犬の日常。

 本日は朝の散歩も終わり、犬はご機嫌に屋敷の中を歩いていた。

 犬は基本的に屋敷を自由に歩く事を許されている。

 勿論庭であれば外に出る事も自由で、自分で扉の開け閉めもやる。

 開けるだけならともかくきちんと閉めて行くので、その場を見ていないと犬が外に行った事には誰も気がつかない。


 犬は向かう先を特に決めていない。ただ屋敷の中をぽけーっと歩いているだけである。

 それでも屋敷の中を歩いていれば、その道中で出会った誰かしらが構ってくれる。

 それを楽しみに屋敷内を散策する犬であった。


 なお構う側は何時もの事なので適度に構いはするが、大型犬の犬の抜け毛が屋敷中に有るので掃除の手間が増える。

 なるべくなら撫でて毛を撒き散らかしたくは無いのだが、構って下さいとお座りをする犬を完全放置も出来ないのだった。

 賢い犬であるが、自分の毛のせいで掃除が増えているという事には流石に気が回らないらしい。

 だって犬だもの。


「おう、どうした。部屋まで来るのは珍しいな」


 そうして今日は、男の部屋にやって来た犬。理由は特にない。

 何となく今日はそんな気分だったというだけだ。勿論扉は自力で開けて、ちゃんと閉めた。

 犬なのでそれでも誰も咎めない。咎めるなら最初から屋敷の中で放し飼いにはしていない。

 ある意味屋敷の中で一番自由な住人は、犬なのではないだろうか。


 そして部屋のいたのは男だけでは無かった。

 少女が男に向き合うように座り、何かのゲームをやっていた。

 最近男は少女と遊んでいる事が増えている。新しいゲームを買って来た時はそれが顕著だ。

 最早少女が構って貰っているのか男が構って貰っているのか。


「そういえばお前におやつ買って来たの忘れてた。食うか?」


 犬は男の言葉にわふっっと嬉しそうに応え、きちんとその場でお座りをした。

 ぴしっとして綺麗なお座りに、おやつはまだ出していないのに言葉が解っているかの様な態度。

 少女はその様子を見て良い子良い子と犬を撫で、男は犬のお菓子を入れ物ごと少女に手渡した。


「ほい、やって」


 男に頼まれたという事で、少女はニコニコしながら中身を取り出す。

 取り出したるは芋。無添加の干し芋だ。間違えて人間が食べても大丈夫な物である。


 犬は既にお手の体勢で待っており、少女はクスクスと笑いながら下から受けに行った。

 そしてすぐにお代わりと、反対の前足を出してぴしっと座り直す。

 ただしその目は芋から一切動いていない。

 少女は普段は穏やかな犬が必至な様子を可愛く感じながら、掌に載せた芋を差し出した。


 犬は少女の手を噛まない様に頭を横に向けて芋を咥え、一旦床に置いた。

 そして前足で縦に固定するともう一度咥え、ポーンと上に投げて落ちて来た芋を口でキャッチ。

 そしてきゃっきゃと嬉しそうにひと踊りして、伏せてゆっくりと食べ始めた。


「変な癖だよな」


 これは犬の子供の頃からの癖で、気に入ったおやつを貰うと毎回やる事である。

 何度かキャッチし損ねておやつを見失い、びっくりした様子でキョロキョロする様は本当に賢いのか悩ましい所だ。

 少女はそんな犬が可愛くて、幸せそうに食べる犬の頭を撫でる。


 そしてそんな少女が微笑ましく思い、少女の頭を撫でる男。

 少女は一瞬キョトンとしたが、撫でられている事実に目を細めながら犬を撫で続ける。

 犬は今日も楽しいなぁと思いながら芋を食べ、次の散歩の時間を楽しみにまったり過ごすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る