第四章 ネット人格の女
ある日、僕のメールボックスに知らないハンドルネームの人からメールが届いていた。
開いてみてビックリした!
★警告★
『蟷螂』は危険だ!
- 優しい悪魔 -
そう書いてあった。
驚いた僕は、その人物のマイページにいこうとして名前の上をクリックしたら……。
【現在、優しい悪魔さんのアカウントは削除されて存在していません。】
……と、サイトの運営事務局のテロップがでた。
なんだって!?
こいつは僕にこのメールを送るためだけに、アカウントを作って、そして消して逃げたのか?
なんでわざわざそんな面倒なことを……。
こいつは流しの『荒らし』の仕業ではないと思った。
そして、その翌日にも知らないメールが届いていた。
《 警告 》
『蟷螂』はいっぱいサブHNをもっている。
あの女は荒らしだ、気をつけろ!
- ネット荒らし -
こんなことが書いてあった。
そのマイページにいくとやっぱしアカウントが消えていた。
いったい、こいつは誰なんだ?
なんでこんなことを僕に書いてくるんだ? なんのつもりなんだ!?
不気味なメールに僕はイラついた。
また、翌日も同じように……。
警告
『蟷螂』はおまえを狙っているぞ!
あいつは悪魔だ、地獄に堕ちろ!
- 地獄のピエロ -
くっそー、もう頭にきた!
いったい、なんの目的でこんな不愉快なメールを送ってくるんだ?
こいつの正体は誰なんだ? 僕の中でいろんな人間の可能性を考えてみる、ネットの世界では誰だって『荒らし』なれるのだから……。
僕に悪意を持っている奴か、はたまたキリちゃんに嫉妬してる奴か?
もしかしたら、消えたルミナちゃんかもしれない? ひょっとしたら、キリちゃん自身の自作自演だって有り得るじゃないか。ああ、頭が混乱してきた。
ここはネット、ひとりの人間がいろんな人格になれる魔法の世界なんだから――。
今夜は、どうしても聞きたいことあったので、キリちゃんをチャット部屋へ誘った。
いつものように、ふたり部屋に入った僕らはラブラブな挨拶をする。
僕:「キリちゃん☆・゚:*(〃ノω`)ε`*)チュッ*:゚・☆大好き」
彼女:「お返しの(*´∀`*(`〃 ) ちゅっ♪」
僕:「アナタヮ*ゝω・)σ…ヽ(*ゝω・*)/最高☆」
彼女:「アナタガヾ( ´∀`)八(´∀` ) チュキチュキ♪」
僕・彼女「。:゚+.赤ィ糸デ(((++(。U`ω´u。)d~~~b(。uдu。)++)))ツナガッテル.+゚:。 」
いつもの調子で一発変換の顔文字でチャットをしていたが……先日の荒らしのことをキリちゃんに話した。何か心当たりはないかという僕の質問に対して、彼女は「しらないわ」とたった5文字で切り返した。
チャットでは顔も声も分からない、だから相手がどんな反応なのか窺い知ることができないのだ。
その次にどうしてフレンドを作らないの?
と彼女に質問してみたら……
「前に変な人にネットストーカーされてからフレンドは作らないの」
そう言えば『ラブとも』でネットのカップルなのに、僕らはフレンド登録さえしていない。キリちゃんが隠し事をしているようで釈然としない。
「チャット部屋は止めて、スカイプかメッセンジャーでボイスチャットをしようよ」
僕は以前から考えていたことをキリちゃんに話した。
スカイブやメッセンジャーのボイスチャットとは、パソコンにイヤ―マイクを繋いで、音声で話しをすることである。学生たちがネットゲームでRPG(ロールプレインゲーム)をする時に、仲間たちとおしゃべりしながら敵と戦える便利な機能である。
サイトからインストールするだけで、何時間おしゃべりをしても無料なのだ。
「ボイスチャットがしたいの?」
「うん、やろうよ」
「考えさせて……」
そう答えるとキリちゃんは黙ってしまった。
もし本体が男だったらボイスチャットはできないだろう、僕はキリちゃんを試しているんだ。
もしかして、もう落ちたのかと思うほど長く待たされて……やっと、キリちゃんがチャットを返してきた。
「分かったわ、ボイスチャットじゃなくてリアルで会いましょう」
「ええぇ―――!?」
ビックリした!
まさか、リアル(現実)で会うなんて、キリちゃんが言いだすとは想像していなかった。
「まさか? ホントにー?」
「もちろん、本気よ」
「僕は嬉しいけど、ホントにいいのか?」
「しょうちゃんはあたしのことを疑っているんでしょう?」
「そんなことはないよ」
「嘘! だったら、リアルのあたしを見せてあげるわ!」
キリちゃんは、そう言うと会う日にちを一方的に告げてチャットから落ちてしまった。
……もう落ちたのかと思うくらい、長く待たされた後のキリちゃんの豹変ぶり、人が変わったような態度に僕は驚いた。
本当にキリちゃんはリアルで会ってくれるんだろうか?
僕は半信半疑まま、彼女の指定した場所にいこうと考えていた。
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