の特徴が見て取れる、使用人姿の小さな人形が有った。

頭の所には紐が付いており、紐の先端には携帯端末に繋げられるプラグも付いている。


そしてその横に有る可愛い袋の中から、単眼に似た特徴の有る人形も取り出した。

その人形にも同じく紐とプラグが付いており、どうやら携帯端末のストラップの様だ。


「わあ、上手上手!」


人形作りの先生に褒められ、えへーっと嬉しそうに笑う少女。

そのままハイッと人形を手渡し、単眼もこれ以上ない笑顔で受け取った。

自分をモチーフにした可愛くて小さい人形に少し照れながらも、物凄く胸がいっぱいな気分で抱き締めている。


「ありがとう。嬉しいなぁ。早速つけようか・・・えへへ、可愛いなぁ」


単眼は貰った人形を端末に繋ぎ、可愛いストラップをニヤニヤしながら見つめる。

人形は全部同じサイズで作ってあるので、まるで自分も小さくなった気分にもなっている様だ。


つまり先ほど彼女を部屋から追い出したのは、この人形を見られない為だった。

屋敷の住人全員分の人形を、単眼に作り方を教わりながら全部自分で作っていたのだ。

出来るまでは内緒と思い隠していたのだが、隠しきれていないのが少女らしくは有る。

何事もやると決めたら集中しすぎる少女の悪い癖かもしれない。


ただそれでも少女は皆に早く渡そうと、毎日一生懸命に作っていた。

何よりもこれは、皆への感謝の気持ちなのだ。

初給金を貰えるようにしてくれた、自分が働いて認められるようにしてくれたお礼。

自分の金で材料を買い、道具を買い、全部自分で用意してのお礼の品。


彼女は少女に嫌われていたのではない。好かれているからこその内緒だったのだ。


「皆喜ぶよ~」


単眼の言葉に、そうだと良いなーと思いながらへにゃっとにやける少女。

もう少しで完成する彼女人形で、全員分が出来る。

なので明日は皆にお礼を言って人形を渡しに行こうと、フンスと気合いを入れている。

その横では猫がぶなぶなとご機嫌に、自分そっくりな人形をぺしぺし叩いていた。






なお後日、彼女は人形を渡された際に心底安堵した表情を見せる。


「あー、本気で心配したよぉ! 嫌われたかと思ったぁ!」


と、少女に抱きついて頬をすりすりし、最近足りなかった少女分を補充していた。

そんな風に思っていたのかと驚いた少女は申し訳なさそうな様子だったが、人形を受け取る嬉しそうな彼女をみて、謝るよりもきゃーっといつもの調子で抱きつく。

何時も通りキャッキャッと楽し気に、好きだよと全身で表現する少女に彼女も満足気だった。


「ああ・・・! ああ・・・!」

「ねえ、何か言語を忘れた奴が居るんだけど。さっきから『ああ』しか言わなくて怖い」

「・・・今日はそっとしておいてあげよう。気持ちは解るもの。少しは。うん」


羊角は感動で神像でも掲げるかのようにして喜んでいる。

その様子に複眼は引き気味で、単眼は気持ちが解ると言いつつスッと目を逸らした。

この光景がちょっとどうなのか、という点は同意見の様だ。

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