シャリシャリ。

「今日も暑いのに、おチビちゃんは本当に元気に動くなぁ・・・」


 じりじりと焼けるような日差しの中、畑をパタパタと走り回る少女を見ながら呟く単眼。

 ただ少女はなまじ体力と身体能力が有るだけに、疲労を感じるのが遅いのが問題でもある。

 少女は未だ全力稼働からのねじが切れた玩具の様に倒れる、という事をやるのだ。


 暖かい気温の時期なら良いが、今の様な暑い日や、逆に寒い日にやると体調を崩しかねない。

 そもそも少女は一度不調を隠して一日を過ごしている。

 その事も有って、どれだけ元気そうでも完全に安心は出来ない。


「うーん、これだけ暑いと流石のおチビちゃんでも辛いんじゃないのかなぁ・・・あ、そうだ」


 単眼は何か思いついた様に呟くと、静かにその場から離れていった。

 その後しばらくして少女は作業を終え、良さげな野菜を一つもぎる。

 そしてそれを屋敷の外の水場で洗い、もしゃもしゃと食べ始めた。


 どうやら美味しく出来ていた様で少女はぺかーっと笑顔を見せる。

 これなら男に褒められると思って、今から男の休日を楽しみにしながら食べ切った。

 次の男の休日は炎天下の収穫に確定した瞬間である。

 畑の規模が広がったが為に、去年よりも頻度が多い事で男は遠い目を見せていた。


「あ、おチビちゃん、終わりー?」


 そこに丁度良く単眼がやって来たので、ご機嫌気分のままコクコクと頷く少女。


「何だか凄くご機嫌ね。野菜の出来が良かったのかな?」


 単眼の首を傾げながらの言葉に少女は力強く頷く。

 フンフンと鼻息が聞こえてきそうな様子に、単眼は思わずクスクスと笑みが漏れた。


「そっか、良かったねぇ。じゃあ今日はちょっと休憩にして、体を冷やそうか。良い物を用意したから、一緒に食べよー」


 単眼は少女を抱きかかえながら屋敷に入って行き、少女も素直に単眼に抱きつく。

 そしてそのまま食堂に向かい、事前に用意しておいた椅子にポスっと少女を座らせた。

 少女の目の前にはシロップと、何やら良く解らない生物の人形の様な物が置いてある。

 ただその人形の頭には、取っ手のような物が付いていた。


「かき氷しようかと思ってねー。今日は暑いし美味しいよー」


 単眼は楽し気に言いながら冷凍庫から氷を取り出し、人形の頭を空けて氷を入れた。

 そして蓋をすると人形の下側に器を置き、取っ手を回し始める。

 ガリガリという音と共に削られた氷が器に落ち、少女はキラキラした瞳でそれを見つめていた。


「はーい、出来たー。シロップが一つしかないのはごめんねー?」


 山になった薄い氷にシロップをかけ、少女の前に差し出す。

 すると少女はワタワタと慌てだし、椅子から降りて走り去っていってしまった。


「え、あれ・・・どこ行くの・・・?」


 単眼は困惑ですぐに動けなかったのだが、移動する前に少女は戻って来た。

 ただその手にはトイカメラが有った事で、何をしたかったのか察知する単眼。


「あはは、溶けちゃうから早めにねー?」


 単眼の言葉にコクコクと頷くと、何度か角度を変えてパシャパシャと撮っていく少女。

 そして満足したらしいところで大人しく椅子に座り、スプーンを突き刺す。

 かき氷特有のしゃりっとした音と感触にもワクワクしながら掬い、パクッと口に入れた。


 甘くて冷たくて美味しいと、満面の笑みを見せながら足をパタパタさせる少女。

 特に今日のような暑い日には、格別美味しく感じる事であろう。


「私もたーべよっと」


 美味しそうに食べる少女を見て、自分も食べたくなった単眼は氷を追加する。

 そしてまたガリガリと削っていると、少女の手が止まって見つめている事に気が付いた。


「もしかしてやりたいの?」


 その問いにコクコクと頷く少女。

 単眼としてはやらせてあげる事は別に構わないのだが、その間に少女の氷が解けてしまう。

 業務用の氷や機械ならばともかく、家庭で作った普通の氷なのだから。

 どうしたものかと一瞬悩むが、単眼はすぐに解決案を思いつき少女に笑顔を向けた。


「じゃ、その氷半分貰うねー。出来たのも半分こしよう。ね?」


 少女は嬉しそうにコクコクト頷き、手元のかき氷を単眼に渡す。

 そしてワクワクしながら人形の取っ手を手に取り、ガリガリと音を立てて氷を削っていく。

 手に感じる削る感触と削れて行く氷。そのどちらもが少女にとっては楽しい様だ。


「あはは、楽しそうだねぇ・・・ほんと、可愛いなぁ・・・」


 少し溶けたかき氷を口にしながら、とても楽しげな少女に満足して呟く単眼。

 尚、かき氷が出来たタイミングで少年が来たり、彼女が来たり、複眼が来たりと、少女は屋敷に居ない男以外全員分のかき氷を作る事になる。

 ただ少女はその事に満足そうな笑みを見せていたので、まあ良いかと最後に出来たかき氷を半分こしてのんびり食べる単眼と少女であった。

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