人食い鱒

二風谷レオン

本編

 これは作者である私、二風谷レオンがオホーツク沿岸のとある町へ釣りに行った時に出会ったおじいさんに実際に聞いた話である…





 この地域では、初夏になるとぽつぽつと釣れ始める魚がいる。それは「カラフトマス」である。一般の市場では「オホーツクサーモン」などという商品名で流通している魚だ。



 今回はこの魚にまつわる話をしようと思う。










 ある初夏の日、私は父親と釣りへ行っていた。自宅から車でおよそ一時間半くらいのところにあるスポットだ。



 学校をさぼって平日に堂々と釣りをしていた私は、アメマスやサクラマスを釣りながら時間を過ごしていた。





 昼下がりの頃、父親と私は昼食を取りながら休憩をしていた。周りには、釣れると踏んだのか、釣り人が増えてきた。そして他の釣り人の奮闘具合を眺めていた。



 そうしてのんびりしていると、一人のおじいさんがこちらに近づいてきた。



「どうですか?何か釣れていますか?」



 この辺の人とは思えないくらい丁寧なおじいさんだったのを今でも覚えている。どうやら、地元の方のようで、この釣り場にはよく来ていたそうだった。


 何やかんや、そこから話が弾んで、長い事話し込んだ。



「それにしても、最近はこの辺も落ち着きをみせてますよ…」



 話の中で、おじいさんはぽつりと言った。私は、昔は波が荒かったりしたのかと思って聞いた。



「いいえ、そうでは無いのですよ」



 何かを思い出しているかのように、おじいさんは話している。



「かつては色々と大変な地域だったのですよ」



 そう言っておじいさんは昔あった話を始めた…





 ◆





 かつて、この地域では水辺での死者が多かったようだ。釣り中の不慮の事故によっておぼれ死んだ者や、入水自殺によって命を落とした者など、さまざまな原因が重なっていて、ほぼ毎日死体が浮いていたようだ。



 この地域は昔から治安が良いため、警察の仕事というのは、これらの遺体の処理が主だったそうだ。





 ある一時期を境に、その沿岸での死者というのは減ったそうだ。地元の人間も、それに安どしていたようだった。


 だが、なぜか行方不明者というのは後を絶たなかったそうだ。


 そして、数年後に恐怖の出来事が起こった。





 その年の初夏、いつものようにその沿岸に釣りに来た釣り人は、釣りを楽しんでいた。


 しばらくやっていると、カラフトマスが、一匹釣れ、とても歓喜したそうだ。





 だが、このカラフトマスには明らかにおかしな点があった。



 それは、明らかに人の髪の毛と思われるものが口やエラに絡まっているのだ。その釣り人は気味悪がってそのカラフトマスを海へと逃がした。


 だが、その後釣りあげたカラフトマスの全てが、人の髪の毛が絡まっていた。その釣り人はさすがに気味が悪くなって、この日は引き上げた。





 その後も、髪の毛が絡まったカラフトマスが釣れたという情報が後を絶たなくなったそうだ。


 そのうち、持ち帰ったカラフトマスの胃から人の爪や指と思われるものが出てきたという例が爆発的に発生した。地元警察は、さすがに何かがおかしいと思って捜索を始めたそうだ。





 数日後、協力してくれた地元の漁師が、青ざめた顔で何かを見つけたと言ってきた。何があったのかを問うが、その漁師は口を開こうとはしなかったらしい。




 別の漁師の漁船で当該の場所に行くと、そこには衝撃の光景が広がっていたらしい。


 その岩礁には、大量の人の死体が引っかかっていたのだ(おじいさん曰く、50体ほどはあったそうだ)


 比較的新しいものもあれば、明らかに腐乱しているものもあったようだ。



 そして、カラフトマスを中心に、魚たちがその死体をむさぼっていたようだ。










 恐らく、カラフトマスの胃から人体の部位が出てくるのは、この死体があったからだろうと言われている。


 そして、発見される遺体が今まで減っていた理由は、離岸流が新たにできたからだとされているらしい。










 ちなみに、カラフトマスに限らず、サケマス系の魚は肉食なので、人を食べることは何ら不自然なことではないとのことだ…

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