第50話 カラダが目当てだったのね!?
四人で近所のスーパーへ買い出しに出かけ、さっそくカレー作り……、の前に干してある布団を取り込んだところでひと悶着あった。
「いやいや、なんで圭ちゃんとわたしたち三人で違う部屋なのよ」
「そうよ、せっかくのパジャマパーティーなのに」
「……さすがに変に気を使いすぎじゃないかしら」
ひと悶着と言っても俺一人の意見が通らなかっただけだが。
というか静と千亜季はともかく、佳織にも反対されるとは思ってもみなかったな。パジャマパーティーをしようと集まったわけだからして、別々の部屋で寝るのは何か違うと言われれば確かにそうだ。
佳織の言う通り変に気を回し過ぎらしい。
「あー、うん。わかったよ。三人にはもう変に気を使わないようにする」
「うむ。それでよろしい」
横柄に頷く静に思わず苦笑いが漏れる。
「圭ちゃんの隣で寝るのは譲れない!」
「あ……、私も」
いや待て。布団は三人分あって、俺の部屋にはベッドがあるんだ。
どう考えても俺がベッドだろ。
「……ちょっと! それはさすがにダメよ……!」
慌てたように佳織が待ったをかけるが、その意見には俺も同意だ。
「えー、別にいいじゃない」
「布団は三人分しかないんだぞ」
ぶーたれる静に諭すが、まったく効果がないだろうことは目に見えている。
「佳織がベッドで寝れば解決だね!」
「な、なんでそうなるのよ! あ、あたしだって……!」
あたふたと反論しようとする佳織だったが、何か不味いことでも言ったのか、言葉を途中で飲み込むと俯いてしまった。
「んんー? 『あたしだって』の続きは何かなぁ?」
静が面白いものを見つけたように、笑顔を張り付けると佳織へと迫る。
おいおい、佳織まで俺と一緒に寝たいとか言い出すんじゃねーだろうな。
「……あたしだけベッドって、……仲間外れみたいじゃない」
絞り出すような声で漏らす佳織だったが、そういうことなのか。俺自身はベッドで寝るつもりだったから仲間外れの意識はなかったが。
いやむしろ三人と違う部屋で寝るつもりだったことを考えると、自分から『仲間外れ』になろうとしてたくらいか。
「あはは! もー、そういうことにしといてあげる!」
「じゃあ四人で布団で寝ましょうか」
名案とばかりに千亜季が挙げた言葉に、俺以外の三人が賛成するのだった。
うん。これはもう断れないね。
四人で作るカレーは楽しかった。
じゃがいも人参玉ねぎの他に、春らしくアスパラガスと春キャベツを投入してみたけど美味かった。
そして夕飯の後と言えば……。
――そう。風呂だ。
「じゃあもう四人で入ろうよ!」
「そ、それはダメよ!」
静が名案とばかりに提唱するが、佳織が必死になって抵抗している。
まぁ俺がいるから当たり前と言えば当たり前なんだろうが、それよりも他に理由はある。
佳織も幼馴染の俺の家の風呂の事情くらいは知ってるだろう。
「いや、狭い風呂なんだから、四人なんて無理に決まってんだろ」
というか一般家庭で四人入れるような広さの風呂がある家なんてそうそうないか。
「ええー?」
俺が冷静にツッコミを入れると、興奮していた静もさすがに落ち着いてきたようだ。
「……残念」
って千亜季、お前もかっ!?
それにしても、変に気を使うことは止めるとは言ったが、さすがに風呂に一緒に入るのは別じゃねーか?
「じゃあわたしと圭ちゃんの二人で入るってことで」
ニヤリとした表情で告げる静だが、それでもちょっと待て。
「あっ! 静ちゃんずるい!」
「なんで一人ずつじゃねーんだよ……」
「そ、そうよ! 今はこんなんだけど、圭一は……」
「そうだぞ。元々俺は男だぞ?」
佳織の言葉を引き継いで自ら告げるが、もちろん知らないはずはないだろう。
「今は女の子じゃない」
「……それはそうかもしれないけど」
「むしろなんでそこまで俺と一緒に入りたいんだよ……」
呆れを滲ませて呟くが、俺自身は特に何かあるわけでもない。自分からは言わないが、すでに佳織と一緒に風呂に入った身だ。誰と一緒だろうが問題ない。
むしろ今の自分の姿を思えば、男と一緒に入る方がまずい気がしている。いや、気がするまでもなく危険だ。
「いやだって……、気になるじゃない?」
「……何が?」
「だからほら……」
あー、そういうことね。本当に女になったのかが気になるってことなのかな。
そりゃ気にならないはずはないか。俺も隅から隅まで確認したし。
――いや。
むしろ逆に考えるんだ。
この場で確認してみたいとか言われれば、それこそ体育の後の滝本事件と同じになってしまう。
それがお風呂でとなるとなんと自然なことか。
「圭ちゃんのカラダ――」
「だ、ダメーーーー!!」
まぁいいかなと思い始めてきたところで割り込んできたのは佳織だ。
静が言いかけたセリフに合わせて、せっかく返しの言葉を思いついたというのに、なんてタイミングだ。
「け、圭一とは……、あ、あたしが入るの!」
なんだって?
……佳織が? 俺と? 一緒に?
思わず静と千亜季の様子を窺ってみるが、どちらも目を見開いて佳織を凝視している。
二人にとっても予想外の反応だったということか?
「佳織……」
「……はぇ?」
俺をかばうように立ちふさがった佳織へと声を掛けると、変な声と共にこっちを振り向いたが、その顔はトマトのように真っ赤だ。
「えっと……、あの……、ち、違うのよ!? ……そういう意味じゃなくて!」
どういう意味だよ。
あたふたする佳織はとりあえず横に置いて考えてみる。
前回は髪の洗い方を教えてもらったが、まだ何か教え足りないことでもあったのか。
……いや待て、女の子でお手入れが必要な個所はそれこそたくさんあるはずだ。爪や肌のケアなんかもそうだろう。俺の知らないケアが必要な個所が他にもあるかもしれん。それこそカラダ中に。
ということはだ。静への返しをそのまま佳織にしても問題ないということだな。
「佳織は俺のカラダが目当てなのか」
「――はあぁぁっ!? ……そそ、そんなわけないでしょ!!」
「「あははははは!!」」
いつもの空気に戻ったからか、静と千亜季も俺たちのやり取りを見て笑い出すのだった。
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