これが私の能力

 そこにいた者達が、今何が起こったのか理解できなかった。

 会場が静寂に包まれる。 


 静かな会場に鳴ったのは二つの音。


 ゴロンと鈴木さんの生首が転がる音。

 ドサっと鈴木さんの身体が倒れる音。


 二つの音が会場に響いた時、その場にいた全員が悲鳴を上げた。


 もうここは試合会場ではない、ここは殺人鬼がいる危険地帯だ。誰もが我先にと、この場から逃げようとする。


「いやぁああああああ!」 


 私も例外ではなかった。 

 目の前でクラスメイトが死んだ。その恐怖の根源から逃げようとした。


「どこへいくつもりだ、人間」 


 殺人鬼が手刀を作って、私にゆっくりと近づいてくる。 


 やだ、こっちに来ないで。 


 その時だった。


「……貴様の方こそ、やつでに何をするつもりだ」 


 どこからかユウが登場した。 


 そしてユウは背負い投げの要領で、殺人鬼を遠くへ投げ飛ばした。


「おい、レフリー! 今の奴、大会側が用意したデモンストレーションではないのか!」 


 ユウは、近くで腰を抜かしていたレフリーに問いかける。 

 審判がブルブルと首を横に振る。 

 どうやら、これはまさにイレギュラーな事態だということだ。 


 投げ飛ばされた殺人鬼が起き上がってくる。 

 ユウは殺人鬼と対峙する。


「おい、お前は何者だ」

「……これから死ぬ人間に、教える必要はない」

「ふん、俺好みの答えだ。……やつで、俺の後ろにいろ」 


 そう言ってユウは戦闘態勢に入る。 敵も構える。 

 しばらく見つめ合った後、二人は組み合った。 

 殴る、蹴る、防御、パンチ、キック、ガード。 敵が顔を殴ってくれば、ユウはそれを掌で受け止る。ユウが腹を蹴ろうとすれば、敵は膝でそれを止める。


「ほぉ、人間にしてはやるな」

「そいつはどうも」 


 一進一退の攻防の状態が続く。 


 だが、その状態を打破したのは敵の方だった。 


 敵は一旦後ろに下がり、ユウとの距離を取る。 

 そして相手は両手で手刀を作り、振り下ろした。 


 その時、ユウの両足から血が噴出した。 

 見ると、彼の足に、何かで切られたような跡があった。


「かまいたちか……!」 


 傷口を押さえながら、ユウは敵を睨む。


「察しがいいな。そうだ、俺は風を司る」


 風を司る? あの電撃女のように、こいつも実体化した能力者? 

 でも相手はアビリティリングをつけていない。


「鋭い風は、人間の肉など容易に切り裂く。それはまさに、見えざる刃物」 


 そう言うと敵は何度も手刀を振りかざす。 

 その度にかまいたちが発生し、ユウを切り裂いた。 

 地面がユウの血で赤く染まる。


「見えざる刃物か。武器を持った相手に素手で挑むのは、無謀だな……やつで!!」 


 私に背を向けながら、ユウは私に話しかける。


「お前のアビリティリングとカードを俺に!」

「は、はい!」 


 私は慌てて自分のリングを外す。そしてポケットから名刺入れのほどの大きさのカードホルダーを取り出す。 

 それらユウに向かって投げた。 


 彼はそれらを受け取る。 

 ユウはアビリティリングを右手首に装着した。


「なんだ、そのおもちゃは?」

「お前と対等に戦うための道具だ」 


 かまいたちマンの質問に、ユウは答える。 

 そして敵に向かって突進していく。


「対等と言っても、ただの突進ではないか。返り討ちにしてくれる」 


 敵の周りでつむじ風が発生する。どうやらパワーを貯めているようだ。


「喰らえ! 『アブソリュート・タイフーン』」 


 竜巻がユウに襲い掛かる。 


 その時ユウはホルダーから一枚のカードを取り出した。


「来い、『刀爆』」 


 ユウがそう呟くと、アビリティリングとカードが発光する。 


 光るカードから一本の刀が出てきた。ただの刀ではない。刃の部分が炎でできた刀だ。ユウはそれを握り締める。 


 描いた絵を三次元に呼び出す。 

 これが私のアビリティリングの能力、『妄想創造』。 

 そしてあの方は作品番号第二、燃える刀『刀爆』だ。


「はぁあああ!」 


 刀爆の一撃が竜巻を切り裂く。炎の斬撃に切られ、竜巻は消失。 


 そしてユウはそのまま、もう一撃。今度は敵に向かって。


「ぎゃぁあああ!」 


 敵が切り口から発火し、炎に包まれる。 

 殺人鬼は火だるまになり、もがく。そして、敵は灰になって消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る