気が付いてしまった真実。
少女は張り切っていた。
いや、普段から張り切っているが、最近はまた特に張り切っている。
当然理由は先日のお使いによるものだ。あれで少し自信が付いたらしい。
やった事は皆の見守りの中電車で出かけ、店先の店員すら周知の最中でお買い物をしただけ。
だがそんな事を全く知らない少女は、成し遂げた事に対する自信を溢れさせている。
ムフーと満足げな息を吐きながら、今日もお屋敷の掃除をする少女であった。
「角っ子ちゃん、今日もご機嫌だねー」
そんな少女の様子を楽し気に思いながら、彼女は少女の頬をツンツンとつつく。
アウアウと少し翻弄される少女であったが、ぷくっと頬を膨らませて抵抗した。
すると彼女は両手で頬をムニっと挟み込み、ぷすっと空気が漏れて少女の顏は潰されてしまう。
少女はちょっと悔しそうだ。
「あははははっ」
彼女は笑いながら手を離し、少女の頭をワシワシと撫でる。
その笑いにつられてしまったのか、少女も楽しそうに笑顔を見せた。
少女が楽しげなのを確認して彼女がギューッと抱きつき、少女も同じ様に抱きつき返す。
張り切っていようがいまいが、皆も少女もあまり変化は無い様子であった。
そもそも少女は常に何かに気合を入れているので、その変化が解り難いとも言える。
「あ、ただいま戻りました」
キャッキャと楽しそうにじゃれついている二人の所に、少年が通りかかり帰りの言葉を告げる。
見ると少年はコートを羽織って鞄を肩にかけており、頬が赤くなっていて今帰って来たのだと解る様子だ。
「おかえりー。あはは、真っ赤だ。さむかったでしょー。ほら、お姉さんの手は暖かいよー」
「あうっ」
彼女は少年の頬をぶにっと挟み、少年は顔を引く事も出来ずにがっちりつかまれてしまう。
そして少女も同じ様に少年の顎下辺りをぴとっと触り、少年は声も無く固まってしまった。
彼女と少女はとても楽しげだが、少年は必要以上に体温が上昇している。
「いやー、しかしすべすべだね。まだ髭も生えてないんだよねー」
だが彼女はそんな事はお構いなしに少年の頬をすりすりと触り、少女もそれを見て同じ様に手で確かめる。
少年は小さく「ひぅ」と声を上げたが、それに気が付いたのは彼女だけでニマニマしながらその様子を眺めていた。
そして微かに「男の子に肌で負けてる」という悔しさからの悪戯でもあった。
「あ、あ、あの、ぼ、僕、報告に、いかないと、いけ、ないので」
なんとか言葉を絞り出した少年だが、彼女はそのせいで余計に笑ってしまっている。
とはいえこれ以上邪魔はしてはいけないかと手を放した所、偶然女が通りかかった。
「帰っていたのか。いや、今帰った所か」
「は、はい、今帰りました」
女は少年の様子を見て帰宅直後だと判断し、傍に居る二人を見てある程度の事情も察した様だ。
少年は背筋の伸ばして帰宅報告をし、少し緊張感の有る様子で持っていた鞄から書類を渡す。
そして役所がどうだと、向こうの書類不備がどうだと、少女には良く解らない会話が女と少年の間で始まった。
「・・・あれ、角っ子ちゃんどうしたの」
彼女は少女の様子がおかしい事に気が付く。
少女は少年に向けて、心底驚いている目を向けているのだ。
自分には付いて行けない会話を平然とする少年をみて、意味が解らなくなっている。
少女にとって少年は、何処か引っ込み思案で、恥ずかしがりやで、偶に言葉にどもって、守ってあげたい可愛い人間だった。
だが今の少年の様子はどうだ。女と会話する様は仕事中の男の様ではないかと。
そう、少女は知らなかったのだ。少年が仕事の出来る人間だと。
今ここで初めて、少女がやった様な買い物どころか、男が関わっている会社への使いの仕事すら任される程信用されているという事を知ったのだ。
「お、おーい、角っ子ちゃーん・・・聞こえてるー・・・?」
少女は余りのショックに完全に固まっていた。彼女の呼びかけの声が聞こえない程に。
そしてその後暫く、少女は珍しく嫉妬の視線を少年に向けるのだった。
少年は何故そんな目で見られているのかよく解らず、数日間辛い日々を送る事になってしまう。
ただ視線が良く向けられる事に喜んでいた部分も少しある様で、完全に辛い日々という訳でもなかった様だ。
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