がおー。
少女は猫を抱えながら、ご機嫌に屋敷を歩き回っていた。
今日の少女はポッフポッフと足音をさせながら、尻尾をフリフリさせて歩いている。
別に足に肉球が出来た訳でも、お尻に尻尾が生えて来た訳でもない。
先日衣替えに入れた着ぐるみを着て、屋敷の中を練り歩いているのである。
ちょっと歩き難いのか左右に揺れており、よったよったという感じの歩み。
普段から偶によたっとしている時は有るが、今日は殊更不安定になっている。
足のクッションが不安定な事と、着ぐるみ自体もごわっとしているせいだろう
そのせいで幼児の様なその歩き方になっており、動く姿がいちいち可愛らしい。
「―――――、―――――!」
羊角が声を出せずに悶えているが、全員スルーである。
ただ悶えつつもちゃんと撮影は怠らない辺り、感動よりもまだ欲望の方が上回っている様だ。
正面は勿論、横からの映像も、ふりふりと尻尾を振っている背後からの映像も網羅している。
ただ顔が少々、女性がしてはいけない表情になっているのは良いのだろうか。
いやきっと良いのだろう。少女もニコッと微笑んでいるのだしきっと問題無い。
着ぐるみにテンション上がって細かい事が気にならなくなっている訳ではないだろう。
「つっかまっえたー♪」
フリフリと振られる尻尾を彼女がきゅっとつかみ、きゃーっと逃げる様な素振りを見せる少女。
少女の危機と感じた猫は腕の中でぶなぶな!と鳴きながら届かない前足を振るっている。
短い前足がタシ!タシ!と少女の腕に降ろされているので一切効果はないだろう。
少女はがおーと片手を上げて彼女を威嚇するが、「かーわいいー」と抱きしめられた。
お互いの頬をすりすりし、少女も一緒にすりすりし返している。
羊角はがおーのポーズを見た時に泣きそうになっていた。本当に大丈夫だろうか。
単眼はその様子を見て、何かを思いついた様に紙にペンを走らせている。
それが少し気になったらしい複眼は、後ろから覗き込みつつ声をかけた。
「何してるの?」
「忘れない内に思いついた人形の案を描いておこうかなって」
見ると単眼の言葉通り、紙には可愛らしい絵柄で人形のデザイン画が出来ていた。
それは今少女が着ている様な着ぐるみで、子供が胸に猫を抱えている可愛らしい絵。
猫も子供も笑顔な所がとてもほんわかする絵になっている。
ただ少し気になるのがは、サイズの表記がおかしい事だろうか。
どう見ても表記がメートル単位で書かれており、少女とほぼ同じ大きさになっている。
いや、単眼にとっては大きくないのだろうが、それ以外の者には明らかに大きい。
そもそも既に部屋が人形で一杯なのに、まだ増やす気なのか。
「・・・その大きさだと、また部屋を圧迫するわよ」
「ち、ちっちゃいので終わらせるから大丈夫だもん」
複眼の静かな突込みに言い返しつつ、サイズ表記を書き直す単眼。
どうやら突っ込まれなければ本当にそのまま作るつもりだったらしい。
残念そうな顔で半分のサイズに変えていた。いや、それでもそこそこ大きいのだが。
複眼が変更した数字をじーっと見つめているが、単眼はもう変更する気配は無い様だ。
完成した時を楽しみにしながら、ニコニコと詳細と材料を追加で書いている。
「二つ作って片方おチビちゃんにあげようかな」
きっと受け取った少女はモチーフに気が付き、わーいと両手を上げながら喜ぶ事だろう。
そんな風に少女の反応を楽しみに予想しながら呟き、単眼は案を煮詰めていく。
ただそのぽそっとした呟きに、羊角がぎゅるっと顔を動かして反応した。勢いが怖い。
そのままツカツカと歩いて行くと、財布を単眼の前にポンと差し出す。
「はい、私も欲しいです。小さいフェルト人形でも良いです。天使ちゃんの人形下さい」
「え、あ、うん、わ、解った」
余りにガチ過ぎる頼みに、単眼は狼狽えながら頷いて返す。
とは言っても作るのは着ぐるみ人形で、少女の人形のつもりではなかったのだが。
しょうがないのでなるべく少女に似せる様に頑張ろうと、イラストに角を追加する単眼。
因みに少年は「自分も頼み・・・いや、まて、いやでも」と葛藤しているのであった。
尚この後は女にも、がおーと両手を上げて威嚇しに行った少女。
ただ物凄く笑顔なので、誰が見たとしても怖がらないだろう。
少女も別に驚かせたい訳では無いので構わないのだが、女はそれを見て暫くフリーズした。
「何だこれは。こんな可愛い生き物が居て良いのか」
などと脳内では考えているが、実際には真顔で動いていない。
女が表情変化すらしない事に少し不安になった少女は、がおーポーズのまま体を傾ける。
それが余計にツボに入ったのが、女は真顔のまま少女を抱きしめ暫く放す事は無かった。
少女は何だか良く解らなかったが、女と長時間ギューッと出来たので満足な様である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます