第31話 その後1

 10月


 高校生になって、法明寺のところに押しかけて半年。結局あれから2ヶ月。法明寺からは何の連絡もなかった。

 母も何かを察したかのように法明寺事務所にいかない暁美に、この一連の出来事がなかったかのように何も言ってこない。

 法明寺事務所に行けばいるのかもしれないけど、行かなかった。

 

 法明寺さんのせいで、学校の出席日数も成績も問題なくクリアですよ。


 慣れは不思議なもので、事務所にも行かないし、連絡も取らないし、会話にも出てこないので、あの4ヶ月の出来事自体が夢だったんじゃないかとすら思ってしまうこともある。





 あの時、法明寺と別れを告げて、1週間くらいもぬけの殻だった暁美に、奈々から連絡を受ける。


《やっほー》


《こんにちは》


《アケちゃん家の駅に今度行く用事があるからさ、少しお茶しない》


《はい。ぜひ》

 

 奈々は法明寺と連絡とっているのだろうか、仲間内と協力して。なんて事を言っていたので、その仲間内の中にはきっと奈々は入っている。

 だから連絡を取っているのは分かっているけど、自分から聞くのは悔しいので、暁美からは法明寺の話題を触れないように意識しようと思った。


 駅前の喫茶店


「アケちゃん、こにゃにゃちわ〜」


「奈々さんこんにちは」


 先についていた奈々の席を暁美が見つける形で、そのテーブルの席に座る。


「アケちゃん、元気〜?」


「そうですね、、、、、、今は、帰宅部学生ですよ。失われた青春を取り戻しますよ」


「あはは、アケちゃん面白いね〜」


「面白くないですよ」


 無理だった。それはそうだ。奈々と暁美との共通話題で言えばほとんど法明寺だから。この会話のくだりからは法明寺の話題になってしまう。したくないけど、したいような。

 そんな複雑な気持ち。タガが外れてしまうと根掘り葉掘り聞いてしまいたくなるので、奈々が話してくれることのみに耳を傾けようと暁美は思う。


「そうだよね〜。ま〜」


 ホットココアをフーフーいいながら飲んで、間をおく奈々。少しだけ、窓に目をやる。


「吾郎ちゃんとアケちゃんがどんなやりとりをしたのかはウチはしらないけど、きっと吾郎ちゃんの事だから、アケちゃんにモヤモヤをいっぱい残したんじゃないかな〜と思って」


「本当ですよ。やっぱあのおじさん、そういうところあります?」


「ふふ、あるよ〜、ある〜。いつものアケちゃんっぽくなってきたね〜」


 いつもは甘えてくるちょっと変わったお姉さんも、今日に限っては本当に、人生経験豊富なお姉さんの顔をしている奈々。法明寺も奈々もズルい。


「ウチの口からもすべては語れないとは思うけど、多分、吾郎ちゃんが絶対言わないであろうことを、ウチはアケちゃんに教えちゃいます」


「え?!、そんな情報があるんですか?」


 びっくりした。奈々はプロというのもあるのだろうけれど、法明寺が情報提供してくれない情報以上のものは、必ず言わない人。

 最初の頃はそれがすごく嫌だったけど、暁美がきっと子供だから、嫌なんだろうと自分の中での気持ちの整理をつけられるようになってからは、気にしないようにしていた禁断の入り口。


「これは、プライベートな話ね〜。できればアケちゃんも吾郎ちゃんにその件は言わないでほしいけど、でも、言いたくなっちゃったらま〜しょうがないので、お姉さんの責任でOKしてあげる」


「・・・。ありがとう、奈々さん」


「ウチもリアルタイムで知っているわけじゃないんだけど、吾郎ちゃんって実は昔、刑事さんだったの」


「え??」


「びっくりでしょ〜。笑えるよね〜」


「本当ですよー。あのおじさんが刑事」


 あはは、クススと二人で笑ってしまっていたが、刑事から探偵なんてそれこそドラマの世界の話である。

 暁美が法明寺が初めて会った時に散々、ドラマや漫画の世界に浸った探偵の話なんか現実世界にはないんだ。なんて言っていたクセに。


「あの吾郎ちゃんも20代の時は正義感溢れる刑事さんだったみたいだよ〜。ただ、色々な事件に触れていく中で、吾郎ちゃんに妹さんがね、ちょっとした事件に巻き込まれちゃって」


「あの人、妹さんいるんですね」


「正確にはいた。かな〜」


「え!!」


「妹さんが自殺しちゃったの・・・。吾郎ちゃん、唯一の身寄りだったんけど、吾郎ちゃんのその時は結構忙しくて、妹さんの異変に気付いてあげられなくて、自殺を信じられなくて、色々人間関係を調べたみたい。そこで浮上してきたのが、今回の宗教法人ってわけ」


「・・・・・」


「婚約者がいたみたい。その人が信者だったみたいで、もう結婚式の日取りとかを決めている段階で色々カミングアウトされて、結構思考とかを強制するようなところだったみたいなので、気が滅入るどころじゃなくて、精神的にもおかしくなってきちゃって、眠れない日々を睡眠薬で過ごしていたみたいで、結局は過剰摂取で・・・。」


「それって、事件になったんですか?」


「ん〜ん。直接的な因果関係はないし、そもそも吾郎ちゃんは、逮捕に向けて単独で動いちゃったから、国家権力を私的に使っているって噂になっちゃったみたいで、大事になる前に内々で懲戒免職になったみたい」


「そこからの探偵ですか?」


「そうみたい〜。ウチも探偵になってからの吾郎ちゃんに会ってるので、吾郎ちゃんの周りの人から少し絡んだりした時にポロポロみんなが好き勝手に話す内容をウチなりにまとめてみた結果なだけなので、もしかしたら少し違うかもしれないけど。もちろん吾郎ちゃんもウチがここまで知っている事も知らないだろうし」


 暁美は自分が恥ずかしい。相手の事を思っているつもりでも、結局自分よがりな考え方になっている事が恥ずかしかった。

 なんで法明寺は、暁美や暁美の家族が関わっているかもしれないこの件からあえて暁美を遠ざけようとしているのかしか正直頭になかった。

 暁美の為にとか母の為にとか思っているんだったら御門違いだよ。ってずっとずっとずっと、言ってやりたかったけど・・・・・・。

 もちろん今の時点では、暁美が子供の頃に関わった宗教法人と、法明寺が関わっている宗教法人が一緒かもわからない。

 もしかしたら法明寺の中でもいっぱいいっぱいなのかもしれない。

 あの時、我侭を言ってしまった事をなかった事にしたい・・・・・・。

 暁美が思いつめた顔をしていると、奈々は少しふーっと深呼吸してリラックスしたような姿勢になる。


「ウチが話せる事はここまでかな〜。あとはアケちゃんしか知らない情報も整理した上で自分のしたいことをしていけばいいと思うよ。前回の調査でのモヤモヤはガツンと言ったんでしょ〜?その先に見えたものがあまりにも自分の許容範囲外だったからってそこで立ち止まっちゃダメだよ〜」


「・・・、奈々さん・・・。ありがとう」


「いえいえ〜。それじゃ、ウチはまだならなきゃ行けない作業が残っているので、いくね〜」





 立ち止まるな。と奈々から言われたけど、暁美はその後はやっぱり行動は起こさなかった。法明寺と色々話す時期は今じゃないって思ったから。今はとにかく法明寺から連絡をただ待つだけ・・・・・・。

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