夢魔の恋
きゅうご
序
アルトラはサタンの下から2番目の娘だ。
シミもほくろもない美しい肌は白くヨーロッパ系白人種の整った顔立ちに金の柔らかな髪は腰まで波打つ。
なぜ人種の話をするかといえば、この子らの母親はリリスというヒトの女で、原初の母になり損ねた存在だからだ。黒い肌の彼女の腹からはどんな肌色の子も生まれた。
長男の薄暮と次男の
アルトラはその子宮を厳重に管理する役目を担う一人でもある。
ヒト達がまだ発見していない医術と魔術で屋敷の一番奥の小さな部屋を充たしてその中に弟を守っている。肉体的には既に人の赤子のナリをしていたが、生まれようとしてはこない。いつになるか分からないが、彼女は弟が生まれようと動き出す日を楽しみにしている。
弟の名は既に決まっている。ノイズ、騒音だ。
天界との戦争が終わり、穏やかにノイズの誕生を待つ日々は過ぎ、時はキリストが生まれてより1326年
14世紀、ヒトの世界に不穏な空気が漂っていることをサタンが苦々しく眺めていた時期。
さてそもそも彼らはどこにいるのかという話をしよう。
地底奥深くに何があるかはおそらく皆様のご存知のとおり、固い固い土と石とマグマ、そんなところだろう。密度の高いそれらと同時にうすぐらいもう一つの世界があると信じられるだろうか。
そこではオレンジ色の腐りかけた熱球が太陽の代わりに星の核の周りをゆっくり回り、雨は滅多に降らず、だが黒い川はごうごうと岩の間を流れタールのような狭い海もあり、地面は常に湿ってぐちゃぐちゃとしている。そんな世界だ。そこに地底の存在たちは、領地を定めて住んでいる。
どんなにヒトが土を掘り岩を砕こうとそこにたどり着くことはできないが、彼らは簡単にヒトの地上に遊ぶことができた。リスクはあれど。
もっともアルトラは地上に遊びに出たことがなかった。
地下の世界がまんざら嫌いでもなかったし、広い広い屋敷にいないと父親が心配したというのも一因だ。きょうだい達は、伴侶を亡くし息子や娘を亡くした父をいたわっていた。
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